掌編

アリエのムラサキ

掌編1 夜は明けても夢かどうかはわからない

 私がここに閉じ込められてから、どれくらいの時間がたったのでしょう。

 永遠にも感じられる時間が流れても、唯一の光源である窓からは、夜空に浮かぶ星たちの輝きしか入ってくることはありません。

 ドアを何回ノックしたことでしょう。何回叫んだことでしょう。それでも、誰かが助けてくれる、なんてことはありませんでした。


「いつになったらでられるのでしょうね……」


 私は一人、星の光が差し込む窓の下で、ぽつりとつぶやきます。


「ここに閉じ込められて、どれくらいの時間がたったのかしらね」


 窓から差し込む光は、まるでスポットライトのように私を照らします。まるで、悲劇のヒロインのように。


「お風呂に入りたいわ……それに、おいしいご飯だって食べたい」


 永遠に朝がこないように、空腹も一切来ない。気づけば傷だって元に戻ってしまいます。


「はあ……」


 ゆううつさを隠さない、豪快なため息をつきます。


「本来なら、朝がきておいしい朝ごはんがいただけますのに……」


 とことこと窓から差し込む星空のスポットライトを離れ、ソファの上に優雅に寝転がり、


「朝が来ることを祈ります」


 こんなフレーズを唱えながら、永遠に来ない朝を待ちながら眠りにつく。これが、閉じ込められた私の、唯一の楽しみです。


 

「っまぶし」


 さんさんと輝く太陽の光で、いつものように私は目を覚まします。


「ふああああ」


 豪快なあくびをかましていると、ドアの外からコンコンというノックの音が聞こえてきました。


「お嬢様、おはようございます。すでに、朝食の準備は済んでおりますので、食堂の方にお越しください」


 古株のメイドが、朝食の準備ができたことを伝えにきたようです。


「承知いたしましたー。身支度をととのえたら参りますのでー」


 しょぼしょぼする目をこすりつつ、重い体をソファーから引きはがして身支度を整えはじめます。すると、ドアの外からメイドが、


「お嬢様、とても長い間、お眠りになっていたようですね」


と、いつもならしないであろう、雑談を始めたのです。


「そうかしら。でも、なんだか、長い長い、終わりのない夢を見ていたような気がします」


 永遠に終わりの来ない夜を、この部屋に閉じ込められて過ごす夢。まさか、現実に起きるわけではないでしょう。


「そんな夢を見られたのですか」


 メイドがわざとらしく驚く。


「ええ。こんな夢、見たことありませんわ」

 

 そうつぶやいてから、


「ですがお嬢様」


 めずらしくお言葉をいただきそうで、


「何かしら」


 そう返答すると、


「それは決して、夢ではありませんよ」


 夢を夢ではない、ということを少し面白いものを見つけたかのような声で呟いて、メイドはドアから離れていきました。

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