第10話

 永遠の夏を生きる星人たちの生活は、もうすぐ終わりを告げる。異次元での世界構築が限界を迎えているのだ。次元維持機関に不具合が生じており、修理しようにも地球の資材や技術では対応できないのだった。地球は、エジュラのテクノロジーにまだまだ追いついていない。


 柿沼と栗山は部屋に現れた男たちに引き立てられカプセルへと押し込まれた。


 柿沼はさらに後ろに存在するカプセルを確認した。全部で十本ある中で、柿沼と栗山、そして誘拐された男性一人と女性二人の計五人がカプセルに閉じこめられている。


「相変わらず効率が悪い!」


 文句を言いながら実験室に入ってきた人物を見て、柿沼が絶句した。


「また十本全部の用意ができていない。全員終わるまでに何年かけるつもりなんだ」


「昆虫を相手にするのとはわけが違うんですよ教授」


 教授と呼ばれた人物は白衣の男、セ・ダォの言葉に鼻を鳴らした。


 教授。


 その呼び名と、子供のままの姿は当時と同じだった。そして教授を追うように現れた少女を目の当たりにした途端、幼い頃の胸の高鳴りが蘇った。


 まさか彼らがエジュラ星人だったとは。しかも……二人ともあの日とまったく変わっていない。


 キツネかタヌキに化かされたんだと笑った祖母。しかしあれは事実であり、幼い自分はエジュラ星人とすでに会っていた。そして四十年を経て、また関わりを持つことになったこの現実をどう受取ればいいのか。


「今度こそ、教授にはこの中から身体を選んでもらいますからね」


 すでにセ・ダォは地球人の姿をまとっていた。異様に長い手足を動かして、ボディ・スナッチの準備に没頭している。


 腰に両手を当てた教授が、値踏みするような視線をカプセルに向けた。


 刈り上げ七三の黒髪に、どんぐり眼。襟付きのシャツと紺色の短パン、サスペンダーという出で立ちも寸分違わない。


 懐かしさに胸を詰まらせた柿沼の表情に、教授の視線が止まった。


 一瞬、なんだコイツという顔をした教授だが、すぐにセ・ダォの言葉に意識が逸れる。


「選り好みは認めません。レビ・ガノと一緒にどうぞ」


 これもまた、ひまわりの模様のワンピース姿の少女が困惑の表情を見せる。


 柿沼はレビ・ガノが少女の名だと知った。


「間もなくあとの三人がやって来ます。それまでに決めちゃってくださいよ」


「ダメだな。今回も子供がいない」


「教授、またそんなわがままを」


「吾輩は子供がいいんだ。しかも男の子でなければダメだ」


「子供の誘拐って簡単そうでいて全然難しいんですよ。親の目だけじゃなく近隣住民の目もあって、町中に人や防犯カメラの目が溢れているんです。で、ほらカプセルの先頭、暑苦しいワイシャツ姿のオッサン二人がいるでしょ?」


 オッサン呼ばわりされた栗山が抗議の声をあげた。


 しかしそれは無視され、セ・ダォは続けた。


「こいつらは警察官です。ちょっと人を誘拐するにも、すぐにこういう奴らがついてくる世界ってことを理解してもらわないと」


「まあ、時間切れになる前に中心的な者たちを先に選び出し、次元を去る準備に入りたい気持ちもわかるが」


「なら素直に従ってください。特に今回は女性を二人も確保出来ました。これまでは若いのがいい、美しくなきゃ無理だとごねられましたが、見てください。カプセルに鎮座ましますお二人のお嬢様を。若くて可愛い! この機会を逃せば次を保証しかねる状況です。この際、教授のご希望は我慢して、大事なレビ・ガノのために選択をお願いします!」


 教授がレビ・ガノを手招きする。


 彼女が自分に寄り添うのを待って教授は口を開いた。


「断る」


 それは断固とした口調だった。

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