Tender
宇宙音
プロローグ
濡れそぼるアスファルトに、冷たい筈の十二月の雨が仄かに靄となって、辺り一面を温かく包んでいる。
夜明けよりも少し前。一匹の黒猫が微かに燈されている電灯を避けるように走っていた。かれこれ十数年も人間が寄り付かなくなってしまったこの場所は、夜にでもなれば、それこそ動くものの気配はない。
まるで霧でも降っているかと思わせる雨の中、音もなくその黒猫はとある場所の前で立ち止まる。この辺りにひっそりと犇めき合う野良猫とは違い、その黒猫の瞳はどこか意思を持ったように光っていた。
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