第41話 さてと、報告会です。



 当人が望んでいない状態で召喚されてしまったドラゴンと、その魔方陣を破壊してスタンピードは終了したはず。これで森に関しては狩り採集班からの情報で大丈夫になったと思う。住人が増えたら情報収集の担当も用意しておかないとね。とにかくフロストに到着したら報告を聞きましょうかね。マーブル達とのんびり帰りたい気持ちもあるけど、遅くなると面倒だから急いで帰るとしましょうかね。



 全速力でフロストへと向かい、暗くなり始めた頃にようやくたどり着いた。領内は宴会騒ぎだ。といっても残念ながら酒はそれほどないので、ほぼ水というのが領民達に対して申し訳ない気持ちがあるけど、まともな商人はまだ来ないし、酒を造れるほどの穀物の余裕もないからねえ。



 領民の1人が私達を見つけると、大騒ぎになり、少々面倒なことになった。無理矢理引っ張られて宴をしている場所の真ん中に据え置かれてしまった。領民達の嬉しそうな表情を見ると報告を聞くどころではない状態であるため、報告は今日聞くのはあきらめて、明日ということになった。何か水を差すのもなんだしね。



 宴は夜遅くまで続いたが、酒がそれほどなかったせいか、用意していた食べ物が無くなると自然と片付けをして終了という流れになった。片付けではライムが大活躍で引っ張りだこだった。領民も一致団結して片付けを行ったので結構あっという間だった。片付けが終了すると、領民達は自分の家にそれぞれ戻ったが、野ウサギ族は今日はシロツメクサの畑で夜を過ごすそうだ。今回大活躍だったから、思う存分楽しんでね。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン。3人に起こしてもらって気分よく起きる。3人に朝食を作り一緒に食べてから少しまったりしてから、アインがこちらに来たので、会議場へと移動した。会議場ではフェラー族長以外の主要人物が揃っていた。



「みんな、昨日までいろいろと大変だったね。まずはお疲れ様、そしてありがとう。早速だけどそれぞれ報告を聞こうと思う。まずはこちらの結果だけど、第一陣から第五陣まで順調に仕留めることができた。で、第五陣は地龍が3体だったので、これを倒してから元凶と思われる森を進んでいったんだけど、魔方陣が作られてあって、それが今回の原因だと私は見ている。」



「ちなみに、その原因は何だったの?」



「ドラゴンゾンビだった。」



「ドラゴンゾンビ? うわぁ、よりによってドラゴンゾンビなんだ、、、。」



「恐らく、当人達は何かしらの種類のドラゴンを召喚したかったのだと思うけど、魔方陣の構成も未熟な上に込められた魔力もショボかったようで、出てきたのが変な状態だったようだけどね。」



「なるほど、それだけ中途半端な状態でしか召喚できていないということは、仕掛けたのがあのお三方でほぼ確定かな。それで、『お礼』はどうする予定かな?」



「『お礼』は最初から決めてあるから大丈夫。先日作ってもらった超大容量のマジックバッグを送らせてもらおうかと思っているよ。4つ分ね。」



「4つ分? お三方の分だけではなくて?」



「そう、4つ分。これはお三方+皇帝陛下の分ね。」



「ああ、なるほど。でも、4つとも時間経過するタイプのやつだけど大丈夫?」



「それで問題ない。時間経過するやつでないと、しょうも無いことに使いそうな気がするから。」



「確かにそうだな。で、わざわざ『お礼』と言っているんだから、何かあるんだよな?」



 ラヒラスと話しをしていると、アインが気になるらしく聞いて来た。



「もちろん、ところで、第一陣から第五陣までの倒した魔物達はしっかりと袋にいれてあるよね?」



「はっ、もちろんそれは抜かりありません。」



「よろしい。では、ウルヴ。マーブルに付与してもらった3つの大容量のマジックバッグとそれと同じ袋を1つ持ってきてくれるかな?」



「はっ、しばしお待ちを。」



 ウルヴは部屋を出て、袋を持ってきた。



「お待たせしました。こちらです。」



「ありがとう、では、最初にマーブル。この袋にも同じように付与してもらえるかな?」



「ミャア!」



 マーブルに何も付与していない袋を渡すと、その袋に魔法をかけてマジックバッグの完成。ちなみに1秒もかかってない。



「いつもながら、流石の仕事。」



 お礼といわんばかりにマーブルをモフる。ジェミニとライムも同じように流石だと感心している様子。ウルヴ達は見慣れているのか特に反応はなかったが、族長やレオは唖然としていた。



「さてと、ではここからが本題だけど、族長達は第一陣で倒したゴブリンが入っている袋をそれぞれこの3つの袋に移し換えて欲しい。やり方はウルヴに聞いて。で、ウルヴは入れ終わった後に保存効果のある魔導具をその袋に放り込んで欲しい。で、ラヒラスはその魔導具は完成しているかな?」



「問題ないよ。そのマジックバッグでもしっかりと2週間くらいで効果が切れるのは確認してあるから問題なし。」



「フロスト様、その入れ替え作業ですが、普段の仕事はどうするので?」



「ああ、袋を入れ替えるだけだから、手の空いている人達だけでも十分だから、普段の仕事を優先させて。」



「わかりました。」



「あと、ラヒラスはマジックバッグを入れる箱を作って欲しい。特定の人だけが開けられる鍵をつけた金庫的な魔導具として作れば作れるはず。」



「了解したよ。で、素材は何で作れば良いかな?」



「皇帝陛下用には、エビルトレントを使おうか、お三方にはダークアルラウネでいいか。」



「そうだね、どちらも見栄えがいいし、エビルトレントに至ってはかなりの稀少品らしいからね。」



「じゃあ、よろしく頼むよ。『お礼』についてはこれでいいかな。では次の報告だけど、本隊でのスタンピードの状況を聞きたい。」



「では、私が。第二陣はオークが167体で、そのうちオークリーダーが17体おりましたが、ほぼゴブリンと同じような結果です。私が突撃して2つに割り、ラヒラスは私の進行方向での補助。ばらけたところで野ウサギ族のみんなが攻撃、といった感じでした。」



「おお、みんな流石。で、戦果はどうかな?」



「言うまでもなく全滅させました。戦果ですが、私は通常種10体のリーダー種3体、ラヒラスは通常種5体、リーダー種10体、残りは野ウサギ族が狩りました。野ウサギ族強すぎです。」



「いや、ウルヴもラヒラスも十分凄いからね。で、第三陣は?」



「第三陣の前にアインがこちらと合流して私の指揮下に入りました。」



「あのときは正直間に合ってホッとした。」



「ところで、ウルヴはどういう指揮をしたのかな?」



「正直なところ、第五陣以外は私が正面から突撃するから、ラヒラスは突撃の補助をお願いして、アインや野ウサギ族達は突っ込んだ後好きに暴れて、という指示だけですね。流石に第五陣は地龍7体でしたから、その時は私とラヒラスとアインで地龍1体を、野ウサギ族は2匹で地龍1体をそれぞれ担当してもらいました。」



「なるほど。地龍との戦闘はどんな感じだった?」



「ハッ、慣れてきたとはいえ、相手は地龍でしたので、最初にどこを攻撃しようか迷いましたね。キレイに頭を狙おうにも流石に届かないので、仕方なく足から攻撃して動きを封じてから倒しました。それにしてもアインの力ってもの凄いですよね。」



「おお、アインの力が地龍戦でも発揮されたんだ。」



「うん、アインは凄かったよ。ワイルドボアもそうだけど、ボスのビッグボアの突進も平気で受け止めてからメイスでぶん殴ってたけどその一撃だけで倒してたからね。」



「マジか、それは出来る気がしねぇ。」



「第四陣にしてもそうだったね。オーガはもちろんのこと、トロールの打ち下ろしを平気で受け止めてたし、踏みつけなんかも受け止めたどころか持ち上げて放り投げたりして野ウサギ族ですら引いてたような感じが、、、。」



「おお、そうなんじゃよ、主。いくら我らが強いと言われているとはいえ、あんな戦い方はできない。普通の人間があんな戦い方をするのを初めて見たぞ。」



 レオも加わったが、相変わらず当事者の3人にはレオが何を言ったかわかっていない。



「で、地龍戦はどうだったの?」



「地龍戦ではメイスによる骨砕きで大いに貢献はしておりましたが、それ以上に地龍の尾撃による打ち払いを平然と受け止めてましたね。」



「本当にね。アインって本当に人間?」



「俺は普通に人間だぞ。そんなことを言っているラヒラスだって人のことは言えないぞ。」



「おお、どんな感じだったの?」



「俺は知っての通り第三陣からの参戦だったから、第二陣についてはわからないが、ウルヴのサポートをしながらフレキシブルアローだっけ? それから放たれる魔法の矢が的確に目とか防御の薄い所に刺さるんだよ。しかも6つが6つそれぞれ個別に移動しているんだぞ? しかも暴走しないように片目だけを狙うんだ。個別にな。」



「おお、そうじゃったな。アインもやばいが、ラヒラスも大概じゃったぞ。」



「地龍の時は?」



「地龍の時は、一斉に攻撃していたな。ということは自由自在にあんなものを操っていたんだよな。あれって俺も使えるか試したけど、1つも動かせなかったんだよな。どんだけ魔力必要なんだよ、あれ。」



「なるほどね。野ウサギ族達は強いのはジェミニを見ているから知っているけど、3人とも化け物じみているんだね。改めて君らに声をかけておいて正解だったと自分が誇らしいな。」



「私らを賞賛してくれるのは嬉しいのですが、やはり野ウサギ族達は別格でしたよ。」



「おお、そうなんだ。で、どんな感じだったの?」



「はい、地龍は流石に大きすぎたので少し時間はかかったみたいですが、それでもキレイに首をはねて終わりでしたよ。第四陣の魔物までは一撃で首はねてましたからね、、、。」



「そうだな。しかもあんなに速く移動しているにも関わらず、キレイに一閃しているからな。あんなの俺が刃物を使って斬っても無理だな。」



「うんうん、フレキシブルアローを一点集中してもあんなにすんなりと首なんて狩れないよ。アイス様も倒した魔物達を見れば、わかりやすいかも。キレイに首だけ切ってあるのが、野ウサギ族の戦果、一部ボロボロになっているのが私達の戦果、ということでわかりやすいかも。」



「なるほど。それは私達にも言えるけどね。まあ、戦闘のことはよくわかったよ。次はアインの報告かな。アイン、よろしく。」



「俺はトリニトへ行って、最初にアッシュ様のところへと尋ねて、今回のスタンピードについて話したんだが、それを聞いてアッシュ様が「自分も援軍としてこっちに向かう!!」とか言い出してな。一応アイス様から預かった手紙を見せたりしてどうにか思いとどまったようだが、アイス様、どういった内容の手紙を書いたんだ?」



「ああ、手紙には、「お前はトリニトを守る義務があるんだから、次期領主としてその任を全うしろ。」みたいな内容を書いたんだ。最近のあいつは別人になったかのように私に従順になったからね。多分自分が援軍として行きそうなのはわかっていたから。」



「で、アッシュ様を落ち着かせてから冒険者ギルドへと向かったんだ。お三方の手紙か報告かは知らんが、連絡は受けただろうから、俺がそこに来た理由はわかっていたらしく、すぐにギルド長のもとに案内されたんだ。まあ、俺としてはさっさとこっちで魔物と戦いたかったから、手紙を渡したらすぐさま出ようとして止められたのは参ったな。で、手紙を読むと、何だか嬉しそうにしていたんだが、どういった内容だったんだ?」



「ああ、それね。とりあえず援軍不要、来ても冒険者としての仕事はないよ、という感じかな。あとは、スタンピードが終わったら、素材などを卸したいからギルド員の派遣を頼んだんだよ。事情が事情だからお迎えなどはできないけどよろしく、みたいな内容かな。」



「なるほど。嬉しそうだったのはそういうことか。」



「で、言い忘れたけど、ギルドに卸すのは本隊で倒した分だけにしようと思う。私達が倒した分についてはフロスト領の領民達用の食料として使おうと思っている。あ、ワイルドボアの内蔵はこっちで回収ね。それと地龍は流石に7体卸すと大騒ぎになるから、1体分だけ卸して、あとはこっちで有効利用だね。」



 と、こんな感じで報告会は終わり、各自通常業務に戻った。これだけ素材が集まれば領民にさらに良い装備などが提供できそうだけど、それを加工できる領民が少ないか、もしくは全くいない状況だ。今回の件で冒険者ギルドへと素材を卸すことで誘致できたらと思う。いやまじで、人手は必要だからね。

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