第10話 雲雀さんの説得。

「——人はね、大なり小なり人生が変わる分岐点があると思うの」


 雲雀ひばりさんが人生について語りだした。話が大きくなってない? ボクたち高校生だお。


「そんな時ってさ、必ずって訳ではないけどツラくて苦しいか、楽しくてラクのどちらかを選ぶ時ってあるじゃない?」


「はい」


 今がまさにその時になるんだよね……。


「人生の分岐点って言っても片方だけしか選べないって事がほとんどだと思うの。選びたくても選べない、その時の状況でね」


 ん? 雲雀さんの言っている事がよく分からない。人生の分岐点なのに片方しか選べない? 分岐点なのに?


「それにね、人生の分岐点って気づかずに通り過ぎるものでもあるんだよ。時間が経ってから気づく、あの時やっていれば良かったって。後悔した時にね」


 ……雲雀さん、自分の事を言っているのかな? そんな感じがする。


「和希はね、選べるんだよ。いま未来を変える分岐点にいるんだよ」


 本当にそうなのかな? ダイエットする事が人生の分岐点? もしそうだとしても……。


「……そっか。やっぱりあの時の事が足枷になっているんだね。努力しても報われなかったあの時の事が……」


「……雲雀さんって何でも分かるんですね……」


「私もあそこにいたからね。だから今の和希を見ていると分かるよ」


 雲雀さんもあの場所に居たのか……。いとこだもんな。居ても不思議じゃないよな。あの情けない俺の姿を見ていた……か。


「和希、努力して報われなかっかたらツラいよね。ツラくなるなら、報われないならキツイ努力をしないほうが良いよね」


 ……雲雀さんは俺の心を見透かしてる。そうだよ。もうあんな思いはしたくない。


「でもね。今回は報われるよ。一度でも報われたらさ、今後は挫折しても這い上がれるよ。また頑張れば良いさって心が芽生えるよ」


 雲雀さんの言っている事は何となく分かる。俺は挫折しか知らない。目指していた頂きに行けなかった。報われた時の気持ちなんて分からない。


「雲雀さん、ダイエットして痩せると妹の沙羅は昔みたいに俺の事を慕ってくれますか?」


「うん。なるよ」


「なぜそう言い切れるんですか? あなたは賢者ですか? 聖女ですか? 女神ですか? 神様仏様なんですか?」


 雲雀さんはクスクスと笑った。


「私は賢者でも聖女でも女神でも、ましてや神様仏様でもないよ。イケメン大好き普通の女子高生だよ」

 

「なら、何故なんですか?」


「そんなに難しい事じゃ無いよ。女の子は女の子の気持ちが分かるだけだよ」


 そう言って雲雀さんは屈託の無い笑顔をした。


 ……雲雀さんは自分も辛いはずなに俺のために一生懸命だな。


 それにあの笑顔。よく分からない難しい言葉の説得だけなら心は動かされなかった。


 ずるいよ。美少女の笑顔は反則だ。思春期の男の子には破壊力が凄すぎるよ。


 自分もツライはずなのに……。そんな素敵な笑顔見せられたら断れないよ。


「……分かりました。ダイエット頑張ってみます」


 俺ってちょろいな。


「うん。頑張ろ。私も手伝うからさっ」


「えっ? て、手伝う⁉︎ どうしてですか?」


「ん〜。暇だから? 夏休みはやる事ないんだもん」


 ひ、暇⁉︎ 夏休みはやることがない⁉︎ あっ、そっか。彼氏と別れたんだよな。でも、


「雲雀さんも宿題とかやる事あるでしょ?」


「宿題? そんなの夏休み前に全部終わってるよ? え? 和希終わってないの?」


「イヤイヤイヤ。なに不思議そうに見ているんですか。普通は終わってませんって。少数派なのは雲雀さんの方ですって」


 よく分からない難しい事いっぱい言ったり、人の心見透かしたり、宿題全部終わらせていたり、雲雀さんは絶対普通のイケメン大好き女子高生じゃない!


「私少数派だったんだ。ふーん。まっ、いいや。じゃあ宿題も見てあげる。ついでに勉強もしましょう」


「へっ?」


「宿題終わらせていないなら勉強もできないでしょ? 下から数えた方が早いのかな?」


 どう言う理屈なの? 意味が分からない。確かに成績は下から数えた方が早いけど。


「明日からしましょうか。午前はダイエット運動。午後から勉強って事で。ん〜、忙しくなるなぁ〜」


 雲雀さんは座ったまま背伸びをした。


 やっべぇ、地獄の夏休みになりそう。イヤ、絶対になるなこれは。

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