第47話 テストの結果公開。

 今は学校のお昼休み。ご飯を食べ終え廊下に来ている。周りには沢山の生徒。


 夏休み明けにあった校内実力テストの結果上位三十人が壁に張り出される日。先生が二人来てペタペタと張っている。


 どれどれ……ほほう。学年一位は安定の沙羅ですか。毎回毎回やりますね。さすが自慢の妹。ここにいないのに存在感半端ないねっ。


 そして二位は——


「う、嘘でしょ⁉︎ 和希君が二位⁉︎」


 隣にいる紫音さんが驚いている。うん。ボクもびっくりだぁ。


「やるな和希、負けた。昔のおまえに戻ったんだな。おかえり」


 そう言って俺の頭をくしゃくしゃと撫でる桐人。


「ま、まぁ、夏休みがんばったからね。当然の結果さ」


 ちなみに桐人は三位。紫音さんは四位。俺達と一緒に来ている花ちゃんの名前は……ない。


「……皆さん凄いですね……」


 花ちゃんがボソリと呟いた。顔が暗い。しょんぼりしている。


「俺は出来過ぎかなぁ。嬉しいけど」


「そうだな。和希はいつもワースト三だったからな。それが今回はトップ三。夏休み向こうで優秀な家庭教師にでも習ったのか?」


「まぁそうだね。優秀な家庭教師のおかげだね」


 雲雀さんありがと〜。俺はやりましたよぉぉ。


「はぁ……。そっか。私四位かぁ……」


「紫音さん、ドンマイっ」


 俺は紫音さんに親指を立て微笑んだ。


「……そのドヤ顔……なんかムカつく。調子に乗るなコブタァァ!」


「あうあうあう。ごめんなさい。調子に乗りました」


 「あっ。私の方こそごめん」


 推しと同じ声で怒られた。胸が高鳴り嬉しいけど、ムカつかせてごめん。でもまた怒られたいかもぉぉ。


 俺達のやり取りを見て桐人は『ふっ』と笑った。そして『教室に戻ろう』と言った。


「あの……私……」


 花ちゃんがモジモジしている。何か言いたそうだ。


「うん。分かった。先に行ってるね。ほら二人とも行くよ」


 え? 紫音さんはエスパーなの? 花ちゃんが何を言いたいのか分かったの?


 花ちゃんを一人残し俺達は教室に戻った。


「紫音さん。花ちゃんは何を言おうとしたの?」


「和希君、あなたデリカシーがないよね。それじゃモテないよ」


「そうだな。外見は変わっても中身は変わらずか」


 二人から咎められた。デリカシーがない? なに? 何なの? ……あっ。


「もしかして……トイレ?」


「……はぁ〜。ホントに和希君はデリカシーがないよね。サイテー」


 桐人もため息を吐いている。あぅぅ。ごめんなさい。


 ◇◆◇


 しばらく三人で雑談をしていた。あれ? 花ちゃん遅くないか?


 もしかして、ウン——。


「花ちゃん遅いね」


「そうだな」


 紫音さんと桐人が話をしている。二人の顔が曇っている。なんだか嫌な予感。


「もしかして花ちゃん、トイレットペーパーがなくて困ってるんじゃ……」


 二人が呆れ顔で俺を見ている。


「和希君……教室にあの三人がいないの気づかない?」


 あの三人? 教室を見渡す……あっ。


「あの三人って、俺に因縁吹っかけてきた女子か!」


 確かにあの三人が教室にいない。マズい。花ちゃんに絡んでいるかも! 階段の踊り場か? 女子トイレなら俺は入れないぞ!


「とりあえず行ってみよう。紫音さんは女子トイレお願い」


「うん分かった」


 俺達の取り越し苦労ならいいけど……。


 俺達三人は教室を出た、俺と桐人は踊り場へ。紫音さんは女子トイレへ。


 ◇◆◇


 踊り場へ到着。……いない。紫音さんが遅れて合流。女子トイレにもいなかったらしい。


 心配しすぎ? 偶然四人が教室にいなかっただけ? 俺は廊下に戻り辺りを見渡した。


 ……ん? 家庭科室の扉が少し開いている。いつもはキチンと閉まっているはずなのに。


 俺が見ていると少し開いている扉が閉まった。人がいる。確かこのあと家庭科室を使うクラスは無かったはず……。


 俺の嫌な予感がはずれろと願いながら家庭科室へ向かう。


「ちょっと待って」


 紫音さんが俺を止めた。


「何?」


「もし花ちゃんとあの三人がいても中に入らないで様子を見て」


「どうして?」


「私思ったんだけど、もし花ちゃんが絡まれていて私達が助けても花ちゃんの為にならないと思う」


 桐人も紫音さんの言葉に頷く。


「これから先も絡まれる可能性があるでしょ? 毎回私達が助ける事は出来ないよね? だから自力で対処してもらいましょう。大丈夫。ヤバイと判断したら入るから」


「いや、でも紫音さんは俺をすぐ助けたでしょ?」


「あの時は和希君が攻撃しそうだったから止めたの。和希君が加害者になりそうだったから」


 え? 俺そんなにやばそうだったの?


 俺は納得は出来なかったけど、紫音さんの言う事にも一理ある。仕方ない従おう。


「分かった。じゃあこっそり行こう」


 俺達は足音を立てないようコソコソ移動した。そして家庭科室を覗き込む。そこには——


 花ちゃんとあの三人がいた。


 三人の女子は背をこちら向けている。三人の体の隙間から花ちゃんが見える。


 家庭科室の中の声は聞こえない。状況が分からない。紫音さんと桐人は冷静に中を見ている。


 くそっ、何かあってからでは遅い。花ちゃんが傷つく。例え本人の為でもこのまま黙って見ているのは俺には出来ない!


「ごめん。やっぱり俺は行く!」


 二人にそう伝え、俺は扉を開け家庭科室に入った——。

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