第4話

 このことが俺をこんなに悩ませるとは夢にも思っていなかった。俺はその夜、二十歳になってはじめての酒を買った。梅酒二缶、童顔だから保険証を見せたがあんがい体は酒に強かった。いつもの公園のコンサート用のステージの段々に座り酔ったように「酒うまいな」と言って見せたりしたが酔狂にはなれなかった。心に冷たいつららがつかかっていた。泣きたくなって桜が咲く夜の空を仰ぎ見た。

「くそ、スマホも壊れて」

 自分がどうして「俺」かなんて考えてこなかった。別に小さかったころからこう男勝りだったわけではない。今も変わらずだが、毎日本を読んでいたし立派におままごともしていた。ただその時から自分は「俺」だった。体は女だし別に女が好きなわけではないけど俺は俺だった。ただ一つ男に憧れを抱いていた。これは今も揺るぎない。

 正直、女の子らしくなんか大嫌いだ。あぐらだってかきたい。サッカーや野球こそしないけど誰よりも男らしくいきたいと思っている。

「じゃあ、それでいいじゃん」

 冷たい空気の中、口に出しては見たものの、いまだに腹の中で収まりのつかない何かがある。「俺は俺、俺は俺」そう、頭に念じて帰った。

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