第3話 いせきあらしのアクアちゃん

 遥か地平線の彼方から魔物の大軍が進軍しているのが見える。

 今俺たちがいる場所からは少しずれているのでこのままやり過ごす事は出来そうだが、あの方角だとそのまま進軍したらアクセルの街を飲み込んでしまいそうだ。

 偵察だけの予定だったが今から街に戻っても十分な対策をしている時間は無いだろう。

 それならいっそ爆裂魔法が使えるこの辺りで何とかした方がいいかもしれない。


 ……街の近くで爆裂魔法を使われるとまた二次災害で借金を負うハメになる心配もあるしな。



「……ここでなんとかするしかないか」

「どうします? 爆裂魔法をど真ん中に打ち込むことが出来たらあれくらいなら全滅させる事が出来そうですが」


 今は俺とめぐみんしかいないから出来れば一撃でなんとかしたい。

 あの数だと少しでも逃したら俺はめぐみんをおぶったまま街まで退散しなければならないだろう。

 

「めぐみん、この辺の地図って持ってないか?」

「地図はありませんが、だいたいの場所なら一応頭に入っているので書く事は出来ますのでそれでいいですか?」

「じゅうぶんだ。じゃあ、ちょっと書いてくれないか?」


 めぐみんが地面に地図を書き始めて少し経つと、突然近くにある茂みからガサゴソと不穏な音が聞こえてきた。



「あれ? なんか変な音が聞こえないか?」

「変な音ですか?」

「ああ。ちょっとあの茂みか――――」


 クケケーーーッ。

 と突然咆哮を上げながら茂みの中から何かが襲いかかってきた。

 ソレは一瞬で俺の上に覆いかぶさると手に持った棒状の武器をおもいきり俺の胴体へと振り下ろす。


「カズマ!?」

「ッ!? こんにゃろ!」


 俺はとっさに腰にさしてある名刀ちゅんちゅん丸を引き抜いて敵の攻撃を受け止め、相手が攻撃の反動で少しよろけたスキをついて思い切り蹴飛ばしてやると、そいつは後ろへと吹っ飛んでいった。

 …………そういやこの剣が役に立ったのかなり久しぶりな気がするな。


 俺は体勢を立て直して襲いかかってきた奴に向き直ると、そいつはボロボロの鎧を身に纏った人間だった。

 …………いや。

 よく見ると体のあちこちにヒビのような物が走っていて、崩れ落ちた場所からは作り物の骨格が覗いていた。


「なんだコイツ、人形か?」

「カズマ、来ます!」


 今この状況で戦えるのは俺だけだが、流石にこんな得体の知れないやつとまともにやり合って勝てる見込みもないのでタイミングを見計らって逃げた方がいいかもしれないな。


「めぐみん、ひとまず逃げるぞ!」


 俺が合図すると、めぐみんは頷いて返事をした。


 ――――とは言ったものの。

 コイツ思った以上に攻撃が激しくて、下手に後ろを向いたら背中から致命傷を負いかねんぞ。

 

「カズマ、大丈夫ですか!?」

「ちょ、ちょっと厳しいかも」


 俺は人形の猛攻をしのいでいたが、流石に疲れてきたのか攻撃が俺の腹部に直撃してその場に尻もちをついてしまった。

 その時に懐から何かがこぼれ落ちたみたいだが、今の俺にはそんなの気にしてる余裕などはなかった。


「やられるっ!?」


 人形が棒状の武器をを思い切り上に振り上げてから俺に向かって一気に振り下ろすと――――――何故か俺の真横に振り下ろされた。


「は、外した!?」

 

 しかし、どういうわけかその後もソイツは俺の横を一心に殴り続けていた。

 

「な、どうなってんだ!?」

「カズマ、ひとまず離れて!」

「お、おう」


 俺はなるべくゆっくりとその場を離れたが、俺が居なくなった後も人形は地面を叩き続けていた。


「いったいコイツは何を叩いてるんだ?」

「どうやら草みたいなのを攻撃してるようですが…………」

「――――草? って、あれは!?」


 人形が殴っているのは俺が食事が終わった後に摘んだ薬草だった。

 どうやら転んだ時に懐から落ちてしまったんだろう。

 ――――薬草に何か恨みでもあるのか?


「…………どうします?」

「どうしますって言われてもな」


 まあこのまま放置しておくのも危険だし。


「とりあえず壊しとくか」

「了解です!」


 俺とめぐみんは薬草を殴るのに必死の人形を後ろから全力で攻撃して何とか撃破する事に成功した。


「ふぅ。所でこれは一体なんだったんでしょう?」

「さあな。 ――――ん? ちょっと待て、何かこの鎧に見覚えがあるような……?」


 それもかなり最近な気がする。

 

「そうだ! あいつ等だ!」


 俺は再び千里眼のスキルを使って遠くから接近してくる魔物の軍団を確認してみると、さっき倒したコイツと同じ鎧を来ていた。

 それに前の方は骸骨みたいな感じだが、少し後ろの方にはコイツと似たような顔をした人形の姿も確認する事が出来た。

 ――――前にいる奴等は皮膚の部分が崩れ落ちて骨だけになっているのかもしれない。


「こいつは偵察か?」

「それか軍団からハグレてしまったとか?」


 う~む。今となっては確認する手段は無いが、今回の事で1つ良い情報が手に入った。


「ひょっとしたらあいつ等を誘導出来るかもしれないな」

「誘導ですか?」

「ああ、よくわからんがコイツは薬草が嫌いみたいで薬草をひたすら攻撃してただろ? つまりあっちから歩いてくる奴等も薬草が嫌いな可能性もあるって事だ」

「なるほど、進軍してくる途中に薬草を置くことである程度ならこっちが行き先を決める事が出来るかもしれませんね」

「それどころか一箇所に集めて一網打尽にする事も出来るかもしれない」


 ――――と、なるとだ。


 俺はめぐみんが地面に書いた地図に遺跡がある事を見つけた。


「なあ、この遺跡って今どうなってるんだ?」

「そこは確かもう探索しつくされていて、トラップとかもほとんど解除されていると思いますが――――」

「だったらちょうどいいや。あいつ等をここにおびき寄せて爆裂魔法でやっつけようぜ」


 …………探索が終わってるなら壊しても文句は言われんだろうしな。


「ふっふっふ。やっと私の出番って訳ですね!」


 めぐみんはやる気まんまんだ。

 今回もとびきりの爆裂魔法をぶっ放してくれるだろう。


「そんじゃ、早速薬草を集めるとしようぜ」

「そうですね。ちょうどすぐ近くに薬草の生息地もあるので、あいつ等に荒らされる前になるべく採取しておきましょう」


 薬草を探す為にその場を離れようとすると、どこからかカタカタと何かが動く音が聞こえた気がした。


「あれ? なんか変な音がしないか?」

「変な音? 私には何も聞こえませんが?」


 耳を澄ましてみたがもうその音はどこからも聞こえてこなかった。

 

「ごめん、気の所為だった。時間も無いし今は薬草を集める事だけ考えようぜ」

「そうですね。ちゃちゃっと集めてしまいましょう」


 俺たちは集合場所を決めてから薬草を求め二手に散っていった。



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