対峙・爆轟の大賢人と黒い魔導士(前編)
ああ、胸が……、胸が苦しい。
薄暗い洞穴。並べられた怪しい品物が、ろうそくの光でゆらゆらと影を落としている。
その中心で、一人魔導士は佇んでいる。黒いローブを着込み、水晶玉を覗き込んでいる。
私は、既にあの魔法使いの魂を捉えている。あの魔法使いが何をするのか、私に隠すことは出来ない。そして、あの魔法使いはそのことに気がついていない。
タン、タン、タン……。
暗闇の奥から、ゆっくりとした足音が聞こえる。この洞穴にいるのは魔導士一人。しかし、それ以外の者の足音が響いている。もちろん、魔導士はその足音の正体を分かっている。足音が近くなるにつれ、魔導士は息が苦しくなっていく。これは緊張か、それとも興奮か。少なくとも、今まで魔導士はこんな感情を味わったことなどなかった。
タン、タン、タン、タン、タン。
音の主が近づくと共に、その暗闇の中に一つの光が見え始めた。青白色の光が、少しずつ近くに来る。なぜか不快感はなかった。代わりに、謎の快感のようなものが、胸からこみ上げてくるのを感じた。
タン。
足音が止まった。
魔導士は水晶玉を覗くのをやめ、ゆっくりと、足音の場所へと振り返った。
そこには、暗闇の中から浮かび上がる人影があった。自ら発光し、暗い洞穴を照らしながら立っていた。
青白色のオーラを纏い、蒼い装束身に着ける。顔には大きなゴーグルと、口元には謎の装甲のようなものを装備している。
ゴーグルには複雑な文字が流れては消える。ローブの間からは、その内側に隠れた装甲が見える。
この怪しく、そして殺意に満ちた姿。この場所までくる精神。滲み出るこの魔法使いの強さ。すべてが、非常に興味深く、そして知らないものだった。
魔導士は息苦しさに耐え、この魔法使いをじっくりと観察した。
「まさか、本当に首謀者がいらっしゃったとは」
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叡持の城で、シオリはナビゲートをしていた。フィールドワークをする叡持とハヤテをサポートし、リアルタイムに流れてくるデータを処理する。
「……気を付けろ、叡持。こいつ、かなりの魔力があるぜ。何をしてくるか分かんねぇ」
『理解しています。この謎の術者、とりあえず魔導士と呼びましょう、この魔導士の魔力はこちらでも見ることが出来ます。何より、こちらはあの黒い煙以外の技を知りません。慎重に行動します』
「ああ、死ぬなよ」
叡持のナビゲートを一度中断し、ハヤテとの回線をつなぐ。
「おいハヤテ、そっちの様子はどうだ?」
『はい、棟梁。こっちはずっと待機してます。まさか、首謀者がほんとにいたなんて、驚きですよ。それに、こんな奥地というか、まず人、それどころか他の生物すらいないような場所の、こんな洞穴によく仕事場を作ったな、って思いますよ』
ハヤテは洞穴の入り口付近で待機している。さすがに洞穴に突入するほどの戦力はないと、叡持とシオリに判断されたからだ。また、彼が力を発揮するには竜の姿でないといけないが、その姿ではこの洞穴に入ることが出来ない。それくらい、入り口は小さかった。
ハヤテは魔術で空間に表示したモニターで、洞穴の中の様子を観察し、そしてシオリ、叡持の二人と連絡を取っていた。叡持に何かが起こればすぐさま救出し、速やかに城に帰還する。フィールドワーク先がフィールドワーク先なだけに、今回は常に緊張しながら、常に万全の体制を整えている。
叡持の行動は早かった。
彼は既に、この力の発生源の見つけ方を確立していた。あとは、データを集めて場所を特定するだけ。その間に、自身の法衣装甲のアップデートをシオリに依頼する。ハヤテは戦闘訓練を行う。時間を一切無駄にせず、場所を特定次第すぐにフィールドワークに移る用意が出来ていた。
そして、場所を特定した。
彼らが赴いたのは、この世界でも特に険しい地域。高い山がいくつもそびえ、普通の人間ならまず入ろうとしない地域。そもそも、この場所を把握している存在は、叡持の勢力だけかもしれない。険しくて、まともに侵入しようとする者は存在せず、得がないために国にも編入されない。生態系もほとんど存在しないので、周りにも生き物の気配がない。
そんな、誰にも知られない場所。誰もが認識しない場所にある、小さな洞穴。叡持が思わず「こんな場所が存在していたとは……」とこぼすほどの僻地。
「ハヤテ、今でこそ魔法使いは普通に一つの職業となってるが、もともと魔法使いってのはこういうもんだ。誰も理解できない難解で高度な技を使う奴はまず一般社会では馴染めない。そもそも、社会に馴染めない人間が魔術に手を出すことが多かった。叡持だって僻地、世界と世界の狭間に城を築いてる。たぶん、叡持は内心羨ましく思ってんじゃないか? こんないい立地があるなんて、とか考えてるぜ、きっと」
「そうなんですか。とりあえず、俺は警戒態勢を維持します」
『ああ、任せたぜ!』
シオリはハヤテを激励した後、データの処理に戻った。
この、危険を冒すフィールドワークで、最大限の成果を上げるため。大量、かつ重要なデータを収集し、叡持の研究を進めるため。
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