第2章 モテ期編
第36話 新学期
夏休みが終わり今日から新学期。俺の通う高校は3学期制。がんばるぞぉ。
目覚まし時計で目覚め、時刻を見ると午前六時。カーテンを開け空を見た。天気予報通りの晴れ。雲一つない空。
ベッドから降りると扉が音もなく静かにゆっくりと開いた。沙羅だ。
「沙羅。おはよう」
俺の朝の挨拶に沙羅は体がビクッとなり驚いている。
「おおお、お兄ちゃん起きてたの⁉︎」
「うん。ちょうど今起きたとこ」
沙羅が起こしに来るのは珍しい小学生以来かな?
「う〜。兄妹限定の朝イベント。妹がコッソリ起こしに来ました。が出来なかったよぉ」
「はは。そうだったの? じゃあ明日から沙羅が起こすまでベッドに寝ていようかな?」
「ホントに! やった。明日から毎日起こしに来るね」
沙羅は嬉しそうだ。夏休み前の非情な沙羅ちゃんとは大違いだ。コレが本来の沙羅。嬉しいですぞ。
それから学校へ行く時の朝のルーティーンを済ませた。時間になったので家を出て登校だ。学校は歩いて約十分の場所にある。毎日歩きで登校している。
「お兄ちゃん一緒に登校しよっ」
家を出る時沙羅に声をかけられた。一緒に登校は小学生以来だな。もちろん断る理由はなく快諾した。
家を出る時玄関に両親が来た。『行って来ます』と元気に言うと嬉しそうに『行ってらっしゃい。車に気をつけて』と言って見送ってくれた。
両親と沙羅の笑顔を見ていると長く暗いトンネルを抜けたと感じた。今までゴメンね。俺が家族を狂わせた。もう迷惑はかけないと誓った。
◇◆◇
通学の途中で隣にいる沙羅が足を止めた。
「どうした?」
「お兄ちゃん覚えてる? この家に大きな犬がいて、私にだけ毎日門越しに吠えていた事」
「……ああ。思い出した。小学生の頃だね」
今は犬はいない。最近寿命で死んだ。
「お兄ちゃんの手、大きくて温かかったなぁ」
「じゃあ、手、繋ぐ?」
沙羅が俺を見た。その顔は茹でたこのように赤くなっている。
「て、手を繋ぎたいから言ったんじゃないよっ。ただの思い出話なんだから。かっ、勘違いしないでよっ」
「あ、そうなの。ゴメン」
「でも、お兄ちゃんが私とどうしても繋ぎたいなら……別に繋いでもいいよ……」
恥ずかしそうにモジモジしている沙羅。
「あ〜。やめておこうかな」
「え⁉︎ ど、どうして」
俺が断ると沙羅はちょっぴり悲しそうだ。
「いや〜。遠巻きに眺めている同じ学校の男子の視線が痛い。手なんて繋いだら視線だけで殺されそうだよ」
沙羅は少し離れた所にいる男子の群れを見た。顔が赤くなる男子達。うん、分かるよ。美少女沙羅ちゃんに見つめられると照れちゃうよね。
「う〜ん。それなら仕方ないね。お兄ちゃんが死んじゃったら沙羅泣いちゃう」
「はは。さっ、学校に行きますか」
「うん」
そして二人並んで歩いた。あっという間に学校に到着。
「学校に着きましたね。では兄さん、教室に行きましょう」
沙羅ちゃんは変身した。学校バージョンに。稀代の名女優になれるよ。
「兄さん」
「はい」
「あの……その……」
「分かってるよ」
俺は沙羅に優しく微笑む。嬉しそうな沙羅。
教室に着くと数名の生徒がいた。その中に俺の事を親友と言ってくれる鈴木桐人もいた。
桐人は俺に気づいた。
「よう。久しぶりだな」
「桐人。おはよう」
まじまじと桐人は俺を見ている。
「姿は変わっていないが、中身が変わったな。夏休みの間に何かあったな」
「分かるの? 凄いな」
「ふっ。おまえと俺は最強と言われたバッテリーだったんだ。内面の変化くらい分かるさ」
桐人とは軟式少年野球時代の仲間。あの決勝戦で俺がピッチャー、桐人がキャッチャーだっだ。迷惑をかけた一人。
「それにな、妹の沙羅ちゃんと一緒に登校して来たんだ。気付かない方がおかしい」
桐人は嬉しそうに話をしている。
「そっか。色々迷惑かけたね。もう大丈夫だから」
「言っただろ。俺はおまえの事を親友と思っている。頼ってこい。例え世の中の全てがおまえの敵になっても俺だけは味方でいる」
「はは、大袈裟だなぁ。でもありがとう。俺は幸せだな。あ、もちろん俺も桐人の事は親友と思っているからね」
それから軽く雑談をしているとクラスメイトが徐々に増えて、担任が教室に来た。新学期最初の朝のホームルームが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます