第3話 さてと、素材を換金しますかね。

 領都トリニトの入り口に到着する。トリニトに入る前に確認しなければならないことがいくつかあった。



 まず1つ目は、我が住まいが一体どこにあるのか、ということだ。一冒険者として初めてこの町に入るというなら門番か誰かに聞けばいいのだが、生憎、初めての場所とはいえ一応は自宅なのだ。と思っていると情報が流れてきた。なるほど、よく小説では頭が痛くなる現象の後に情報がたくさん入り込んでくるみたいだが、私の場合には少しずつ小出しにすることで、頭痛が起きないのだろう。流石はアマさんわかっているな。というわけで、この件は解決した、ってこれって全て解決しそうだな、うん。



 全て勝手に解決しそうなので、このままトリニトに入る。門番が1人いたが、私の姿を確認すると敬礼してから、



「アイス様、お帰りなさいませ! ん? 肩に乗っている可愛い猫とウサギはテイムなさったので?」



折角敬礼してくれたので、敬礼で返す。こちらの敬礼も一緒で日本陸軍式なんだな、と思った。



「お役目ご苦労さん、今回の狩りの最中に出会ってテイムしたんだよ。」



「おお、そうでしたか。それは羨ましいですな。私もこれだけ可愛いとペットとして欲しいですな。ところで、森での狩りはいかがでしたか?」



「そこそこ良い獲物が手に入ったよ。これはお裾分けだ、みんなで食べて。」



 そう言って、オーク肉とフォレストウルフの肉を一部門番に渡す。



「アイス様自ら下さるとは、ありがたく頂戴します!!」



 よかった、受け取ってくれたようだ。何々? 普段は狩った獲物の肉は持って帰る、か、なるほど、領主一族とはいえ、それほど良い食生活をしていない、と。いや、違うな、私だけが貧しい食生活を余儀なくされているから、自分で獲物を捕ってくる必要があるのか。ということは、領主の長男とはいえ、母親の身分が低いのか、すでに亡くなっており継母がふんぞり返っている状態かな。で、次男がそれを笠に着て威張り散らしているという感じが濃厚かな。うん、予想通りだ。それがわかっていれば問題ないな。



 さて、まずは戻る前に冒険者ギルドに行きますか。ふむ、情報だと手に入れた素材は冒険者ギルドで売ってお金にしている、と、では、商業ギルドではどうか? というと、ふむ、かなり足下を見てくるから評判が悪いのか。しかし、こんな寂れた状態の町で足下見たりぼったくったりしても意味が無いんじゃないか? まあいいか、とりあえず商業ギルドには用はないしね。で、場所はと、両方とも大通りにあるのか、で、冒険者ギルドは、と、おお、あったあった。盾と剣を看板にしているのか、これは冒険者ギルド共通なのかな。通りがかった商業ギルトは天秤を看板にしているんだな、なるほど。では、冒険者ギルドに早速入りますか。



 あ、しまった。空間収納に入れっぱだ。まあいいか。領主の息子としてここはゴリ押すべし。



 冒険者ギルドの中は、タンバラの街や王都タンヌと同じような配置だった。国ごとの冒険者ギルドではなく、冒険者ギルド全体で同じような配置なんだね、正直助かるよ。何々? 冒険者登録をしていないから、買取窓口へ直接向かうのか、なるほど。ところで、従魔の登録は必要なのかな? 先に手続き窓口で聞いた方が早いな。



「アイス様、ようこそいらっしゃいました。ご用件を伺います。」



「今し方、テイムした魔物がいるんだけど、従魔登録とか必要かな?」



「そうですね、アイス様は冒険者登録はされておりませんが、従魔達に何かあると問題になるので登録なさった方が良いと思います。また、こまめに狩りをなさっているのですから、冒険者登録もなさった方がいいと思いますよ。申し上げにくいのですが、これからのこともありますでしょうし。」



 なるほど、冒険者ギルドでも私の立場を理解しているのか。ということは、この領都での私の立場は広く知られているということでもあるな。しかし、なまじ登録してしまうとタンバラの冒険者ギルドを通じて何か問題が起こりそうだな。名前同じだし、職業変えようがないし、これは保留かな。従魔登録も思いっきりかぶっているしこれもやばいな、やはりやめておいた方が得策か。



「いや、お気遣いありがとう。でも、冒険者登録も従魔登録もとりあえず保留にしておいて欲しい。」



「わかりました。そうおっしゃるのであれば、こちらからは何も申し上げません。でも、何か素材が手には入ったらいつでも冒険者ギルドへ売って下さいね。」



「わかったよ、これからもよろしく。」



 手続き窓口を離れて、買取窓口へと向かう。



「アイス様、ようこそいらっしゃいました。今日も買取ですか?」



「うん、よろしく。」



「では、奥の部屋に行って素材を卸して下さいね。」



「わかった、ありがとう。」



 奥の解体場所へと入る。



「おお、アイス様、今日も買取と解体か?」



「やあ、アストン。今日は買取のみかな。解体のできる従魔をテイムできたんだ。」



「ほう、それは興味がありますな。では素材を出して下さい。」



 先程手に入れた、キラーシープ、フォレストウルフ、フォレストアントの素材を次々に出していく。その光景を見て解体のおっちゃん達は呆然としていた。ちなみにアストンは解体組のリーダーである。



「ア、アイス様、これだけの魔物をこの短期間で?」



「ああ、今日は調子が良かったからね。」



「い、いやそういう問題ではない気がするんだが。数も凄いが、解体も完璧だ。俺らでもこんなに綺麗に解体できねぇよ。一体どの魔物が?」



「ここにいるウサギのジェミニが解体して、スライムのライムが汚い部分を綺麗にしてくれたんだ。」



 紹介されたジェミニとライムがピョンピョン跳ねた。



「可愛い上にこんなに綺麗に解体できるのかよ、正直弟子入りしたいくらいだぜ。」



 アストンがそう言うと、他のメンバーも頷いていた。で、マーブルも紹介しないとかわいそうなのでついでに紹介する。



「で、解体中に臭いがしないように風魔法で臭いを吹き飛ばしたのが、ここにいる猫のマーブルだよ。」



 マーブルは首を傾けて「ニャン」と鳴いた。周りにいた人達は目尻が思いっきり下がった。言うまでもなく私も同じ状況だ。うーん、マーブルはあざとい。でも、それもいい。



「アイス様、一度で良いからこの従魔達が解体するのを見せてもらえるか?」



 マーブル達に確認を取ると、みんな頷いた。



「いいみたいだよ。今度魔物を狩ったらここで一度解体作業をさせてもらうよ。」



「おお、それはありがたい。ところで、アイス様、申し訳ないんだが、これだけの量を買い取る予算がうちにはねぇんだ。だから一部でもいいか?」



「ああ、それだったら素材を渡しておくから、一部は今欲しいけど、残りは売れてから払ってくれれば良いよ。」



「そうしてくれると非常に助かるのだがいいのか? アイス様だって懐に余裕があるわけではないんだろう?」



「困ったときはお互い様ってね。息子の私が言うのもなんだけど、ここって全体的に財政がお察しレベルだからねえ、、、。」



「それに関しては俺らは何も言えないな。」



「それは申し訳なかった。でも、買取は今言ったようにすればいいから。」



「助かるぜ。では、買取の内訳を説明するぜ。まずはキラーシープだが、通常より質がいい、というかこれほどの質は滅多にないから1体につき毛皮は金貨10枚で角は金貨2枚だ。これが5体だから金貨60枚になる。次にフォレストウルフだが、これは綺麗に解体されているが質は普通だから1体につき毛皮は金貨1枚と銀貨5枚で牙は銀貨3枚だ。全部で12体だから金貨21枚と銀貨6枚だ。そして、フォレストアントだが、倒し方も解体も見事としか言えねぇ、質は普通だがフォレストアントの外殻は鎧の素材としてかなり人気があるから、これは1体金貨3枚だ。牙は解体用の刃物として人気があるからこれは銀貨5枚で買い取らせてもらう。全部で20体だから金貨70枚だ。全ての合計で金貨151枚と銀貨6枚になる。これが木札だ、受け取ってくれ。お金については受付と相談してくれ。」



「ありがとう、ではまた来るから。」



 そう言って解体部屋を出る。それにしても、やはりここは貧しい。ここの領主は一体普段は何をしているのか気になるな。それと後妻よ、こんな状態の町で威張って何がしたいんだ? 次男よ、笠に着て威張る暇があるのなら、少しでも生活を良くしようと考えろよ。だからか、こんなところに転生させたのは。冒険者ギルドですら、金貨150枚くらい普通に払えないんだからかなりやばいな。そんなことを考えつつ窓口に向かう。



「アイス様、お金の受け取りですね、木札を確認致します、って、申し訳ありません、こんな大金はすぐにご用意できません。」



「ああ、大丈夫、それについては承知しているから。とりあえず一部だけ受け取って残りは素材が売れてから受け取ることで話はついているから安心して。」



「アイス様、誠にありがとうございます。お言葉に甘えまして、一部代金として、金貨15枚と銀貨6枚を今お支払い致します。残りは売却が完了次第お支払い致したく存じます。では、お受け取り下さい。」



 申し訳なさそうに出してきた報酬の一部をもらう。



「ありがとう、慌てなくてもいいから。しっかりとこのギルドが潤うように納得のいく値段で売ってくれればいいよ。」



「有り難きお言葉。お時間は掛かるかもしれませんが、できるだけ高く売りたいと思います。」



 まあ、これだけあれば、しばらくは適当に過ごせるかな。食料は魔物から頂けば問題ないし、武器は基本的にはいらないしね。さしあたって必要なのは、マーブル達とお揃いの装飾品かな。今回は腕輪にしますか。あとは、スリングの材料と弓か。弓はしばらく後になりそうかな。



 屋敷に戻る前に、一通り店を見て回ったが、何というか活気がない。これを見て何とも思わないのだろうか。まあ、思っていないからこうなっているのだろうが。途中お揃いにできるよさげな紐みたいなものがあったので、仮のものとして4つ購入。私は右手首に、マーブルとジェミニは首に、ライムは、結ぶところがなかったので泣く泣く保留に、ゴメンね、ライム(泣)。



 とりあえず最低限の用事は済んだかな。というわけで、自宅という名の屋敷に戻るとしますかね。さて、どんなお馬鹿さん達が待ち受けているのか、正直憂鬱です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る