第83話 さてと、隣国に向かいますよ。

 テシテシ、テシテシ、ポンポン、、、。はい、毎朝恒例の朝起こしです。今日はコカトリスさんはおりませんでしたので、今回はマーブル達の勝利です、って何を彼らは競っているのだろうか、、、。



 朝の挨拶+モフモフを味わっていると、コカトリスさんが「コケーッ!」と鳴きながら慌てて入ってきた。今回は勝負云々ではなく純粋に寝坊したようだ。コカトリスも寝坊するのか、始めて知った、、、。マーブル達と軽く話をして、いつもの卵の差し入れを置いていってくれた後にジェミニから聞いた話だ。何でも自分たちも援軍に参加したい!! とカムドさんに直訴しに行ったらしく、カムドさんに一羽ずつ論破されたらしく、それが夜遅くまで続いたらしい、、、。カムドさん凄ぇ、、、。でも、今日は寝不足で大変だろうから、その分フェラー族長に頑張ってもらいましょうか、といっても、特に変わったことなどなさそうだからどうにでもなるかな。



 朝食を終えて、マーブル達とモフモフしてメンバーを待っていると、しばらくしてようやくウルヴ達がやってきた。



「アイス様、お早うございます。準備は整っておりますか?」



「ああ、ウルヴ達もおはよう。こっちは大丈夫だけど、みんなは大丈夫かな?」



「ハッ、我ら全員準備は整っております。」



「よろしい。あ、そうだ。ラヒラス、木騎馬の予備ってある?」



「あるにはあるけど、5個しかないよ。残りは騎馬隊に預けてあるから。メンテはしっかりとやっておいたから大丈夫だと思うけど、何で?」



「ひょっとしたら必要になるかもしれないと思ってね。その5個を持ってきてくれる?」



「ああ、そう言うと思って実はしっかりと用意してあるよ。」



「流石だね。そういえばアイン、行き先への道中やタンバラの街に関しての情報は集まった?」



「集められるだけは集めたけど、別段変わったものはなかったな。とりあえず、今報告しなきゃならないのは、サムタン公国軍がタンバラの街に到着するのは、早くて今日より一週間後くらいだな。兵力は3000くらいらしい。」



「なるほど。少し急いだ方がいいかな。あと、タンヌ王国との国境をつないでいる街道についてだけど、順調に通れそうかな?」



「それについては問題ありません。国境の兵士にも話は行っておりますので、援軍と伝えれば国境は通過できるものと思われます。」



「まあ、普通はね、、、。」



「いやさ、普通に援軍としてそれなりの数で行軍していれば問題はなさそうだけど、これから援軍に行くメンバーを考えてごらん? 人間4人に猫とウサギだよ。大丈夫かな、、、。まあ、行ってみてから考えますかね。」



「確かに、援軍と言っても説得力皆無だよね。普通の人から見れば、猫とウサギが主力なんて信じられるわけないしね。国境の兵士に凄腕がいればわかるかもしれないけど、基本的に無害のトリトン帝国との国境だからね、それは期待できないかな。とはいっても、国境の通過はどうにかなると思うよ。そのための木騎馬の予備だよね?」



「やはりラヒラスはお見通しか。私も恐らくどうにかなると思っている。」



「2人では理解しているのだろうが、俺らにも詳しく教えて欲しいのだが。」



「いや、アイン、行けばわかるよ、行けばね。ヒントは、何だかんだ言って、ラヒラスが嬉しそうにしていることからも少し察して。」



「なるほど。ラヒラスがね、、、。ということは、私達にとっても嬉しいかも知れないということかな?」



「ああ、そういうことか。理解した。じゃあ、急いで向かうことにしようか。アイス様、さっさと出発しよう。」



「何となく察してしまったか。まあ、恐らくみんなの予想であっていると思う。では、早速出発するとしますか。フェラー族長、見送りは不要だから、みんなには通常通り過ごしてと伝えて。あと、今日はカムドさん寝不足だから、早く仕事を切り上げるもよし、少なめに振り分けて負担を軽くするもよし、その辺は任せるから。」



「わかりました、ご主人。それではお気を付けて行ってらっしゃいませ。」



 そう言って、私達はタンバラの街へと向かう。通常であれば、援軍とはいえ領主が出陣するので、見送りに来るのだろうが、ここはフロスト領、私が治めている場所である。そんなものは不要。よそはよそ、うちはうちである。それにどう見ても援軍に行く装いではないし、、、。



 というわけで、いつも気軽に出かける感覚でフロストの町を離れる私達だが、今回は距離もそこそこあるのでとりあえず全員木騎馬に騎乗しての移動だ。領都(といっても現在フロスト領の都市はここだけ)から街道へとつながる道を進んでいるが、かなり改良されて走りやすくなっている。どう改良されたかというと、馬車用道路と騎乗道路に加え、歩行者用の道路まで完備されていた。それがフロストの町方面と街道方面と上下に両方作られていたのだ。騎乗状態で移動しているときに、フロストの町へ来る者、フロストの町から離れる者それぞれ少人数ではあるが見かけることができた。あとは、馬車用の道路はまだ建築途中らしく、造成班のメンバーらしき人達が元気に作業をしていた。こうやって直に発展している様子を見るのもいいものだ。私達一行に気付くと、作業していた者達が全員手を振ってきたので、こちらも手を振ってそれに応えた。



 フロストの町の道路から3キロほど進んでようやく街道と合流した。本来であれば街道の方が立派のはずなのに、かなりみすぼらしく感じた。ちょっとやり過ぎた感はあるけど、まあ、トリトン帝国だし、そこは、ね。



 ちなみに、道路と街道のつながり部分には標識を置いてある。もちろん行き先を間違わないようにするためである。というのも、意識していないと私自身が道を間違える可能性があるため、念には念を入れて設置しておいたのだ。そんなことしなくてもわかる、という意見が圧倒的多数の中、珍しく領主権限で強行採決してこの形になった。私以外にも同士はいるはずだ。



 街道に入って、タンヌ王国側へと道を進める。ちなみに、トリトン帝国からタンヌ王国に移動したときに最初にある町がタンバラの街らしい。おかしいなあ、確か前世の記憶だと逆側だったような気がするけど、気のせいかなあ。まあ、実際にそういうことになっているのだから仕方がない。援軍も出しやすいからその方が都合が良いのは間違いないけど。



 街道では特にこれといった問題もなく順調に進んでいた。正直状況が状況なので、何かしら妨害工作として仕掛けてくるかと最低限の備えはしておいたが、徒労に終わった。まあ、何事もないのが一番だけどね。



 暗くなってきたので、進むのはこの辺にしておいて野営という名のねぐらへと転送だ。ねぐらへと移動した後、夕食の準備をした。折角ねぐらへと戻ったのに、用意していた戦時食を食べても味気ないと思ったからだ。ねぐらには常時何かしらの肉は貯蔵しており、私とマーブル達との4人で1年は満足に食べられる量を蓄えてあるので、たまにはそっちから消費するのもいいだろうと思ってのことである。



 今日はそれほど動いていないとはいえ、木騎馬はわずかではあるが、魔力を消費して動かすものなので、これだけの長時間だと何かしらの疲労はある。実際魔力のない私は魔力こそ消費していないが、ずっと乗りっぱなしの状態だったため、結構疲れはでているのだ。



 たらふく夕食を食べた後、風呂と洗濯を各自で済ませると、少し早いが寝ることにした。何だかんだで援軍として向かっている以上は出来るだけ早く到着した方がいい。また、以前とは違って街道も以前とは比べると通行する人も増えているので、木騎馬とはいえ全速力で走るのはまずいので、通常の騎馬より少し速い程度の速度でしか移動できないのがネックだ。



 いつも通りマーブル達に起こしてもらって、朝食を用意して食べて、すこし休息を摂ったら昨日設置した転送ポイントへと移動して、再び進軍開始だ。昨日は全速力で行けないなどと言ってはいたが、いい加減飽きてきたのでさっさと到着するために、今日は気配探知を全力でかけて移動する。半径1キロ以内に旅人や行商人の気配を感じたら、速度を落とす作戦に切り替えた。盗賊や魔物の場合は人数にもよるけど、少人数なら無視して先を進むことにして、大人数の時に限って迎撃することにした。



 と、こうやってフラグを立てたにも関わらず、昼頃には何事もなく全速力の状態で国境付近に到着してしまった。国境では兵士達が門番を兼ねて守備していた。やはり隣国違いとはいえ、戦時シフトに切り替わっているために何やら物々しかった。



「止まれ。戦時下につき、ここは封鎖中だ。用件を述べてもらおう。」



「役目大義である。私達は貴国より依頼を受けて援軍に参った。」



 兵士長らしき人物が話してきたので、素直に用件を言うと、兵士長らしき人物はたちまち態度を改めてこちらに接してきた。



「おお、援軍の方達ですな。我が国の援軍要請に応えて頂き誠にありがとうございます。」



「あれ? 援軍とはいえ、これだけしか人数が来ていないのに通常通りの対応なんだね。」



「ハッ。とあるやんごとなきお方から、援軍はごく少数で来るはずだからと仰せつかっておりました。」



「なるほど、そのやんごとなきお方は今こちらにいるのかな?」



「はい、これよりご案内致します。」



「では、お言葉に甘えさせてもらいますか。」



 そう言って、兵士長らしき人物の後をついていく。恐らくそのやんごとなきお方はよく知っている人物のはずだ。とある部屋へと通されると、案内してくれた人物がその部屋の前で口上を述べた。



「失礼致します。トリトン帝国伯爵。アイス・フロスト様ご一行がお見えです。」



「ご苦労様。お通しして。そなたは任務に戻るように。」



「ハッ。アイス・フロスト伯爵、こちらへとお入りください。では、私はこれにて。」



 私達に一礼して、案内してくれた兵士長らしき人物は下がっていった。部屋の中へと入ると、やはり見慣れた人物がいた。



「ようこそ、アイス・フロスト伯爵、此度はこちらの援軍要請に応えてくださり感謝いたしますわ。」



「アンジェリカさん、お久しぶりです。しかし、どうして少人数且つ、私が率いてくるとわかったので?」



「簡単ですわ。領土の守りも疎かに出来ない状態で援軍を出すとなると少数精鋭が基本です。ましてフロスト領からの援軍です。アイスさん達4人に加えて数名程度が来ることは明白です。ワタクシはそうなると見てわざわざトリトン帝国に援軍要請したのですわ。」



「なるほど。そういったことも含めての我が国に対する援軍要請だったのですね。」



「そういうことですの。他にも理由はいくつかありますが、これ以上はお話する気はございません。」



「何となくわかる気がするので、これ以上は詮索しません。それで、タンバラの街へはいつ出発するのですかね?」



「いえ、タンバラの街へは向かうにしても、タンバラの街へは入りませんわ。」



「なるほど。何か考えがあるようですね。それはお聞きしてもよろしいですか?」



「ええ、お話ししますわ。元第2王子であったアテイン兄上、兄上と呼ぶのも嫌気が差すので、これからは呼び捨てにいたしますが、アテインを擁してこちらに攻め込むサムタン公国軍の数は3000。対するタンバラの街の守備隊は500。数の上ではこちらがかなり不利ではありますが、守備隊長のモウキを始め、その500の中には、近衛兵長のランバラルや王国軍の軍団長であるオルステッド、魔術師長のローレルが密かに混じっておりますの。正直防衛だけなら全く問題なく蹴散らせるのですが、、、。」



「なるほど。他に要因があるということですか?」



「ええ、それに合わせて盗賊や魔物がそれに呼応してタンバラの街へと襲いかかってくるそうですの。いくら密かに精鋭を用意していても、そちらには対応できませんの。ですから、アイスさん達には、タンバラの街に攻め寄せてくる盗賊や魔物達の対応をお願いしたいですわ。」



「なるほど。そういうことですか。確かに、私達はそちらの対処の方が性に合っていますね。」



「それに、あくまで防衛戦の主役はワタクシ達タンヌ王国である必要がありますの。折角援軍に来て下さった皆様には申し訳ないのですが、、、。」



「ああ、そちらについては問題ないですよ。こちらとしては存分に戦えれば文句はないわけで、別に手柄ほしさに来たわけではないので。」



「アイスさんらしいお言葉ですわね。感謝のしようがありませんわ。」



「ところで、盗賊達と魔物が呼応するとのことですが、盗賊達と魔物が戦うということはあるのですか?」



「いえ、サムタン公国軍にいる魔物使いが恐らく魔物達を率いてくると思いますの。盗賊達に紛れてね。」



「ふむふむ。ということは、魔物使いを最後に倒すようにすれば、魔物と盗賊は狩り放題ということでよろしいですね?」



「ええ、そういうことになりますわね。もちろん、そちらの戦いには私達も参加致しますわ。」



「え? アンジェリカさん達はタンバラの街の防衛戦に参加しなくてもいいので?」



「ええ、今回の防衛戦の指揮はモウキにさせました。2度と侵攻してこないように、あくまで街の守備兵のみで蹴散らしたという実績が欲しいので、ワタクシが加わってしまうと、ワタクシが指揮官になってしまいますので、、、。」



「なるほど、事情は承知しました。では、私達はどう行動すればいいか教えて下さい。」



 国境砦の一室で細かい話し合いを済ませて、ここで一泊した。情報によると、まだ襲撃まで数日あるそうなので、しばらくは国境付近で暇つぶ、、、いや、共同作戦の訓練として狩りを行った。

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