第37話 弁当箱の中身。再び。
夏休み明けの高校生活初日。
時間の経つのは早いものでお昼ご飯タイーム。
おひる〜、おひる〜、おひるごは〜ん。
「あっ」
しまった。今日もお弁当を忘れた。
「ん? 和希、また弁当忘れたのか?」
「うん……」
「なら、昼飯抜きだな」
って、夏休み前と同じ事繰り返してるよっ。しかも沙羅が近づいてくる。あれ? 弁当箱を三つ持ってる?
「兄さん。今日もお弁当忘れましたね」
「はい。忘れました」
「うっかりさんですね。私が持ってましたよ」
優しい。でも朝教えてくれてもよかったのでは?
「……えっと、今日から私がお弁当作り担当になりました」
はい? 優しいママンから沙羅の手作り弁当にバージョンアップですか。ありがたや〜。
「沙羅の作った弁当なら絶対美味しい。ありがと」
「おかずは冷凍食品ですけどね」
沙羅はニコッと笑った。
「ふっ。和希、おまえは兄バカだな」
桐人は羨ましそうに俺を見ている。
「それから桐人さんの分も作りました」
桐人の分も作ってっくれたのね。優しい。だから弁当三個持っていたのね。
「桐人さんはいつもメロンパンと牛乳だけなので……迷惑ですか?」
「イヤ。ありがとう。俺の分まで作ってくれて」
「とっ、特別に作ったんじゃないんですよ。二個も三個も作る手間は同じですから。それにいつも兄さんと仲良くしてもらっているお礼も兼ねてです」
そう言ってチラチラと俺を見る沙羅。はて? なんだろ?
「それから、桐人さんが迷惑でなければ毎日作りますけど……」
「イヤ、さすがにそれは負担になるだろ? 気持ちだけもらっておくよ」
「桐人。作ってもらったら? 沙羅も作りたそうだし」
桐人は悩んでいるようだ。
「……うーん。和希が言うのなら……。沙羅ちゃんホントにいいのか?」
「はい。ぜひ」
「そっか。じゃあ甘えようかな。よろしく」
ふむふむ。話がまとまったようだ。
そして今日は沙羅も一緒にお昼ご飯を食べたいとの事。いつも一緒にお昼をしている友達が休みだからってさ。初日から休みって遊びすぎで体調崩したのかな?
もちろん沙羅のお願いは断る理由もなく快諾。
そして弁当箱を開ける。オカズは俺の好物ばかり。肉肉にくぅ〜! 沙羅ちゃん俺のダイエットは? 手伝うって言ってたよね? なかなかのボリュームだよ? でも嬉しい。
弁当を食べながら夏休み前のグチャグチャ弁当を思い出す。アレはなかなか凶悪だった。沙羅から謝罪はあったけどね。もちろん許したよ。
三人で仲良く昼ご飯。学校一のイケメンと言われている桐人。学年一の美少女と言われている沙羅。そして恋人にしたくない男子ぶっちぎりの一位と言われているボクちゃん。
俺達をチラチラ見ている女の子グループがいる。その生徒達の話し声が聞こえる——
『あのブタ邪魔だよね』
『桐人君と沙羅さんのラブラブタイムの邪魔しないでほしい』
『親友とか義理の兄ってだけで一緒にお昼って生意気よね』
桐人は睨みつけ今にも怒鳴りそうな勢いだ。沙羅は持っているお箸をプルプルと振るわせている。
「まあまあ二人とも落ちついて。俺は気にしてないから。ご飯食べよう」
「和希、おまえは言われっぱなしでいいのか?」
「う〜ん。まあ、どうでもいい存在から何言われても心に刺さらないからね。気にしないよ」
そう、俺は気にしない。好きだった沙羅から毎日鋭利な刃物のような罵声を浴び、心の傷をグリグリされた俺には耐性がついてる。
あの程度の悪口なんて無音と同じさ。
「ふっ。和希は大人だな。強いよ。おまえは」
俺は沙羅のお箸を持っている手にそっと触れる。そして落ち着かせる為に優しく微笑む。沙羅の顔がほのかに赤くなった。落ち着いたようだ。
気にせず食事再開。二人より先にご飯を食べ終えトイレへ。
「ちょっとそこのデブ」
トイレから出ると先ほど俺に聞こえるように悪口を言っていた女子グループの一人から声をかけられた。
「なに?」
「ついて来て」
「断る」
なにが悲しくて悪口言っている人達の言う事聞かないといけないの?
「底辺が調子に乗るな。言うこと聞け」
う〜ん。君たちもクラスカースト中位くらいじゃないのかな? 俺とあまり変わらないよな?
無視でも良かったけど、あとあと面倒な事になりそうなので言う事を聞く事にした。
◇◆◇
——って、階段の踊り場かーい! おいおい、生徒の通行人多数なんですけど。チラチラ見て通ってますよっ。恥ずかしいのですが!
踊り場の角に同級生女子三人に追い詰められている。クンクン、女子高生特有のいい匂いが……って、ちっがーう。今そんな事している時じゃないっ。
「あんたさぁ、新学期早々生意気なのよね」
「な、何が?」
リーダーらしき人物が話しかけてくる。クンクンがバレた? イヤイヤ違うよね。
「私達の事『どうでもいい存在』って言ったよね。底辺ブタが調子に乗るな。しかも沙羅さんの手を触るなんて……義理の兄か知らないけど、あんたの汚ったないバイキンがつくじゃない」
……沙羅は女子に人気だったのね。同じ教室にいて気づかなかった。
「えっと。話はそれだけ? もうすぐ昼休み終わるんですけど?」
「黙れっ! 喋るなデブタが!」
「デブとブタを合わせてデブタって事? うまい。座布団一枚だね!」
俺がそう言うとリーダーらしき女子は顔が真っ赤になり怒りの形相になった。
「てめぇ!」
リーダーらしき女子が怒りを込めて俺に叫んだ。そして制服のネクタイの結び目を掴まれた。……はぁ。虚しい。そこそこ可愛いのに。夏休み前の俺ならビクビクしていたと思うけど——。
「なぁおまえら、いい加減に——」
「あなた達っ、何してるのっ!」
俺の言葉を遮るように女子グループの後ろから女の子の怒鳴り声。振り返る三人。
「しっ、
階段を登ってくる女子。先ほど怒鳴った人物。
「何? いじめ? へぇ」
「いえ、コレは……」
俺達のいる踊り場に辿り着き、腕を組み仁王立ちする怒鳴り女子。その姿にビクビクオドオドしている女子グループ。
「あのさぁ。私、いじめ嫌いなんだよね。で、いじめをするならそれなりの覚悟があっての事だよね? 死んでもいいって事だよね?」
「ごごご、ごめんなさい」
しっ、死んでもいい⁉︎ こっ、こえー。女子グループの皆さん逃げて! 殺人現場になちゃうよ!
仁王立ち女子は三人を睨みつけている。
「謝るのは私じゃないでしょ?」
「か、和希君ごめんね。もうしないから許して」
顔面蒼白の女子グループ三人衆。
「あ、うん。いいよ」
俺が許すと女子三人はその場から逃げるように去った。
むむむ。困った。取り残された俺はこの後どうしたらいいの? どうなるの? 新学期初日から大荒れだ。
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