魔勇
物書未満
出会いと別れ、そして……
僕はオルト。勇者だ。
魔王が復活したらしいから退治しにいく。
でも僕は弱くて、最初からひいひい言いながら少しづつしか進めなかった。
ある日、魔物に襲われている女の子を見かけた。放ってはおけないから何とか助けた。
「大丈夫だった?」
「うん……ありがとう」
「僕はオルト。君はなんていうの?」
「私はリリア。でも……」
聞いてみたらリリアには記憶がないらしい。どこから来たのかも分からないそうだ。
「僕と一緒に来る? 大したことはできないけど」
「うん……行くあてもないから貴方と一緒に行く」
それから二人の旅が始まった。
リリアも全然強くなくてちょっと魔法が使える程度だった。
それでも何だか楽しかった。
冬に宿がとれない時には二人でくっついて木のうろで寝た。不思議と恥ずかしいとかはなくてただ暖かった。
「リリア、ごめんね。僕が強くないからこんな宿になっちゃった」
「いいの。私はオルトと一緒なだけで嬉しいよ」
僕もリリアと一緒の時間は嬉しいな。
そんなこんなで旅を続けていると僕もリリアも少しづつ強くなってきた。ちょっと強めの魔物でもなんとか倒せる様になった。
「ねぇ、リリア。僕ももっと頑張ったら魔王も倒せるかな?」
「オルトならきっと大丈夫だよ。私も頑張るね」
二人で強くなる、そう決めた。
更に旅を続けて、僕達はもっと強くなった。少なくとも酒場で馬鹿にされる様なことはなくなった。というかパーティーのお誘いも来る様になったけど断ってきた。
「オルトはパーティー組むの嫌いなの?」
「うーん、何ていうかリリアと一緒ならそれでいいかなって」
「ふふ、嬉しい」
リリアの笑顔は可愛いな。
もっと旅を続けて魔王の城に徐々に近づいてきた時、リリアの様子が変になってきた。何だかため息を沢山つく様になったんだ。
「リリア、どうしたの? 具合でも悪い?」
「ううん、何でもないの。ちょっと、ね」
僕にはよく分からなかった。
でも、これが……
――ある寒い夜、リリアが突然消えた。
僕は必死に探した。誰かにさらわれたんじゃないかと思った。色んな人に聞いて回った。だけど分からなかった。
僕は悲しくなった。リリアがいなくなって心にぽっかり穴があいた様な気分だ。
でも、魔王討伐はしなくちゃならない。前に進むしかない。辛いなぁ。勇者なんてやりたくないよ。
僕は遂に魔王の城までやってきた。長くて辛い道のりだった。でももしリリアが魔王にさらわれたんだったらリリアを助けることができると思ったから、乗り越えられた。
四天王と呼ばれる魔王の配下も倒した。
さあ、後は魔王だけだ。
ギィィィと扉が開く。間違いない。この先に魔王がいる。待っててリリア、魔王を倒して君を探しに……
「え……」
僕が見たのは衝撃的な光景だった。
「リ……リア。どうして……」
――リリアが魔王の玉座に座っていた。
「……オルト、よく来たね」
僕の名を知っている。ああ、間違いないリリアだ。
僕は戦いたくなかった。でも僕に流れる勇者の血はそうさせてくれなかった。
「リリア、僕達はなんで戦ってるのかな。僕は嫌だよ」
「そうだね。私も戦いたくない。でも魔王として戦うしかないの」
そういうリリアは泣いていた。泣きながら戦っていた。僕も泣いていたと思う。
――
長い戦いの中、ついに僕の剣はリリアを貫いた。これで終わりだ。
「オルト、君は強いね。私の負けだよ」
「……嫌だよ。僕、リリアとお別れしたくないよ」
僕は無意識に回復魔法をリリアにあてていた。勇者の血なんて嫌いだ。だから抗った。嫌だ、リリア、いかないで。
「オルト、魔王はまた復活する。私じゃないかもしれないけどまた世界のために戦ってくれる? 魔王の私が言うのも変な話だけど」
「……リリアのいない世界なんて僕は」
回復魔法をあてているのにどんどん弱っていくリリア。なんで僕らなんだ。なんで僕らが勇者と魔王なんだ。
「オ……ルト。もう……私は」
「リリア……」
「大好きだよ、オルト」
その言葉を最後にリリアは事切れた。そして亡骸も消えた。残ったのは僕がプレゼントしたネックレスだけだった。
――
魔王は討伐された。
世界は平和になった。
そう世間の人達は喜んだ。
僕は勇者として称賛された。
でも素直には喜べない。
「魔王は倒した。でもまた復活するかもしれない。その時に備えて僕は修行する」
なんてカッコつけて宣言したけど実のところは世間から離れたかっただけだ。
僕は人目につかない辺鄙な場所で過ごした。
それしか僕には無かった。
――そして三十年の月日が流れた。
ある日、僕は魔王復活の噂を聞いた。
僕はすぐに飛び出した。
勇者を引退した身だけど今の勇者が魔王に行き着くまでに僕は魔王の城へ急いだ。
リリアがいるかもしれない。
仮にリリアがいなくても約束があるから魔王を倒さなくてはならない。
今の勇者より早く、僕は行かなきゃならない。
そして僕は城に辿り着いた。
四天王も復活しているはずだ。また倒さなくては。
「貴様、あの時の勇者か」
城の門。巨大なドラゴンが僕に問いかける。やっぱりいたか。
「悪いけど邪魔するならまた倒させてもらうよ」
「ふん、お前なら相手にするまでもない。通れ」
「は?」
このドラゴンは何を言っているんだ? 魔王を倒しにきたというのにまるで客人でも通すかのようにその身を城の門から離した。
「どうした? 行くがいい。恐らく他の四天王連中もこうするだろう」
ますます訳が分からない。何故に僕を……
とにかく行こう。魔王の玉座へ。
その後の四天王も見知った顔だった。だけどドラゴンと同じように僕に道を開けた。
そして僕はついに玉座への扉へと辿り着いた。
リリアがいるのか、それとも新たな魔王がいるのか。僕はリリアがいてくれる事を願って扉を開けた。
「オルト。来たんだね。信じてたよ」
懐かしい声が聞こえる。ああ、間違いない。リリアだ。
「リリア、僕はもう君のこと離さない」
そう言ってリリアを強く抱きしめた。僕はもう勇者じゃない、だからリリアと戦う必要はない。
「オルト……嬉しいよ。だけど私は魔王、勇者と戦う運命にあるの。だから……」
「そんな運命、僕が捻じ曲げる。君をさらっていけばいいんだ。そうしたら君は勇者と戦わなくていい」
僕はリリアをさらう。遠い遠い場所へさらう。それからリリアと一緒に静かに暮らすんだ。
「なんだかそれだとオルトが魔王みたいだね」
「じゃあリリアはお姫様だ。僕だけの、ね」
僕はリリアの手を引いて魔王の城を後にする。と……?
「待て、元勇者オルトよ」
城の門でドラゴンに呼び止められた。何用だろうか。まさか魔王を連れ去ろうとしている僕を止めようと?
「お前が魔王様を連れて行くであろう事は我々四天王も予測していた。しかしどこへ行くというのだ? 人間からの追跡は免れぬぞ?」
「リリアに手出しする様なら相手が人間だって容赦しない。それが僕のリリアに対する償いだ」
「ふん。よく言った。我が背に乗るがいい。龍族の世界へ連れてやろう。そこなら人間も簡単には手出しできまい」
「本当か? それなら嬉しいけど」
「お前のためではない。魔王様のためだ。はき違えるな。では行くぞ」
僕達はドラゴンの背に乗って人間の世界から離れた。
――
朝日が眩しい。家の窓から差し込む光はいつも暖かだ。
「リリア、おはよう」
隣で眠るリリアに声をかける。これが僕達の日常。
「ん……おはよう、オルト」
「朝ごはんにしようか」
「うん」
僕達の朝はゆっくり始まる。ゆっくり始まって、庭の花に水をやり、家の掃除をして、畑を耕して、作物を収穫して……そんな風に毎日過ごす。
傍からみれば僕達は親子みたいな感じだ。僕は四十代、リリアはあの時の見た目のまま変わらない。
「それにしてもオルトが『龍の秘薬』をためらいなく飲んだのは凄いね」
「はは、リリアと長く一緒にいたかったからね。そのためなら人間じゃなくなっても気にならないよ」
ずっとずっと、僕達はここで穏やかに生きるんだ。
勇者でもなく、魔王でもなく。
ただの二人として。
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