モブですが、モブの彼女に出会うその日の為に、二度目の青春を謳歌します!
NeKoMaRu
第1話モブですが、その日おれは転生しちゃいました。
「初めまして! おれ、木橋雄太と言います。突然で驚いていると思います。でも、お願いします。聞いて下さい……その、、、おれと友達になって下さい!!」
募った思いを言葉に乗せ、おれは目の前の少女に頭を下げる。作戦も何もない、ただの直球勝負だ。もちろん、おれだって色々と考えたさ! でも、いざとなるとそんな物は全部どっかに吹き飛んでしまった。
なら、後は直球勝負しかないじゃないか!!
もし、思いが届かなくたって構わない。それはそうだろう? 彼女からすれば、おれは突然目の前に走ってきて、友達になって下さいとか言い出す、言っちゃなんだが訳の分からない男だ。あ、ひょっとしてドン引きされてないか? これ……。
永劫とも思える時間の中、あぁ、これは失敗した……そう思った時だ。
「……はい。わたしなんかでよければーーお友達になりましょう、木橋くん。わたしの名前は『・・・・』です」
くすくすと可愛らしい笑い声と後に、彼女がそう言って右手を差し出してくれた。
「ありがとうーーこれからよろしくな!」
あまりの嬉しさに、おれは少し涙を浮かべながら、彼女の柔らかな手を大切に握る。これからよろしくお願いしますと、そんな有り触れた友達としての握手だった。
これが、おれと彼女との出会いであった。ずっと、ずっと画面の前で待ち望んだ、本当の出会いの瞬間だったーー。
紳士の皆さまは美少女ゲームという物をプレイしたことはあるだろうか?
おれはある。というか、ハマりまくっている。コンシューマーゲームから、エ〇ゲーまで気になった作品は全てプレイしている!!
あ、ちなみに凌辱系とかは勘弁な? おれは純愛系メインのプレイヤーなのだ。
……ヤンデレは純愛に入りますか、と話題に上がることもあるが……グロいシーンがメインのヤンデレ系は遠慮している。
そして、おれが今一番ハマっているゲームは『君、時々恋時雨』というタイトルで、紳士の間では『きみこい』と呼ばれる大ヒット作品だ。何が素晴らしいかというと、ストーリーはもちろん、何と言ってもイラストを務めるのがあの巨匠作家様というのだから、人気が出ない方がむしろおかしい。そんな作品だ。
もちろん、グッズ展開もされていて、ゲームをプレイしたことは無くとも巨匠作家様の絵というだけで飛ぶように売れている。主に、趣味の為なら幾らでも財布のヒモを緩める紳士諸君にな!!
そして、おれは今日もパソコンの電源を入れ、きみこいのアイコンをダブルクリックする。もちろん、プレイをする為に……ではない。そうは言っても発売から既に数か月が立っており、流石に遊び尽くしてしまっている。イベントCGのコンプリートはもちろんもサブキャラクターを含む全キャラクターの選択肢の確認まで済ませている。
では何故、きみこいを起動するのか……それは、一枚のCGを見る為だ。それは、主人公とメインヒロインである『
おれだってなんで?とは思う。だが、これが一目ぼれという奴だったのだろう。肩までの黒髪、少し垂れた目元、その全てが可愛い!!そうビビビッと来てしまったのだ。こんな背景のモブの女の子(男?何それ)まで手を抜かず、しっかりと描ききるとは流石巨匠である。それからというもの、おれは毎日一度は彼女を見る為にきみこいを起動し、最大化した画面で彼女の事を眺めていた。我ながら、難儀な奴とは思うが、もうこればかりは仕方がない。おれのようにモブキャラに、というのは珍しいかもしれないが、紳士諸君の中にもきっと居るはずだ。もう何年も前のゲームなのに、未だに忘れられないヒロインキャラが、そしてヒロインキャラよりもサブヒロインが……さらに言えば、サブですらない妹ちゃんやお姉さん、お母さんだとか、果てはおばさんとかもーー。
「可愛いなぁ……うん、やっぱり好きだ。これが現実の写真の女の子だったら、本人を探しにだって行けるのにな」
まさにストーカーの志向である。むしろ、実在女子でなくて良かったのかもしれない。
そうして、十数分ほど画面を眺めていた時であった。
急激に空が曇り始めたかと思うと、凄まじい勢いで雨が降り出したのだ。
「うぉ、すげーな。ゲリラ豪雨って奴か?」
おれは画面から目を反らし、窓の方に目をやった。
「ん? あれって雷か?」
一瞬、雨の中にピカッと光るものが見えたかと思うと、次の瞬間にがドーンという音が響いた。
「やっべ、かなり近くに落ちたな……こりゃ、パソコンの電源ケーブル抜いといた方がいいかも」
とにもかくも、まず護るべきはパソコンだと慌てて立ち上がる。しかし、慌てたのがいけなかったのだろう、座りっぱなしだったおれの足は意志とは違い、咄嗟には動いてくれなかった。そして、そのままおれはヨロケ、頭をパソコンの画面にぶつけてしまった。あ、液晶割れたらどうしようという考えが浮かんだが、何故かおれの意識はそのままーー。
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