第17話 雲雀さんの誕生日。

「ふぬぬ。ふぬぬっ。——ぜぇ、ぜぇ。ら、ラスト縄跳び、百回」


 雲雀さんに秘伝の秘経穴躯体絞りを突かれて今日で三日目。まだ体に変化はない。


 秘伝を執行されたら何もしないで痩せる訳ではなかった。適度な運動が必須だった。


 秘伝の書は表紙の字は読めたけど、本の中の文章は難しく読めなかった。雲雀ひばりさん、あんな達筆な文字よく読めたね。流石です。


 雲雀さんの話だと、減らしたい体重の量で十五日間の一日分の運動量も書いてあるとの事。


 俺の場合は、


 小股走り三キロ。


 腕立て百回。


 腹筋百回。


 背筋百回。


 上半身を立てたままおこなう、ひざの屈伸運動百回。


 縄跳び百回。


 上半身を立てたまま行う、ひざの屈伸運動は今でいうスクワットだね。小学生の頃やっていたから分かった。


 小股走りって何? よく分からなかったので聞いてみたら、『ゆっくりとした速さで走る』との事。ジョギングだね。


 ……普通の運動量ですが? この量でホントに痩せるの? って思いましたよ。


 だけどやってみると、今のぽっちゃりな体ではめっちゃツライ。でも次の日になると体の疲れが取れ元気になっている。


 もしかして、ではなく秘伝は本物っぽい。ご先祖様、疑ってゴメンナサイ。ボク頑張ります。まだ効果は出ていないけど……。


 でも今はそんな事よりも、まずい事がある。


 今日は雲雀さんの誕生日だった。


 今朝、いつものようにおじいちゃんは用事でいなかったけど、美人すぎる家政婦兼秘書さんが雲雀さんに、『誕生日おめでとう』て言った。


 雲雀さんに『聞いてないです』って言ったら、『え? 言う必要あった?』と言われてしまった。


 そうですね、その程度の仲ですよね……。


 で、何がまずいかと言うと、誕生日プレゼントを用意していない。まぁ知らなかったから当然用意はしてないけど。


 雲雀さんとはその程度の仲でも誕生日プレゼントは用意しないといけない。感謝しているからね。


 べ、別に好——って、違う違う、俺は沙羅一筋——って兄妹! 沙羅とは兄妹だから! あばばば。


 だから昨日以上に必死に頑張っている。買いに行く時間を作る為に。午後からの宿題も午前中に終わらせる。


 縁側で難しそうな本を読みながら庭で運動している俺を見ている雲雀さん。たまに目が合うと微笑んでくれる。


 あんなに努力する事に嫌悪感を抱いていたけど頑張れる。ありがとう雲雀さん。


 ◇◆◇


 午前中で今日のノルマをすべて終わらせ、今は商店街に来ている。


 雲雀さんには内緒で出てきた。一応秘書さんには商店街に行くと伝えた。プレゼントを買いに行くのはバレバレだった。恥ずかしい。


 さて何をプレゼントしようかな? 高校生の俺にはブランド品などの高価な物は買えないし……。


 ブラブラ歩いていると貴金属店の前で足を止めた。


 女の子って貴金属貰うと嬉しいのかぁ。う〜ん。指輪とか? サイズ分からないなぁ。ネックレスとかいいかも。


「うぇぇ。あんなのからプレゼント貰いたくないわ」


「ちょっと聞こえるでしょ。やめなさいよ」


 後ろの方から声が聞こえた。振り返ると二人の社会人らしきスーツ姿の女性が通り過ぎていた。


 今の……俺の事を言っていた?


 おそらく俺の事だろうな。まぁ、知らない人から何を言われても平常心は保てるようにはなったけど……。


 うーん。雲雀さん、俺からのプレゼントは迷惑になるかなぁ。そんな事考えていなかったなぁ。でも何もしないのはダメだよね。


 指輪とかネックレスとかはドン引きされそうだな。迷惑にならない程度の物ってなんだろ? 分からない。


 えーい、悩んでいても仕方ない。時間も限られている訳だし。いいや、もともとだし。


 そして俺は何をプレゼントしようか悩みながら貴金属店に入った——。


 ◇◆◇


 夜になると雲雀さんのお誕生会が始まった。時刻は午後八時。じいちゃん達も今日は早めに台所での三人会議を終わっている。


 ケーキに刺さっている十八本のロウソクを『フー』と消す雲雀さん。


 そしてじいちゃん達からの誕生日プレゼント。雲雀さんは包装された箱を開けた。


 じいちゃんからはすっごく高そうな浴衣。


 秘書さん達からは浴衣に合わせた帯や履き物など一式。これまたお高そう。


 雲雀さんはすごく喜んでいた。


 そして俺の番。ちょっぴり出すのが恥ずかしくなった。高校生だからじいちゃん達のような高級品なんて買えない。


 そんなのは当たり前だけど、差がありずぎる。


 待たせるのも悪いのでプレゼントを雲雀さんに渡した。丁寧に包装されリボンの付いた手に乗る程度の四角い箱。


『開けていい?』と可愛く聞いてくる雲雀さん。俺が頷くと包装を丁寧に開き箱を開けた。


「かわいい。ありがと。大切にするね」


 雲雀さんはプレゼントを見て嬉しそうにしていた。


 俺の誕生日プレゼントは女性用の腕時計。ブランド品などの高級品ではない。でも、少しお高い物。今年の貯めておいたお年玉をすべて使った。


 通っている高校はバイト禁止だからね。自分で稼いだお金ではないけど仕方ないよね。


「ちょうど腕時計壊れていたんだぁ。新学期になったら早速使お〜っと。和希ありがと〜」


 ふう。緊張した。喜んでくれている。良かった。

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