Libertaris story〜リベタリ物語〜

夜季星 鬽影

RiveraStoty

変化、兆

すべての始まりは、生まれてから3年経ったあの時だった......

しかし、今回はその後の――自らの魔法を知った、その時の話.........



リベラ10歳。まだ自身を『リベラ・ノクス』と名乗らず、騎士養成学校へ入る前の事だった


その日はいつものように養父であるイスタシアと一緒に自身よりも年下の孤児達の面倒をみて、一息いた時の事


「イスタシア様!!あとは何をしたらいいですかっ!?」


濃い青色―ブルーサファイア色のおさげを軽快に揺らし、イスタシアへと飛びついたリベラは満面の笑み。それを見たイスタシアは微笑んで、飛びついた事への注意とお使いを頼みたいとリベラへ伝える


「えへへ、つい...お使い、ですか?私1人で街へ!?」


その言葉に驚いて、インクブルーの瞳をパチクリさせているリベラへ向かい、もう10歳になったのだから、とお金と買う物を書いたメモを渡した



リベラが拾われたのは3歳頃の事だそうだ。勿論、何も覚えてはいない

それからずっとイスタシアのもとで他の孤児達と暮らしていた.........



「分かりました!へへ...緊張しますが、行ってきますっ!!」


恥ずかしさと嬉しさ、緊張が綯交ないまぜになった複雑な気持ちを胸に、笑顔でイスタシアの家を出た


しばらく歩くと活気ある街の商店街へ

目的の物を見つけたリベラは、早速購入してすぐに帰路へ着く


「早く帰ってイスタシア様にご本を読んでもらおうっ!」


買い物を無事に終えた事で安心し、ルンルン気分で歩く道......

ふと我に返ったように辺りを見回すと、全く知らない路地にいた


(あれ?いつもの道を歩いていたのだけれど...??)


知らない場所に恐怖がこみ上げる......


(ここ、どこ?イスタシア様...)


振り返れば来た道は霧で閉ざされ、目の前にはぽっかりと暗闇が口を開けている


『うまソう、みつケた...』

「ひっ...!?」


すぐそばで聞こえた囁き...不気味で神経を逆撫でする声だった


『おまエ、おれタちに、にてルな...?』

「ぁぁ...い、いや...!」


震える脚を必死に動かし後退りするも、見えぬ何者かに腕を掴まれた


「いやっ!!離してっ!!」

『うマそうなもの、はナさなイ...』

「いやだっ!離してぇぇ!!イスタシア様...助けて...」

『だレもこなイ...うまソう...』


何者かはジュルリと舌なめずりをする

それを見たリベラは、ドクンッと心臓が脈打つのを感じた


(身体が熱い...なに、これ...?)


腕を無理矢理に引っ張られながら、身体は徐々に熱く、息苦しくなってくる......


『なンだ?おまエ、魔法デも使うノか?』

「ま、ほう...?」


嫌だ嫌だ嫌っ!死にたくない助けて!生きたい帰りたいやめてっ!!

そんな事しか頭に浮かばず、身体は更に熱くなる


「っはぁ...なに?どうなっちゃうの...?」

『今カらおレに喰わレるんダよ...』


ぼぉっとする意識の中、ずるずると引きずられる身体


「いや!!いやぁぁぁ!!!」

『うルさいナっ!』

「きゃっ!?」


いきなり頬を叩かれ、身体が宙を舞った

どさっと落ちて何者かの全身を、見てしまった......


人に似てはいるが、おぞましい不気味な姿。これが魔族と呼ばれる存在だろうか...?


「っ...あぁ...い、痛い...にげ、なきゃ...!」


口から血が出て、身体のあちこちがかすり傷だらけだ...

起き上がろうと身体へ力を入れると、頭を掴まれた


「あぁ...」

『にがサなイ...ここデ...』

「いやぁぁ!!死にたくないっ!」


魔族は頭を掴んだ手に力を込めている。ミシミシと自分の頭に響く音を聞いていた、その時

再びドクンッと心臓が脈打った

死にたくない、という願いを叶えようとするかのように......


「あ...うぅ...」

『なンだ...??』


リベラからは真っ黒な魔力のような何かが溢れ出してきていた


「〝きた、れ...し、しんえんより、いでよ...〟」


目は虚空を見つめたまま涙を流し辿々たどたどしく、溢れ出る言葉を紡ぐ


「〝ばん、ぶつの...ことわりを、くつ、くつがえ、せ...〟」

『なンだ!?こんナガキが魔法ヲ...!?』


魔族は掴んだ手を離せず、その場に凍りついたように動けなくなった


「〝Vita detrahereいのちをうばえ〟」


言い終わった瞬間、身体を覆い尽くそうとしていた熱は冷め、鼓動も落ち着いた

知らぬ言葉だった...そんな言葉、どこで覚えたんだろう?唱え終わってもそんな風にしか思わなかった......


詠唱終了後。魔族は急に呻き、リベラを放り投げた

穴という穴から血を噴いてのた打ち回り、叫んでいる.........リベラは動けず地べたに寝転がったままで、その様子を見ている事しか出来なかった......


薄れゆく意識の中、遠くで聞こえる足音と金属の擦れ動く音に気付いた

あぁ、騎士団の人かなぁなんて呑気に考えていると


「うっ......ごほっ!」

突然の頭痛。それと共に血が口から溢れ出て、青白く光る何かが右目を覆った

そのすぐ後。首元がもぞもぞっとし、黒い蝶らしきものが目の前を通り過ぎた......それをぼんやりと、見にくくなった右目とはっきり見える左目で見て、リベラは意識を手放した......




『ふふ...よくここまで育ってくれましたねェ...実験は順調のようでス...』


黒い蝶は一部始終を見ていた何者かの元へと飛び、その者と共に姿を消した.........



******



目覚めたのはそれから数日経った日

目を開けると右目が真っ暗だ

あぁ、失明しちゃったかな...なんて考えていたが、触れてみると包帯が巻かれていただけのようだ...少し安堵した


「イスタシア様...?どうしましたか?」


起きたという知らせを受けて慌ててやってきたイスタシアに、リベラはきょとんとして尋ねる

あの時の事をあれやこれやと聞かれるが、ほとんど覚えておらず、終始困り顔をしていたリベラ

あれから数日経っていたなんて......と驚くばかり


同じく知らせを受けた祭司がリベラの包帯を解くと、その場にいた者達が息を呑み、驚愕したのが分かった

何を驚いているのだろう?といつも通りに見える両目で皆を見ていると、鏡を持ってきてくれた祭司


「.........え......?これが、私の...目?」


鏡に映ったのは左右で違う色をした瞳

右目は勿忘草色に薄く変わり、左は以前と同じインクブルーだった


「何が...どうなって......右、目...?」


その瞬間。初めて紡いだ言葉に、悍ましい姿ののた打ち回る最後。黒い蝶に熱くなった身体......そして自身の魔法には様々な〝呪い〟とも言える効果を持つモノがあるという事を思い出した......


その話を黙って聞いていたイスタシアは、優しく頭を撫でてくれた


右目を覆ったのはおそらく自身の魔力だろうと教えてくれ、見えなくならずに済んで良かった、と。

周りの大人達も魔族と聞いてよく生きて帰った、と労ってくれた


しかし。まだ幼かったリベラには恐怖しか残らなかった......

初めて遭遇した魔族を...魔族とはいえど命を、この手で。

言の葉を紡いだだけで、こんなにも容易く奪ってしまったのだから。


それからリベラは自身の魔法とその代償についてイスタシアだけに話した。そして、他の誰にも言わずに過ごして来た


怒りや悲しみ、喜びや感動...ありとあらゆる感情が頂点に達した時。はそっと忍び寄っては、リベラから出ようと暴れるようになった

その度にイスタシアや他の大人が止めてくれたが、傷は癒えるどころか深まるばかり.........いつしか表情のコロコロ変わる可愛らしい女の子は影を潜め、代わりに感情を心の奥底へ仕舞い込んだ、人形のような少女がそこにいるようになっていた.........



☆☆☆☆☆☆



「.........」


まだ薄暗い早朝。寮の部屋で目を覚ました


(最近よく見るな...)


過去の記憶。入団式の日に思い出してからというもの、毎日のように見る夢

最近は親しい人間が増え、以前よりも喜怒哀楽を外へと出すようになっていた


(また、同じようになるって警告か?それとも......)


そこまで考えて、かぶりを振った

そんな事にはならない。大丈夫だ、と胸元をギュッと握りしめて言い聞かせた


起きるにはまだ早いが丁度いい。外へ出る支度を済ませると、人知れず朝靄のかかった静かな街へと出ていく

魔族について、20年前の事件について調べる為に。




『見つけましたヨ...また相見あいまみえる日が楽しみですねェ.........』


朝靄に隠れてリベラを見つめる人影は、クツクツと嗤ってその姿を消した......


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