第30話 幸せで楽しい。
和希との電話を終え、携帯端末を部屋の机に置いた。
「ふう」
緊張したぁ。ついうっかり『また明日』っていっちゃった。和希にはドキドキしていたのバレていないよね。
『雲雀さん』と呼ばれるたび胸がキュンキュンした。重症だなぁ。今日の午前中に別れたばかりなのに会いたいと思ってしまった。
和希は今頃あたふたしているだろうな。想像しただけで……かわいい。
和希には秘伝が期間限定の細マッチョになる。ということを秘密にしていた。
私から見て和希には絶対的に足りないものがあった。
それは自信。
自信のない人の説得なんて絶対成功しない。だから秘密にした。戻ると分かったら努力なんてしない。
自信は色々なものでつく。和希には時間がなかった。だから努力からくる自信を身につけさせた。
私の勉強の課題とダイエット運動の努力。それらを消化し成し遂げたという自らを誇る気持ち。
秘伝、秘経穴躯体絞りは実は何もしなくても細マッチョになる。戦国時代、戦場に行く農民の為に編み出したもの。と秘伝書に書いてあった。
さてさて、秘伝の事はこのくらいにしてっと。今はそんな事より和希と妹さんのことの方が大事。
電話で仲直り出来たと報告。良かったね。和希が幸せだと私は嬉しい。
私は予測していた。妹さんは和希の事が好きと言って告白すると。
だから先に聞いた『付き合うの?』と……。
和希と妹さんは両思い。そして二人は運命の人。結ばれてハッピーエンド。そう思っていた。
だけど和希の言葉は私の予想と違った。
『告白されたけど断りました』
二人は運命の人同士じゃなかったの? 和希は妹さんの事好きじゃなかったの?
何処かで二人の運命の歯車が狂った? 何処で?
狂わせたのは……私? ううん。違う。自惚れちゃダメ。でも……運命の人になっていたらいいな。
私の個人的な考え。運命の人は入れ替わる。人は生きている。イレギュラーな事が沢山起きる。
今の運命の人よりも大きな存在が現れ入れ替わりが起こってしまう。
運命の人の上書き。それが和希に起こった。
自分に都合の良すぎる考え方だね。てへっ。……まぁ、冗談はこのくらいで。
妹さんは告白した、和希はそれを断った。それは事実。つまり二人は誰にも邪魔される事なく恋を成就した。
妹さんは報われなかったけど……。
二人の恋が成就した。という事は……もう妹さんに遠慮しなくていいって事だよね? 私の恋が報われるかはとりあえず置いといて、
——やった〜。妹さんには申し訳ないけど私にもチャンスがある。嬉しい。
でもどうして和希は断ったんだろう? 他に好きな人はいないのかな? うーん。分からないなぁ。
私じゃないよね……。指輪はしないし、そんな素振りなかったし……。
どうしよ。和希に会いたい。でもすぐに行ける距離じゃない。遠距離だし。
夏休みももうすぐ終わる。そうなるとますます会うのが難しくなる。
——あっ、お父さんが久しぶりに和希のお父さんに会いたいって言ってた! 使える、使えちゃう!
普段忙しいお父さんは今お仕事は夏休み中で家にいる。お願いして明日和希の家に連れて行ってもらお〜っと。
そう考え私は部屋を出てお父さんのいる書斎へ行った。私がお願いすると『分かった』と言って和希のお父さんへ連絡。
明日和希の家に行く事になった。
お父さんは、ふっと笑って『頑張りなさい』と言ってくれた。ちょっぴり恥ずかしい。
明日会ったらしばらくは会えない。学校も始まるし和希の家は遠いからね。
だからかわいい雲雀ちゃんを和希の記憶に残そう。プレゼントで貰った腕時計と夏祭りの指輪をつけていこう。あざといかな? うん、あざといね。
告白はまだ早いと思う。今日の別れの時告白しようと思ったのは気分が盛り上がっていたから。それに振られると思っていたからね。今度は慎重にいこう。
ふふっ。和希を好きになって良かった。楽しい。夏休みに出逢ってくれてありがと。今とっても幸せだよ。
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