第5話

 放課後、雄一は陸上部で練習しているモッキーの姿を眺めていた。

 クラウチングスタートの練習をしている。俺ならどうする?と雄一は考えていた。クラウチングスタートから競歩の走り、うーん、違う。二人で一人がランナー役、もう一人がファミコンのコントローラーのABボタンを連打する役。ファミコンのハイパーオリンピック。これはいけそうかな。ハードルのところでよくジャンプボタンのタイミングに失敗してこけてたなあ。それをリアルにやれればオモロイなあ。雄一は学ランからメモ帳を取り出し「ハイパーオリンピック」とメモする。ん、まてよ。ファミリートレーナーならコントローラーではなく、足で操作してたなあ。そっちの方が演出しやすいな。メモ帳に「ファミリートレーナー」とメモする。実際に走っているモッキーの動きに合わせて左右の足をその場で上げ下げしてみる。他にファミリートレーナーでは何かソフトあったかなあ?たけし城があったか。それでも使えるかな?広がるか?色々とアイデアが頭をよぎる。そうこうしていると陸上部の練習が終わる。

「モッキー!」

 雄一がモッキーに手を振る。大袈裟に両手を上げてその場でジャンプしながら手を振り、自分をアピールする。

「そんなにアピールせんでも。てか、俺を待ってたん?」

「そやで。俺んちに集まるって言うたやん」

「マジかあ。後片付けしてから着替えて来るからちょっと待ってて」

 しばらくしてモッキーが制服に着替えて戻ってきた。

「三、二、一、はい、遅刻―」

 そう言いながら雄一は両手で校門を締めるジェスチャーをする。

「それは寒いなあ」

「やっぱり?」

「うん。伸基なら殴ってるかも」

「よし、じゃあ野球部のところに行くか」

 モッキーと二人で野球部のグラウンドへ向かう。ちょうど上がりのランニングをしていた。大勢の野球部員が掛け声と共に足を揃えてランニングをしている。

「おー、たくさんいるなー」

 雄一は左手で双眼鏡を覗くポーズをしながら右手で親指をカチカチさせた。

「いやいや、野鳥の会ちゃうから」

 モッキーが雄一にツッコむ。

「ファミコンウォーズがでーるぞー、ファミコンウォーズがでーるぞー」

「いつのCMやねん」

 雄一はとにかくボケ倒す。それをちゃんと拾ってくれるのがとても気持ちいい。ずっと憧れていた。人前で笑いを演じるのは怖かった。中学時代はずっと一人だった。自分では面白いと思うことも笑ってくれなかったら、それはすべっていることを意味する。ずっと心の中だけで考えていた「ボケ」を実際に口にする気持ちよさ。高校ではとにかく誰か見つけようと思っていた。モッキー、伸基。不思議な奴らだ。すべった時の恐ろしい空気を作らせない。思いついた笑いをドンドン口に出せる。雄一には分かっていた。

「今、伸基とモッキー以外の人間の前では自分は絶対に『ボケ』を口にすることは出来ない」

 モッキーにも促して、二人で両手を大きく振りながらその場でジャンプを繰り返し伸基に存在をアピールする。練習が終わった伸基が二人の元に駆け寄る。金網越しに伸基が言う。

「まだ終わらへんから。これから自主練で先輩に球を上げるから。もうちょい待っとって」

「モッキーがファミコンウォーズを馬鹿にするんよ。あと伸基の悪口言うてた」

「言うてないし!」

「なんじゃそれ?まあ、待っといて」

 伸基が泥だらけの練習用の白いユニフォームを着たままグラウンドに戻っていく。それから二時間ほど待ち、伸基が合流した。時計はもう八時半になろうとしていた。



「俺んちは学校から一分やから」

 そう言って雄一は伸基とモッキーを連れて歩き始める。たわいのない会話をしながら延々と歩く。

「おい、一分どころかもう十五分以上歩いてるぞ」

 伸基がチャリンコを押しながら言う。

「いや、マジでもうすぐ。すぐやから」

 そう言いながら雄一はてくてくと歩く。

「全然一分じゃないやん」

 モッキーもチャリンコを押しながら文句を言う。

「ほら、あそこ。あの赤い屋根。あそこ」

 雄一が近くの一軒家を指さす。

「赤い屋根って暗くて見えんし。てか、めっちゃ遠回りしてないか?」

「な、学校から一分の距離やろ?」

「町内一周してるやん」

「いや、嘘は言うてないやろ」

「そういうボケはマジでいらんから」

 伸基とモッキーが雄一を責める。

え、おいしくない?

「ただいま」

 雄一の声に雄一の母親が出迎える。

「おかえり。あら、お友達?」

「こんばんは。新名です」

「初めまして。本木です。こんばんは」

「ああ、ええから。あがって、あがって。俺の部屋行こう」

 気を使う二人を従えながら二階の自分の部屋へ向かい階段を昇っていく。

 案内した雄一の部屋。

 綺麗に整頓された六畳の洋室。机の上にはワープロとラジカセ。ベッドの足元にテレビとビデオデッキ。そして大量のビデオテープ。本棚にはいろんなジャンルの大量の書物。雄一の笑いを作りあげる大切な空間。

「エロ本探せ。エロ本」

 伸基がお決まりの言葉を発する。

「後ろ見ろ。後ろ」

 伸基とモッキーが後ろを振り返ると閉じた部屋のドアに等身大のヌードポスターが。デラベッピンの付録のやつだ。

「なるほど。これなら親にもバレんなあ」

「いや、普通は貼らんやろ。ここまでオープンには」

「それにしても部屋にテレビもビデオデッキもあるんかいな。ええなあ」

「それ、テレビもビデオデッキも拾ってきたやつやで。自分で直した。いるんやったら拾ってくるで。チャンネルの固定が結構むずいけど」

「マジか?俺のも頼むわ。エロビデどれ?あるんやろ?」

「そこにあるやつ、どれでも好きなの選んで再生してみ」

 雄一の言葉に伸基が反応して適当に選んだダビング用のビデオテープをデッキに入れて再生する。舞台に立った芸人が漫才をしている映像が流れる。

「ああ、オールザッツのやつか。今のコンビの次の次に伸基の好きな圭修が出て来るで。タクシーネタのやつ」

「リムジン乗る暇人のやつか?」

「そうそう、『私の体の中には脈々と、フランス人の血が』」

「いっかにぶんのいち流れています!」

 雄一と伸基の声が重なる。

 雄一は学ランからメモ帳を取り出し、机の上に置き、学ランをカーテンレールにかけたハンガーに引っかける。。

「適当に座ってや」

 机の前の椅子に座りながら雄一が二人に言う。二人が雄一の部屋をキョロキョロと見渡す。

「とにかくエロ本を探すぞ。モッキー、お前はベッドの下辺りを探せ。俺は洋服ダンス辺りを洗ってみる」

「あんまり人の部屋を詮索してもいかんやろ」

 モッキーが伸基に注意するが伸基はお構いなしに部屋中を探しまくる。出て来るのはビデオテープとカセットテープのみ。

「しつこいなあ。そんなにエロ本が大事かあ?」

「俺はエロ本を持っていない高校生は認めん方針なんじゃ」

「そしたら野球のやつ見てみろ」

「野球のやつ?あ!このテープは怪しい!」

『大洋―ヤクルト』とラベルが貼られたビデオテープ。急いでそのテープをビデオデッキに差し込み再生する伸基。すると画面に女の裸体と喘ぎ声が。

「どこが『大洋―ヤクルト』やねん!ってかこれ裏やないか!」

「あとは本棚の『世界の歴史』を取り出してみろ」

 伸基が本棚から全二十巻からなる『世界の歴史』の一巻を取り出す。分厚いカバーの中にはエロ本が三冊詰め込まれている。

「『世界の歴史』、これ全部エロ本?」

「そやで。あ!おかあはんが二階に上がって来る!お前らそれ隠せ!ビデオも止めろ!」

 階段を昇る足音が聞こえる。伸基が『世界の歴史』を本棚に、モッキーがビデオを急いで止める。部屋をノックする音の後、雄一の母親がジュースとお菓子をお盆に乗せて部屋に入ってきた。

「部屋には入らんといてや」

「あんたは何を言いよんや!ここはおとおはんの家やで!あんたのもんちゃうで!ああ、新名さんに本木さん、よお来てくれましたね。この子がお友達を家に連れて来るのは本当に久しぶりなのでびっくりしちゃって」

「今、大事な話しよんやから。それ置いたらはよ出てって」

「あんたは黙っとき!」

 伸基もモッキーも気を使って礼儀正しく振る舞っている。と同時に二人ともドアに貼られている等身大のヌードポスターがバレないかとドキドキしている。雄一が母親と強い口調で言い合いをしながらなんとか母親を部屋の外へ追い出す。

「それじゃあゆっくりしていってくださいね。あんた、口の利き方直しや!」

 そう言いながら雄一の母親が部屋のドアを閉じる。

「な、バレへんやろ」

「バレんもんやなあ。てかさっき発見されてたらめちゃ気まずいわ」

「ホンマや。めっちゃドキドキしたわ」

「それより菓子食おうで。あと、電気のテープ聞こうで」

 そう言いながら雄一はポテトチップスを口に咥え、机の一番下の引き出しを開く。びっしりと放送日の日付が書かれたカセットテープが詰め込まれた引き出し。そのうちの一本を取り出しラジカセの中のテープと取り換えて再生ボタンを押す。小室哲哉の物まねで

「今年はレイブが来るよ」と石野卓球の声が。そこからピエール瀧と石野卓球のフリートークに様々な笑えるコーナーのオンパレード。大爆笑する伸基とモッキー。

「なんやこれ!おもろすぎるぞ!」

「めっちゃおもろいなあ!」

「な!おもろいやろ!これはマジでおもろい!ジャンプの初代ギャグキングの漫☆画太郎ぐらいやばい!」

「画太郎もめっちゃおもろいよなあ」

「うん、伸基に勧められて読んだけどあれもめっちゃおもろかった」

「ギャグキングはあれからはおもろいのは出てないなあ。でも漫画にもおもろいのは結構あるからなあ。中崎タツヤも結構やばいで」

「『じみへん』の人やろ。あれは俺もチェックしてるで」

「あとこれも最高。『ちょっとヨロシク!』。吉田聡のやつ。『湘爆』の人。日系二世・ヘガデル今田やで」

「なんやそれ!天才やな!」

「『湘爆』の『THE・YOSHIDA』見てみ!『げるに』の吉田最高。本棚に全部あるで。『ゴールデンラッキー』とか最高やで。あれだけでご飯三杯は軽くいけるわ」

「漫画がおかずかよ!自分どんだけやねん!」

「それはええとして。君ら、トリオの名前考えた?」

 先ほどから伸基はお盆の上のお菓子を一人でぼりぼり食っている。

「まだ、これってのは思いつかん」

 菓子を頬張りながら伸基が言った。

「モッキーは?」

「うん。とりあえず考えたけど…」

「マジ?教えて!」

「攻めるお前は珍しいな。是非聞かせてもらおうか」

 すぐに額をどつけるように伸基が手のひらをすり合わせる。

「えー、そんなに注目せんといてや。みんな考えてきてるとおもて、単純なんしか思いついてないで」

「全然ええよ」

 雄一が椅子から身を乗り出す。

「あのな、『バスガス爆発』…」

 伸基がモッキーの額をしばく。意外なネーミングに雄一はさらに身を乗り出す。

「『バスガス爆発』?意味は?」

「いや、なるべく言いにくいのがええかなあっておもて。登場の時に思い切り噛んでしまうのもおもろいかなあって」

「ちょい待って。バスガス爆発…」

 そのまま雄一は目を閉じて腕を組み一分間ほど黙り込む。そして一言。

「それは考えすぎやろう」

「お前がや!」

 すかさず伸基が雄一にツッコむ。それにしても伸基はしっかりとボケを拾ってくれる。何よりもこの二人は本当に雄一にとっていい空気を作ってくれる。身内同士では笑いのハードルも下がるし、すべる恐怖もない。しかし、そういうのでもない。面白くなければ伸基の右手も動かないだろうし、雄一の今まで心の中にだけ止めていた鋭く尖った部分をさらけ出せる。これが相方と言うものか。一人ではないと言うことか。伸基にモッキー。この二人、相当いい。雄一はそう思った。

「ええんちゃう。いや、かなりええ。『バスガス爆発』。それでいこう」

「それはええとしてお前はどんな名前を考えてたんや?」

 伸基が雄一に問いかけた。雄一は即答した。

「『西山新名』」

「いや、俺おらんし!」

 モッキーが笑いながら雄一の足に手を伸ばす。

「そっちの方がええなあ」

 伸基が追い打ちをかけるように言う。

「おい!」

「と言うわけでとりあえず仮で。バスガス爆発でいこう。掴みにも使えるし、言いにくいのがええな」

「まあ、なんでもええわ。後からいくらでも変えれるし」

 伸基がお盆のお菓子を全て平らげてしまった。自分の分のジュースも飲み干し、モッキーのジュースを奪って飲みながら雄一に問いかけてきた。

「それでひとつ。お前はなんで今までコンビを組まなかったんや?お前、中学は私立やったんやろ?ネタが百本以上あるって言ってたな。それ今見れる?」

 雄一は二つ目の引き出しから大学ノートを二冊取り出し伸基に手渡した。雄一は緊張した。伸基がノートを開き、そこに書き込まれた手書きの文字を見る。長いものもあれば短いものもある。たくさんのネタと思われる漫才やコントのタイトルが各ページの上に書かれており、長いものでは五ページに渡りびっしりと。中にはタイトルのみで内容が書いてないものも。

「言い訳評論家」笑質…いろんな言い訳の状況に応じた使い方、効力などを解説。なるほど的な笑い。

「なぜか後ろが気になる柔道選手」笑質…なぜか試合中も後ろばかり気にしている。勝敗もどうでもええって感じでなんでや!的な笑い。台本、特に書かん。

 どんどんページをめくる伸基。タイトルのみでもある程度、雄一がどういうことを考えているかは伝わる。中には伸基にも全く理解出来ないタイトルのみのページもあった。しかし全てのタイトルに雄一の考えた笑いが詰まっていることは伸基には分かった。

「確かにええネタが多い。それでもまだ改善の余地もある。完璧ではないな」

 その言葉にほっとした雄一。

「そやなあ。人に見せたのは初めてやから。自分ではどれほどのもんか分からんかった。ただ、俺がおもろいと思ったことを自分で考えて自分なりに書いた」

「ただ、これだけ書けるのはすごいとは思う。俺が笑いで人を褒めたのは初めてのことやぞ。お前、すごいな」

「確かにそうやな。伸基が芸人さん以外で笑いのことで人を褒めた記憶はないなあ。俺も褒められたことないもん」

 モッキーがもう一冊の大学ノートを見ながら言った。

「今、日本で一番おもろい人は誰やと思う?」

「ダウンタウン」

 伸基とモッキーが同じ名前をあげた。

「俺もそう思う。ドリフのいかりや長介さんの作る計算しつくされた台本による芸術のような笑いもすごい。そこに異端を放つ志村けんさんもすごい。ビートたけしさんはすごいとしか言いようがない。他にもすごい人はたくさんいる。ごつい人が溢れている。笑いの世界はものすごい猛者が溢れかえっている。人を泣かせるのも怒らせるのも比較的簡単だと思ってる。でも人を笑わせることはものすごく難しいことだと思ってる。そしてダウンタウンが颯爽と俺の前に現れた。と言うか、この世界に現れた。松本人志さん。俺はあの人に天才と言う言葉は使わない。あの人はモンスターや。そしてそのモンスターが言った。『天下を取る』と」

「お前、ひょっとして…」

 伸基がその目つきの悪い怖い顔を真剣にしながら雄一に聞いた。

「俺はダウンタウンに勝ちたい」

 今、日本中の笑いにぎらついている人間のほぼ全員が心で思っていることを雄一は言い放った。

「マジか…」

「あの二人に俺は勝ちたい」

「そんなこと、考えたこともなかったわ」

 伸基が真剣なのか、呆れているのか分からない表情で言った。相変わらず顔が怖い。

「三年後、俺は東京に出る。小学校の頃からずっと笑いのことばかり考えてきた。残り三年で世に出るだけの力をつけたい」

 雄一は窓ガラスを開け、机の中から灰皿を取り出し、キャスターを取り出して火を点ける。

「ダウンタウンに勝ちたいって。ホンマにそんなこと考える奴がおるんやなあ」

 モッキーが伸基とは対照的なニコニコした笑顔で呟くように言った。

「俺は本気やで」

「最初に言うとくがなあ」

 伸基が雄一の目を見ながら言った。

「なんや?」

「俺にも将来のでっかい夢がある」

「なに?」

「俺の夢はなあ、公務員になることや」

「それはボケ?」

「いや、マジ」

「そこは野球部なんやから甲子園とかプロ野球選手とか言わへんの?」

「いや、公務員」

「モッキー、伸基ってこういう人なの?」

「うん。昔から夢は公務員って言うてた」

 雄一は爆笑した。そして短くなったキャスターを親指と人差し指でつまみ大きく煙を吸い込んでそれを吐き出した。そして灰皿にキャスターを押し付けながら言った。

「まあええわ。とにかく今日から『バスガス爆発』の誕生だ。これから三年かけてお前らを口説いてみせる!伸基もネタは書けるんだろ。ネタは俺と伸基で作る。モッキーはしっかりついて来いよ!」

「分かった分かった。とりあえず今日は帰るから電気のテープを何本か貸してくれ。あと、『大洋―ヤクルト』のビデオも借りていく」

「そっちもか!」

「モッキーも借りていけ。この『ロッテー南海』もよさげやぞ」

「ええわええわ!いくらでも持っていけ!『テレビ顔射』で思いっきり後悔しろ」

「なになに?『テレビ顔射』?」

「え、お前ら。テレビに顔射したことないん?」

「あるか!てかその発想はなかった。ええもんなん?」

 伸基がかなり食い付いてくる。

「俺もな、自分の部屋にテレビ置くんは、おかあはんが受験が終わるまで許してくれんかったからなあ。家族全員で見るテレビで『ギルガメ』とか『EXテレビ』で何度も『テレビ顔射』してたわー。あれ、タイミング間違えると画面がいきなりイジリー岡田とかに変わるんよ」

「イジリー岡田に顔射って!それは事故ではすまんやろー!」

「しかも『テレビ顔射』したテレビで翌日に家族で飯食いながら『世界丸ごと』とか見るんやでー。心ん中で何度も土下座してたわ」

「お前、アホやなあー!おもろい!俺も早速、今日やってみるわ。モッキー、お前もやれよ!」

「えー、俺もやらなあかんの?」

 その瞬間、伸基の拳がモッキーの横っ腹に放たれる。

「何を気取ってんや。やる気満々の癖しやがって」

「まあまあ、明日感想聞かせてな。人生初の『テレビ顔射』」

 そう言って二人を家の外まで見送りに出る。おかあはんまで一緒に外に出て来る。

「またいつでも遊びに来てね」

「お邪魔しました」

 雄一の母親の前で礼儀正しく振る舞う二人の鞄の中には裏物のエロビデオが数本入っているのに。

「また明日な」

 伸基がそう雄一に声を掛けた。モッキーも同じようなことを言って二人がチャリンコを漕ぎながら暗闇の中に消えていった。

「また明日な」

 雄一はこの言葉を随分久しぶりに聞いた。

 『バスガス爆発』が誕生したこの日。

 雄一に人生で初めての相方が出来た。

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