ばかだなぁ。
手袋と風船
ばかだなぁ。
明日の朝に、何かをしながらで構わないから、好きな歌を歌ってほしい、と言った友達。
なんでそんなこと、と問うと、明日は自分の誕生日だから、という何とも突飛で意味不明な答えが返ってきた。
まぁ、しかし、誕生日ならば、と私はその翌日の朝、友達の言う通り歌を歌いながら洗い物をした。
その翌々日、私の元へと警察だと名乗る二人組の男がやってきて、友達がビルの屋上から飛び降りて死んだと言った。
私が歌いながら洗い物をしていたあの朝のことだった。
男達はなんとも微妙な顔で、私に袋に入ったバラバラの機械を差し出し、これが友達の形見だと言った。
この機械は何をするものだったのか尋ねた私に、彼らはやはり微妙な顔で答えづらそうに、しかし、その割にはハッキリと事務的に答えた。
「盗聴器です」と。
家の中を調べさせてほしい。あなたの生活をどうやら彼は盗聴していたらしい。彼の部屋にはあなたの生活音で満たされた沢山のファイルが保存されていた。
淡々と彼らがそんなことをつらつら説明してくるのを聞きながら、私は全く別のことを考えていた。
ばかだなぁ。おまえ、誕生日なんて言うから、誕生日の歌、歌っちゃったよ。
洗い物の水道の音が混じった、下手くそな私の歌。それが彼のエンディングテーマだった。
ばかだなぁ。 手袋と風船 @cygnusX-1
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