第84話 さてと、お迎えする準備だね。



前回のあらすじ:援軍としてタンヌ王国へと向かい、アンジェリーナ王女と合流した。


 今現在、私達はトリトン帝国とタンヌ王国との国境にある建物内にいる。ここの国境付近は警戒がメチャクチャゆるかった、というのも、今でこそフロスト領として街開発をしている最中だけども、元々は何もない荒廃した地域が広がっているだけであり、それでなくとも貧しくて有名なトリトン帝国領である。トリトン帝国から出て行く人はいても、逆にトリトン帝国へ行く人はまずいない状況であった。本当にあそこ、何もなかったもんなあ(遠い目)、、、。



 アンジェリカさん曰く、攻めてきたサムタン公国の基本戦術として搦め手を使って攻めてくるそうだ。搦め手を使って相手の注意をそちらに向けさせて、主力をたたき込んで相手を倒す戦術のようだ。しかも、相手にそれがわかっていてもそのように行動せざるをえない状況を作り出すのが得意なようだ。普段なら相手方の有力者を籠絡するのが基本だけど、今回は追放された元王子を擁しているため、有力者がそれに応じることはないため、盗賊を使って搦め手としているようだ。また、それだけでは荷が重いので、補助として自慢の召喚師だか魔物使いだかを投入しているようだ。



 って、ここまで手の内が読まれているサムタン公国って大丈夫か? タンバラの街には超精鋭が兵士として控えているし、搦め手対策として、戦姫という過剰戦力である。てか、これ私達って必要か? 恐らくタンヌ王国側ではアテインという馬鹿を支持する勢力は今の王国では皆無だろうし、仮にいたとしても、特にタンバラの街では全くと言って良いほど影響力はないだろうから、恐らく入ってくる情報も最低限でしかないだろうからどうするんだろう? 冒険者に手を回すとしても、戦姫がいるタンヌ王国側から協力者が出てくるとは思えない。現に、逆にこれほどの対策を取れるくらい向こうの情報は筒抜けなのである。



 まあ、それはそうとして、問題は盗賊ではなく襲撃してくる魔物についてかな。召喚師にしても魔物使いにしても、1人だけであると、それはそれで問題だ。何より手応えがなさ過ぎる。心配しているのはそっちだ。たまには大暴れしたくてついてきたアイン達だけど、手応えのない相手だと逆にかわいそうだ。仕事そっちのけで着いてきたようなものだから、フロストの町へと戻ったらしばらくは溜まった仕事をこなさないとならない。スッキリと仕事に戻ってもらうためには、満足のいくまで大暴れしてほしいものだ。まあ、最悪私達は何もせずにアイン達に暴れてもらいますかね。そのことを後の会議では提案するとしますか。



 ・・・・・。今現在会議が始まったのですが、何故私が仕切る形になっているのでしょうか? 参加しているメンバーについてだけど、私、マーブル、ジェミニ、ライム、そして、ウルヴ、アイン、ラヒラス、後は、アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん、それとカムイちゃんという、ある意味いつもの面子といっても過言ではない状況だとしてもだ。普通はアンジェリカさんが仕切るのではないのか? 身分的には圧倒的に戦姫達の方が上である。まして、今回は冒険者のアンジェリカさんではなく、王位継承権を持つアンジェリーナ王女の立場としているのだ。一応、その意図を聞いてみる。



「アンジェリカさん、いえ、アンジェリーナ王女。何故私がこの場を仕切り、更には搦め手に対する総大将をすることになっているのですか?」



「何故って? このメンバーでの行動なのですから、アイスさんが指揮を執るのは当然ではないですか。」



「いやいや、いつもならそうかもしれませんけど、今回はタンヌ王国との軍事行動ですからね。」



「軍事行動かどうかはどうでもいいのですわ。重要なのはこのメンバーでの行動ということなのです!」



 アンジェリカさんが力説していて、それにセイラさんとルカさんばかりでなく、ウルヴ達もそうだけど、何故かマーブル達まで賛同している。これ、私おかしくないよね?



「はあ、わかりましたよ。では、いつものノリでいきますね。」



「それでこそ、アイスさんですわ!!」



「それでは、今回の目的ですが、私達の役割は、タンバラの街へとちょっかいをかける搦め手の殲滅ということで間違いないですか?」



「ええ、それで間違いありませんわ。何か心配事でもおありですの?」



「実はですね、今回の援軍に関しては、私とマーブル達だけで来る予定だったんですよ。でね、そうしようとしたら、アイン達がたまには大暴れしたいと言ってきてですね、それに折れて、彼らが一緒に参陣してきたわけなんですよ。彼らにはフロスト領に戻ってから溜まっているであろう大量の仕事が待ち受ける状況になるにも関わらずね。そういうわけで、召喚師だか魔物使いだか知りませんが、1人しかいないというショボい状況になったらですね、私達は何もせずに彼らに暴れる場を設けたいなと思った次第です。」



「なるほど。そういうことですのね。わかりました、仮にそう言う状況で搦め手がショボい状況になりましたら、アイン達に活躍の場をお譲りしますわ。」



「そう言ってくれると助かります。ところで、そのキーマンの人数は把握できておりますか?」



「残念ながら、そこまでの情報は掴んでおりませんわ。ただ、恐らくあと数日でタンバラの街に向かうでしょうから、これは予想ですけど、盗賊達と一緒にいるはずですわ。」



「なるほど、では、その盗賊のアジトを調べればいい、ということですね。で、そのアジトの場所は把握しているのでしょうか?」



「問題ありませんわ。もっとも、盗賊達はワタクシ達がアジトの場所を特定していることに気付いてはいないでしょうが。タンヌ王国の強さを対外的に誇示できるのと同時に、領内に巣くったゴミの片付けもこれではかどりますわね。」



「そういうことであれば、早速何人いるか確認してもらいますかね。ということで、カムイちゃん、よろ。」



「承知しました。ところで、盗賊とキーマンの区別はどうやってすればいいの?」



「ああ、それは簡単だよ。壊滅的に汚れているのが盗賊で、そこまで汚れていないのがキーマンである召喚師だか魔物使いだか知らないけど、それがサムタン公国の人間だから。」



「えー、、、もっと具体的な区別の仕方ってないの?」



「いや、実際見てみるとわかるよ。匂いで判別するのが一番良いかもしれないけど、それだと鼻が潰れると思うからオススメできないし、それは禁止とさせてもらうよ。これからもカムイちゃんには斥候として大いに活躍してもらわないとならないからね。まあ、実際現地で見てみればわかるよ。最悪わからなくてもいいから。」



「承知しました。直ちに向かうよ。」



「よろしく。上手くいったら新作のデザートね。失敗したら以前作ったデザートね。これはカムイちゃん用に用意するから。とにかく無理はせず無事に戻ってくるのが一番の功績だから、その辺はしっかりと理解しておいてね。」



「はい、では、行ってきます!」



 そう言って、カムイちゃんはこの場を離れた。その一方で、とある言葉に反応した女性陣が詰め寄ってきた。



「アイスさん、新作のデザートって一体何なのですか! それに以前作ったデザートとは! 以前作ったデザートについてはワタクシ達が食べたことのあるものなのですか?」



 美女3人に囲まれるのは良いことかも知れないが、これは単に詰め寄っているだけだ。正直怖いです。ちなみに、以前作ったデザートというのはプリンのことである。恐らく戦姫の3人は食べたことがないはず。やべぇ、鳥肌立ってきた。どうやってこの場を切り抜けようかな、、、。そんなことを考えているときにドアをノックする音が聞こえた。



「王女殿下。昼食の準備が整いました。」



「ご苦労様。いつもありがとうございます。いつも通りそちらに向かいますわ。」



 昼食の時間らしい。私達の分も用意してあるらしいのでそちらに向かう。



 食事をする場所は屋根こそついているが、部屋とは言えない感じだった。そんな部屋とは呼べない状態の場所でも構うことなく一般兵達と平然と一緒に食べようとする戦姫の3人。流石としかいえない。しかも誰一人嫌そうな顔をしていない、というか彼女たちって宮殿とかで食事をするときの方が嫌な顔するんだよね。



 食事の内容だが、干し肉と硬いパンとスープである。聞くと、いつもこんな感じらしい。ということなので、私達の方で食事を提供することにした。タンヌ側で出してくれた食事は保存食だから、後で食べても問題ないよね、ということで折角の縁なので、こちらで用意したものを一緒に食べようと思ったのだ。本音では、美味しくない非常食を食べたくないというのが一番強かったりする。あとは、美味しいものはみんなで分かち合うのが大事だとも思っている。



 そんなわけで、タンヌ王国側で出してもらった食事を撤収してもらって改めて、私達が用意しておいた食事を空間収納から次々に出していく。国境の警備とはいえ、基本的に衝突がないので、警備兵も非常に少なく、全員を含めても10人いないようだ。たくさん用意したので、みんなには遠慮なくガンガン食べてもらうとしましょうかね。ちなみに今回の昼食は、醤油ベースの焼きおにぎり(もちろん焼きたての状態から収納してあるからバッチリ焼きたての状態だ。)に、山羊肉と羊肉と一緒に炒めた野菜炒め? と、後は卵汁である。味付けはこちらも醤油ベースにしておいた。



 そんなメニューを次々にテーブルに置いていく。ウルヴたちがそれを並べたりみんなのところに配っていくが、タンヌ王国の兵士達は匂いにつられて呆然と見ているだけだ。まあ、最初の反応はどうしてもそうなるよね。家庭料理ではあるが、これらは基本的にはフロスト領でしか食べられないものだからね。料理の数々を見て呆然としていたが、やがて我に返った兵士長が聞いて来た。



「フロスト伯爵、失礼ながら、それらの品々は伯爵が普段召し上がっている食事なのですか?」



「うん、確かにこれらは私が普段食べているものだけど、これらは領民も似たようなものを食べているよ。」



「えっ? 伯爵領ではいつもこういったものを?」



「うん、そういうことだから、みんなも遠慮せずに食べて欲しい。お気に召すと嬉しいんだけど。」



 兵士長が焦っていると、アンジェリカさんが兵士長に話した。



「兵士長、遠慮なさることはありませんわ。フロスト伯爵のおっしゃった通り、これらの品々はフロスト領では当たり前のように食べられている食事ですの。ワタクシ達もフロスト領の領民達と一緒に何度か食べているから間違いなくてよ。」



「王女殿下もこれらの食事を食べたことがおありで? しかも、領民達と一緒にですか?」



「ええ、兵士長達も知っての通り、ワタクシ達は普段冒険者として一市民と同様の生活や食事をしておりますから。でもね、兵士長、これらの料理、恐らくフロスト伯爵ご自身でお作りになっておりますわよ。」



「なっ、は、伯爵自らですと!?」



「流石は王女殿下ですね。今回の遠征用にタップリと作っておいたから遠慮せず食べてくれるとこちらとしても嬉しい。」



「伯爵の料理はたくさんご馳走になってますからね。見ればすぐにわかりますわよ、フフッ。」



 アンジェリカさんが得意げに言うと、セイラさんやルカさんも一緒に頷いている。



「まあ、そういうわけでして、冷めないうちに頂きましょう。私が音頭を取るのは僭越ですが、食事の材料になってくれた植物や動物たちに感謝の気持ちを込めて、頂きます!!」



 私の音頭で昼食を食べ始めた。私やマーブル達はもちろんのこと、ウルヴやアインやラヒラスといった直臣達、何度も食べているアンジェリカさんたちはガンガン食べ始めていたのに対し、タンヌ王国の兵士達は最初こそ遠慮気味ではあったが、一口でも食べ始めると、みんな口々に「何だこれ? うまいぞ!!」みたいな内容の感想が出てきて、それからは彼らも遠慮なく食べるようになった。うん、気に入って頂けて何よりです。



 昼食が終わって、兵士達が私にお礼を次々に言っては、任務に戻っていった。みんないい顔をしていた。やはり良い仕事をするには、良い食事が必要不可欠だなと改めて思った。ちなみに偵察に行ったカムイちゃんはこれらの料理を食べていない、というのも、ゴブリン族のみんなは、こういった斥候や戦闘などの任務前には違う食事を食べるそうで、そうしないといつものポテンシャルを発揮できないそうだ。



 私達はどうしていたかというと、ラヒラスは木騎馬の調整やメンテナンスをしており、アインは兵士達に交じって補修作業を手伝っていたり、ウルヴは王国の騎馬兵と一緒に偵察任務をしていた。ちなみに私はアンジェリカさんに盗賊達が通るであろう進路やこの辺りの地形についていろいろと聞いていた。



 しばらくしてカムイちゃんが戻ってきたので、話を聞いた。



「アイスさんの言った通りだった。汚れ具合があんなに違うとは思わなかったよ。おかげで匂いかがずに済んだのはラッキーだったね。」



「そこまで違ったんだね。で、公国側のキーマン達はどれだけいたかな?」



「結構いたね。20人くらいかな。連中、姫達がこちらにいること知っているみたいだよ。それで、姫達を捕まえたらとか、頭の中お花畑状態だったね。それで、一緒にいた盗賊達も大張り切りになっていたね。馬鹿だよね、実力差もわからないくらい身の程知らずだったよ、連中は。」



「なるほど、20人か。これなら私達も活躍できそうだね。これは一つど派手にいきたいですな。」



「アイスさん、、、。少年らしからぬ黒い顔をして、一体何を企んでいらっしゃるのやら、、、。」



「少年らしからぬとは失礼な。これでも齢15位の若造ですよ、人聞き悪いですね。」



「アイスさん達を知っている私達からしたら、どの口がおっしゃっているやら、ですわね。」



 アンジェリカさんが呆れながら言うと、セイラさんやルカさんも一緒にうなずいていた。解せぬ。



「まあ、悪いようにはならないと思います。要は公国側に対して、一体誰に喧嘩を売ったのかを思い知らせると同時に、二度と舐めた真似をさせないようにするための作戦ですからね。」



「まあ、ワタクシ達はアイスさんの指示通りに動きますから。あ、カムイちゃん、任務お疲れ様。少し遅いけど、昼食食べて。」



 そう言って、カムイちゃん用に食事を出す。内容はみんなで食べたものと同じである。カムイちゃんは出された食事をペロリと平らげた後、こちらをじっと見る。あ、はいはい、約束の新作デザートですね。



「あ、例の物ね。まだ試作段階だけど、はい、どうぞ。」



 そう言って、取りだしたのはベイクドチーズケーキだ。牛乳をいろいろと加工してできたものではあるけど、正直まだ納得のいく状態ではなかったけど、試しに焼いてみたところそれなりの味には仕上がっていたので仮だけど一応新作だ。ちなみに、私はもちろん、マーブル達も試食済みではある。気に入ってくれはしたものの、私自身材料がまだしっかりとしたものではないので、もう少し研究が必要だと思う。



 それを見た戦姫の3人は思い出したように詰め寄ってきた。やべ、折角ごまかせたのに再燃させてしまったようだ。まあ、この3人しかいないし観念しますか。



「根負けしましたので、3人にはこれを差し上げます。」



 と言って、少し作っておいたプリンを3人に出す。まだ、バニラ系の香りのするものが手に入ってないからこれも正直試作の域を出ていないけど、領内でも好評だったから、たまに作っては領民達に食べてもらっている。とはいえ、味はヤバイくらい美味い、というのも、コカトリスさん達からもらった卵を使っているからであり、それでなくては、この味は無理だ。



 3人が恍惚の表情になり満足してくれたのでとりあえず私の身の安全は確保された。作戦を詰めるから、と言って3人と別れた私達は、人のいないところへと移動した。



「さて、今回の討伐戦ですが、相手の数は確保できるようなので、派手に戦いたいと思いますが、折角なので普段とは違うものにしてみたくはないかな?」



「ニャ?」



「普段とは違うものですか?」



「ボクは、あるじの言うとおりにするだけー。」



「うん、今回は合体技、しかも4人全員のやつと、アンジェリカさん達を巻き込んだやつの2種類を考えているんだ。」



 それを聞くと、3人とも嬉しそうな反応を示してくれた。賛成も得られたことで、どういったものにするかを3人に話すと、みんな乗り気になってくれた。乗り気になったところで、具体案を出して、可能かどうかを確かめる。特にジェミニが今回の肝である。何とか大丈夫とのことだったので、その案で行く予定である。もちろん、万が一に備えて、個々で対応できるようにもしておくのは言うまでもない。



 そんな感じで、迎え撃つ準備はできた。あとはこちらに、というかタンバラの街目指してさっさと来てくれるのを待つだけであった。

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