第18話 お兄ちゃんに会いたい。
八月中旬の午後。外は久し振りの雨が降っている。
夏休み期間限定、週一の和希お兄ちゃん部屋の掃除の日。
今日も四角い部屋を丸く掃除機をかけ、部屋の中央の床に私は大の字で仰向けに寝転んでいる。
今日も心臓が痛い。病気? そうだね病気だね。
お兄ちゃんの事を考えると必ず痛くなる。
憎くてたまらない人。
そして世界で一番愛している人。
高校生の私が愛なんて言葉を使うのは変? 大好き? ううん、やっぱり愛している、だよ。
でも私の愛は歪んでいる。相手を思いやることのできない醜いもの。
お兄ちゃんが一番辛い時、何も言えなかった。何もできなかった。今でも何をすれば良かったのか分からない。
お兄ちゃんが部屋に籠っている時、扉の前に毎日立っているだけだった。ノックができなかった。
ブクブク太っていった時も止めることができなかった。『やめて』と言えなかった。悲しむ顔を見たくなかった。
毎夜泣いた。愛している人が消えていく。目の前で徐々に。つらかった。
あの時言えば良かった。『お願い。もとのお兄ちゃんに戻って』と。後悔している。
そして今の醜い姿が完成した時、何も考えられなくなった。……違う。色々な感情が入り混じって考えがまとまらなくなった。そして絶望していた。
毎日見る醜いお兄ちゃん。見るたびに悲しくなった。
いつからだろう。その悲しみが憎しみにかわったのは。
大好きなお兄ちゃんを奪った醜いお兄ちゃん。同じ人なのに違う人。
憎かった。心に傷が残っている事を誰よりも分かっていても傷つけてしまった。
最低最悪な決して許されない事をしていると、やってはいけないと頭では分かっていても、心がそれを止めることができなかった。
やっぱり私はクズだ。綺麗事なんて言えない。愛していても、今のお兄ちゃんの事を『愛している』なんて言えない。
私は醜い。自分の事しか考えることができない。どうして私は無能なクズなんだろう。変わりたい。こんな自分は嫌い。
でも自分の力だけでは変わることができない。私は弱い人間。抱擁力も無償の愛も持ち合わせていない最低な人間。
お兄ちゃんに会いたいな。昔のお兄ちゃんに。会えたら変われるかもしれない。絶対に会えないと分かっていても……。
やっぱり私は自分勝手だ。こんな私を愛してくれる人は現れないだろうな。
昔のお兄ちゃんもこんな醜い私を見たら嫌悪感を抱くだろうな。絶対に嫌われるな……。
……もういい、疲れた。
私は醜いまま生きていく。誰からも愛されなくていい。全世界の人間から嫌われていい。
考えがまとまり私はお兄ちゃんの部屋を出た。
止まらない涙で床を濡らしながら——。
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