おとぎばなしとドロシィ 魔法の靴で行く名作童話ツアー
soldum
人魚姫とドロシィ
人魚姫とドロシィ(1)
1話目にしてパイロット版。
魔法の靴の設定などこの後のお話とちょっと違う部分もありますが、その辺りはあまり気にしないでください。
※この「人魚姫編」のみサークルメンバーのシナリオ原案がありましたので、完全オリジナルではありません。あしからず。
******
「ほっ、と」
「到着でございます」
一瞬の浮遊感の後、ふわりとドロシィの足が地を踏んだ。
「ここがそうなの?」
「はい、こちらが『海』でございます」
ドロシィと魔法の靴が降り立ったのはエメラルドの波を見下ろす岬の上。
「…………」
「…………」
ざざーん。
「……碧いわね」
「碧いですねぇ」
ざざーん。
「…………」
「…………」
ざざーん。
「……えっと、これだけ?」
「ご覧になりたいと仰られましたので。どうぞ心ゆくまでご覧ください」
「いや、うん、綺麗だけど」
「まぁお一人で海というのはあまり聞きませんね」
「それなら最初に教えて欲しかったわ」
「浜辺に降りてみられますか?」
「浜?」
「あちらに砂浜が見えま……おや?」
魔法の靴が珍しく言葉を途中で区切ったのにつられて、ドロシィも砂浜に目をやる。するとそこには遠目にもわかる人影らしきものがあった。
「あら、誰かいるじゃない。ねぇねぇ、あそこに連れて行ってちょうだい?」
「よろしいのですか? どこのどなたかも判然としないのですが」
「せっかくの冒険ですもの、お友達は多いほうがいいじゃない」
「さ、左様ですか。では、踵を三回、鳴らしてください」
「ええ、楽しみね!」
カン、カン、カン。
「ひぁっ!」
ドロシィが踵を三度鳴らした次の瞬間、ドロシィと魔法の靴の耳に届いたのは甲高い悲鳴だった。
「驚かせてごめんなさいね。わたし海って初めてなんだけど……あら?」
「おや?」
今度はドロシィにつられて魔法の靴が声を上げた。
「あわっ、あのっ! っえ、いま、どこ、だれっ?」
「あら! あらあらあら!」
動揺する悲鳴の主に思わず駆け寄るドロシィ。
「あなた、人魚ね!」
靴の力で移動した二人の前にいたのは、陽光をキラキラと反射する銀色の紙が印象的な美しい少女。大胆に肌を見せるファッションはともかく、突然現れた一人と一足に驚いて口をぱくぱくさせている顔は素朴ながらも整った容貌をしている。
ただし、その腰から下は海の色と同じ碧いウロコに覆われ、大きな尾ひれは海水に浸されている。
そしてその隣にはしっかりした身なりの、意識のない若い男が――。
「……ねぇ、魔法の靴さん。人魚って人を食べるの?」
「たっ、食べませんよ!」
靴よりも先に人魚の少女がほとんど悲鳴に近い声をあげた。
「あらそうなの。じゃあ安心ね」
「いえそういう問題では……そもそも人魚というのはドロシィ様がお会いした旅のお仲間以上に珍しい存在ですから、人間に対して友好的かどうかも定かではないのですがね。かくいう私も直接見るのは初めてでございまして」
「じゃあ、わたしがこの出会いをみんなに伝えないといけないのね?」
「やっ、だめです! だめですからね! 人魚は人間に姿を見られちゃいけないっていう掟が……あっ」
「掟、ですか。それは初耳でございますな」
「み、見ないでください! 見ちゃダメです、ダメですからね!」
慌てて両手で顔を隠す人魚の少女。そっちより思いっきり見えている下半身の方を隠した方がいいんじゃないかと思ったドロシィだったが、三人の誰かが次の言葉を口にするより先に、これまで一言も口を開かなかった四人目がうめき声を発した。
「う、うぅ……ん」
「ひぅっ!」
倒れていた若い男が呻くと、人魚の少女はビクッと肩を跳ねさせた。そのまま尾ひれを使って飛び退り、海に飛び込んでしまう。
「あ、ちょっと! この人、この人どうしたらいいの!」
「呼び止めてはいけませんよドロシィ様。彼女は人に見られてはいけないのです。我々と出会ってしまったのは不可抗力ですが、これ以上誰かに見られるわけにはいかないのでしょう」
「つまり恥ずかしがり屋さんなのね」
「あの、話を聞いておられましたか……?」
二人がのんきなやり取りをしていると、さっきの呻き声が覚醒を促したらしく、何度か咳き込みながらも男がうっすらと目を開けた。
「ここは……?」
「目が覚めたのね。残念ながらここがどこなのかわたしもよくわからないの。靴さん、ここはどこ?」
「あいにく存じ上げません。私は海としか指示されておりませんので」
「……君は?」
「初めまして、ドロシィよ」
「ドロシィ……どうやら君が僕を助けてくれたみたいだね」
「助けた?」
「海で溺れたのでしょうな。察するに先ほどの人魚様がこちらへ運んで来られたのでしょう」
キョトンとするドロシィに状況から事情を推測する魔法の靴。しかし結局よくわかっていないのか、今度は男の方に向かって。
「そうなの?」
と首を傾げる。
「何がだい? というか、先程から誰かと話しているようだが、君のほかにも誰か居るのか?」
「誰かってだからまほ――」
「ドロシィ様、私の声は普通の人間には聞こえておりませんよ」
ドロシィの言葉を魔法の靴が遮る。
「そうなの?」
「だから何がだい?」
「ああもう、やりにくい!」
「……よくわからないけれど、とにかく助かったよ。お礼をさせてくれないか」
「――お礼?」
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