竜の章
青龍の仇討ち(前編)
「ハヤテさん、そちらの状況はいかがですか?」
「はい、叡持殿! どうやら無事に処分が完了したみたいです。任務を完了させたドローンはどうしますか?」
「では、次の被検体の処分に向かって頂きましょう。異形化が完了した被検体はまだまだ残っています」
「はい、じゃあ、とりあえずコマンド送っときます」
「よろしくお願いします、ハヤテさん」
少しは湿っぽい日々が続くと思っていた。余りの忙しさに汗をかくハヤテは、黙って天井を見上げた。
俺、一応、無断で危険なDドライバを持ち出したんだけど……。
この城に帰ってきた時、少しは苦い顔をされるもんだと思っていた。信用を取り戻すまで、数日間は冷たい視線を向けられるもんだと思っていた。
……むしろ、それくらいされた方が自分にとっては楽だったかもしれない。
自分の気持ちを整理するため、自分はこんな程度の者だ、そう言い聞かせるために。
だが、ハヤテは忘れていた。叡持は、魔導士関連以外では常に冷たく、合理性にのみ基づいて行動するということ。常に最高・最善の判断をするということ。それに感情はまったく挟まないということを。
帰って早々、こんなに多忙になるとは。魔導士との一件で放置していたことが、一気に降りかかっている。
……それにしても、こんなにずさんにDドライバを管理して、後でトラブルになることはないのだろうか。まあ、だから今、急いで回収をしているわけだが。
『叡持! Dドライバの試作品、完成したぜ!』
通信用魔術を通し、シオリの疲れ切った、だが達成感に満ち溢れた声が届いた。
「シオリさん、ありがとうございます。複製品はありますか?」
『いや、一回叡持に見てもらってから、テスト用の複製を作ろうと思ってる。早く見てくれ』
「分かりました。直ちに向かいます。ハヤテさんは引き続き観察をお願いします」
「は、はい……」
一言残し、叡持は部屋を後にした。こんな量の作業をやれってか……。必要とされているのは嬉しいが、素直に喜べない。御咎めなしならこれもありか。今の状況を無理矢理納得させ、ハヤテは作業を黙々と進めた。
〇 〇
「まさか、あの魔導士の魔術をこうやって使うことになるとはな……」
「シオリさんからすれば、一度全力で衝突した相手。抵抗感をお持ちですか?」
「そんなことはねぇ。私からすりゃ、あのDドライバの爆発の方がトラウマだぜ。……さて、これが完成した試作品だ。まずは見てくれ」
シオリの作業スペースには、大きな機械がひしめき合っている。その部屋の中の作業台に、その魔道具は置かれていた。
「……これは、槍の穂先ですか?」
「ああ。本当は剣にしようと考えていたんだが、どうも刃の部分の調整が上手くいかなくてな。だが、柄の部分に強力な魔導材料を使えば、そこらの長剣型Dドライバなんかより戦闘能力は高くなるぜ」
自信満々の笑みを浮かべ、叡持の方向を見るシオリ。叡持は作品に対して感嘆の意を表し、冷静に道具としての性能、研究での役割を考えていた。
「調整というのは、やはり爆轟術で生命エネルギーに干渉するところですか?」
叡持の質問に対し、シオリはややばつの悪い顔をした。
「まさにそうなんだ。本当は副作用を抑えるために生命エネルギーに干渉してぇのに、逆に副作用を促進させる可能性だってある。まあ、促進の原因が分かれば、抑制の方法が分かるかもしれねぇがな」
「……了解しました。さて、新世代Dドライバの場合は、今までの被検体を選ぶ基準では不具合が起こりそうですね」
「というと?」
「今までは、爆轟術による副作用の解明が研究の目的でした。ですが新世代Dドライバで研究すべき部分は、生命エネルギーの観点から見た爆轟術です。僕は新たな選考基準を考えることにします。では、僕は失礼しますね。シオリさんは試験用の複製品を製作してください。被検体が見つかり次第、フィールドワークを開始します」
「分かった。じゃあ、私は槍を完成させておくぜ」
「よろしくお願いします」
〇 〇
叡持は自分の部屋に戻った。様々な選考基準を考案し、コンピュータで計算をする。計算を繰り返すにつれ、最も合理的な基準が構築されていく。
一時的なアルゴリズムとしては十分だろう。構築された基準のデータを、すべてのドローンに転送する。
ドローンの行動は早かった。理想的な被検体を一人、ぱっと弾き出した。
「ハヤテさん。久々のフィールドワークです。被検体はこちらです」
叡持は何気なく、情報を共有するために、被検体の情報を見せた。そして、ハヤテの顔が一瞬で凍り付いた。
「か……、母さんの…………、仇」
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