走れクソデカメロス

月白鳥

　メロスは激おこカム着火インフェルノファイナリアリティぷんぷん怒リームした。

　必ず、かの邪智暴虐悪逆非道最低最悪の王をチリも残らぬほど綺麗さっぱり除かなければならぬと神命に誓ってマジで固く決意しまくった。メロスには政治が金魚以下にわからぬ。メロスは、大陸くらいある村の牧人である。汽笛を吹きまくり、八百万の羊と遊びまくって暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一万倍に生娘の内股くらい敏感であった。

　きょう未明(午前一時である)メロスは村を出発し、野を百くらい越え山も千くらい越え、十万里はなれた此のシラクスのクソデカ市にやって来た。メロスには父も、母も(一人除く)友人知人も無い。ついでに女房も生まれてこの方彼女からして出来たためしが無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或るヤバいくらい律気な一万牧人を、近々、華婿として迎える事になっていた。激・結婚式ももうマジで間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の小林幸子みたいな衣裳やら祝宴の超スゴいヤバい御馳走やらを買い占めに、はるばるクソデカ市にやって来たのだ。

　先ず、その品々を棚の端から端まで有りっ丈持ちきれぬほど買い集め、それから都の象が十頭横に並んで突進できそうなほどのクソでかい大路をぶらぶら歩いた。メロスには松坂牛（ちくば）の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスのクソデカ市で、十世紀後まで作品が残る名石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。顔の造形を忘れるくらい久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのがマヂ楽しみである。

　歩いているうちにメロスは、まちの様子を超怪しく思った。ありえんくらい音がなくてヤバいほどひっそりしている。もう既に日もカスほども見えないほどすっかり落ちて、まちの梟すら目がしょぼしょぼすレベルに暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、幽霊とか出まくりそうな真っ暗い夜のせいばかりでは無く、東京ドームが二十個は入りそうな市全体が、胸やけしそうなほど重苦しくいやに寂しい。日向の子犬のようにのんきなメロスも、だんだんおしっこチビりそうなくらい不安になって来た。実際ちょっと漏らした。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二万年まえに此の市に来たときは、草木も眠るほどの超夜でも皆が老若男女問わずクソデカい声で歌をうたって、まちはディスコも嫉妬せんばかりに賑やかであった筈はずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて干からびた梅干しくらいシワッシワの老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをインナーマッスルが鍛えられそうな超振動数でゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる泥沼のように重々とした低声で、わずか答えた。

「王様は、人を殺します。」

「なぜ殺すのだ。」

「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」

「たくさんの人を殺したのか。」

「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」

「おどろいた。国王は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」

　聞いて、メロスは激おこカム着火インフェルノファイナリアリティぷんぷん怒リームした。

「呆れた王だ。生かして置けぬ。」

　メロスは、ゾウリムシよりも更に単純な男であった。荷馬車がブッ潰れるほど買い占めに買いまくった物を、山盛り全部括り付けて背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち(秒数にしてコンマ一秒である)彼は、巡邏の警吏に捕縛された。身体の隅々まで余すところなく調べられて、メロスの懐中からは背の丈くらいもある全く短くもないクソデカ鋭利な剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に引き出された。

「この短刀で何をするつもりであったか。言え！」

暴君ディオニスは魚の溜息の如く静かに、けれども神も震え上がってちびる威厳を以って問いつめた。その王の顔は瑠璃をぶちまけたように蒼白で、眉間の皺は、今メロスが持っているクソデカ鋭利剣で一万回刻み込まれてもこうはならんやろと誰もが思ったように深かった。

「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。

「おまえがか？」王は、憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」

「言うな！」とメロスは、煽られた火も鼻で笑うほど感情的にいきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」

「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」

「だまれ、下賤の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」

「ああ、王は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは五メートルくらい下にあるクソデカ足もとに視線を落しマジで瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」

「ばかな。」と暴君は、三日三晩水無しで歌いまくったようなクソ嗄れた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」

「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

　それを聞いて王は、部下が生きて聞いていればドン引きするくらいの残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三万日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしはもうおやつを目の前で食われた小倅みたいにしょぼっしょぼの悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」

「なに、何をおっしゃる。」

「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」

　メロスは口惜しく、床が割れて隕石が落ちたみたいなクレーターが出来る勢いで地団駄踏んだ。ものも一切合切隻句たりと言いたくなくなった。

　松坂牛の友、セリヌンティウスは、深夜(午前十二時半)、デカくなりすぎて何処が何処なのかもう分からない迷宮と化した王城に召された。暴君ディオニスの面前で、佳き友と佳き友は、二万年ぶりで相逢うた。メロスは、顔も覚えていないくらい久しい友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言で首肯き、メロスをひしと、メロスでなければ全身の骨が粉々に砕け散る勢いで抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは、それはもう芸術的に見るものが見ればよだれを垂らすほど技巧的に縄打たれた。メロスは、マジですぐに、もう秒で出発した。初夏、グラニュ糖一キロパックを全部床に溢す勢いで満天の星である。

　メロスはその夜、一睡もせず十万里の路をマジでほんともう急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌あくる日の午前、陽は既に棒高跳びの選手でもそれは無理やろと言いたくなるほど高く昇って、村人たちはクソだだっ広い野に出て残業代出したくなるほど多い仕事をはじめていた。メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに八百万の羊のクソデカ大群の番をしていた。生まれたての小鳥が苦笑するレベルでよろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて目ん玉どころか心臓と魂と胃の中身も飛び出そうなほど驚いた。そうして、メロスでなければ鼓膜が粉微塵になり、耳の胼胝で音が聞こえなくなるほどうるさく兄に質問を浴びせた。

「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」

　妹は頬をあからめた。

「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」

　メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。