強キャラだったら、振り向いてくれますか?

香珠樹

強キャラな俺とあの子

「華音!一緒に帰ろうぜ!」


「ご、ごめんっ!」


 そう言って彼女―――湊華音は俺の目の前を走り去っていった。

 あちゃー、今日もダメか。


「ははっ、また竹崎の奴フラれてやんの」

「よく諦めないよねぇ……」

「私だったら断ったりしないのに……」

「竹崎、コロス」


 ひそひそ、ひそひそ。


 華音が走り去っていくと、クラスの中の人々が、様々な感情を言葉にのせて話しているのが聞こえてくる。

 例えば先程聞こえてきたのならば、最初が好奇。その次が呆れ。そして思慕で、最後が嫉妬……いや、これは憎悪か?

 正直最後の人の「コロス」発言は、何でなのかわからない。フラれて当事者でもない人に憎まれるって、どういうことよ。


 まあそんなことは置いといて、俺は今日もフラれました。……別に告白したわけじゃないけど、似たようなもんだろ。


 かといって悲しむことは無い。なんつったって、もう慣れちまってるからな。


 今回みたいに華音にグイグイと行くのは今に始まったことじゃない。かれこれ二か月は始まってから経ってるか。


 最初は流石にショックを受けたが、答えをもらったわけじゃなく、逃げるように立ち去られただけなので可能性を捨てていない。だから俺は、いつか彼女が返事を、それもいい返事をくれることを期待して今日もグイグイと華音に迫るのだ。


 迫るっつっても、ストーカーまがいのことはしてねぇからな。「弁当一緒に食べよう」とか、「次の授業の教室まで一緒に行かない?」とか、「一緒に帰ろう」みたいな、学校内でなるべく一緒に居れるようにするためのことしか言っていない。華音の家の住所なら知ってるけどな。……あ、学年全員にに配布される住所録で知っただけだからな。断じて、こっそりつけていったわけじゃない。いやこれマジで。


 だが、今までその全てを拒否されてきた。

 理由は知らん。聞いても、教えてくれないだろうし。


 ここで、地味目の雰囲気を纏ったバカで性格もクズ、顔もお世辞ですら良いとは言えないような何も取り柄のない男ならば理由なんてはっきりしてる。その言葉通り、何も取り柄が無いからだろう。


 しかし、俺は違う……って、自分で言うのもあれだな。ナルシストみたいで恥ずかしいな。


 俺は、容姿端麗、頭脳明晰、性格天使の三つを兼ね備えている男だ。性格天使ってなんだそれ。


 まあ、簡単に俺のステータスを説明すれば、顔は学年の女子の彼氏にしたいランキングで二位と圧倒的な差をつけて勝利したくらい(そんなランキングがあるかどうか知らんけど)。

 頭脳は、いつもテストで百点(を取ることを願っている)で、学年トップの成績を誇る(これはほんとな)。

 性格は、それこそ天使のような優しさで……天使って、どれくらい優しいんだろ。見たこともあったこともないから知らないな。そもそも存在してるんだろうか?


 ……と、いう感じで俺はクラスの人気者。カーストトップに立つ男なのだ! ……ってのは嘘な。俺は別にカーストとか興味ない。やりたい奴が勝手にやってればいいんだ。もちろん、いじめするなら話は別になってくるけどな。


 しかも人気者というのも嘘……いや、ある意味人気者になってるのかもな。毎日めげずに華音に向けてアタックをしてれば、注目もされ、フラれた後に笑いながらたくさんの人が励ましてくれたりするし。人気であることに間違いはないのかもしれない。……でも、嫌な人気の出方だな。俺の華音に振り向いてほしいという努力が、見世物みたいになってる気がして。


 俺のクラスでの立ち位置は、そこまで特別なものではない。

 みんなの中心に立って纏めるだとか、そういうことはあるけれど、楽しく談笑しているところの中心に必ずしも俺がいるとか、んなことは無い。他の生徒と同じ、ただの一生徒だ。


 つか、俺のことを説明したところで誰得? って感じだし、そろそろやめて、華音の説明をしてやろう。


 湊華音。

 クラスでも一位二位を争う可愛さで、小柄な体型とその可愛らしい顔立ちから皆に可愛がられている。ペットっていうのは申し訳ないけど、存在としてはそんな感じだ。


 髪の毛は少し茶色めで、いつも髪形はハーフアップ。正直、それが一番彼女に似合ってると思うな。他の髪型見る機会なんて全くないんだけどさ。


 学力も平均を余裕で越えていて、頭が悪いというわけではない。

 性格だって優しい。


 なのに、華音には友達がいないように思える。


 理由なんて知らないが、友達と談笑しているのを見たことは無い。

 でも、彼女自身が避けているようにも見えるのだ。


 周りの人が華音のことを鬱陶しく思っているわけではなく、どちらかといえば皆には好かれている。先程も言ったように、可愛がられているな。


 だが、それは一方的で、華音は嫌がっているわけではないのだが、皆と深く関わろうとしなていない雰囲気がある。


 もちろん何か理由があるのだろう。理由なくそんなことはしないはず。まあ俺は深く追及する気はないがな。


 ……んじゃ、華音にフラれたことだし、そろそろ帰るか。


 俺は肩にかけていた鞄を再びかけ直し、教室の外に向かって歩き出す。


「あ、裕樹~じゃね~!」

「また明日ね~」

「はぁ……裕樹君を別れるって考えると……」

「竹崎コロス」

「み、みんなじゃあな~!」


 最後の方が不穏な雰囲気になって来たので、俺はそそくさと退散する。


 教室を出て目指す先は、靴箱ではなく隣の教室。


 行くぞ、いざ、我が親友のところへ!






☆あとがき

始めましての方は初めまして。僕の他作から来られた方はお久しぶりです。

どうも、香珠樹です。

基本的に今作を毎日更新で、他作は引き続き不定期になります。

久しぶりの毎日更新となってくるので、星やコメントなどを頂けるとやる気が出て毎日更新も長く続くかと思います。もちろん、面白かったらで構いません。

これからも今作を、どうぞよろしくお願いします。

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