第69話 エルザの逃走
周囲が紅くチカチカするな──それがライネルの抱いた感想だった。
そう感じたのも束の間だった。あまりに簡単に馴染み以前までと変わらぬ視界へと戻る。
「おまえら邪魔だ……どけ!絶鬼。龍鬼。大丈夫?立てる?」
ライネルが冷えた声を発するとエルザとジャックは後方へと吹き飛ばされる。
地面に突っ伏し無力化されていた絶鬼と龍鬼は不思議そうにキョロキョロと周囲を見渡す。
「ライネル王こそ大丈夫なのですか?」
「ライネル様よくご無事で!……ってあれ?額の目が消えてる……?」
龍鬼がライネルの額にあったはずの天鬼の目が無くなったことに気づいた。
「えっ!?……あっ。本当だ。無くなってる。じゃあさっきのお別れってこの事だったの……?」
「「お別れ?」」
「そうなんだ。意識が朦朧とする中、天鬼が僕に話しかけてきてね。鬼眼がどうとか言って……僕の心臓が熱くなってそしたらお別れだって。よくわかんないんだけどさ……きっと僕の中に完全に溶け込んだんじゃないかと思うんだ。」
「……そ、そうかもしれません。となると……天鬼様の全ての力を完全に取り込んでしまわれたのかもしれませんね……」
絶鬼は僕に恐る恐る声をかける。そんなに変わったのかな?僕には分からないんだけど。
「き、貴様……よくもエルザ様に……死ねぇ!!!!」
地面に転がっていたジャックがライネルに一直線に向かってくる。
「あ、危ない!」
龍鬼が声を上げるがライネルはにこやかな表情を崩すこと無く右手をジャックに向けて翳した。
するとジャックの体は空中に浮かび急停止した。
「貴様……何をした!?」
「ちょっと君……五月蝿いよ。
「……う……ごけねぇ……」
空中に磔られた様にジャックは停止している。何とか口を動かそうとしているがそれすら叶わぬ様に更にギリギリと縛り付ける。
「なっ!?ジャック!……もう許さないわ!!
エルザは眩い光を発現させ目眩しと同時に空間を歪ませジャックの捕縛を解こうと試みた様だ。しかし僕のは絶対捕縛は解けることはなかった。
「な、なんで解けないの?」
エルザは困惑した表情でライネルをキッと睨みつけた。
「残念ながら君には絶対解けないよ。最たる鬼となった僕の術だからね。」
「──くっ……。ジャック……許せ。」
ブワッと空気が膨らんだと思った瞬間──
エルザは忽然と姿を消した。
「……ん?逃げられたか。まぁいいや。……ねぇ?ジャック?エルザって何者?」
顔面蒼白となっているジャック。
「あぁ……ごめんね。ほぃっ。」
ライネルは
「……ごほっ……ちっ……エルザ……」
「……ねぇ?聞いてるんだけど?」
──こ、コイツはヤバすぎる……未曾有の魔力量じゃないか……。今まで実力を隠してた?いや……何かが変わったのか?……身体の線も太くなって、額にあった目も無くなってる……?変わりすぎだろう。クソっ。どうにかこの場所から逃げ出せる方法を……
「うわぁぁぁぁ!!!」
突然ジャックの体が発火し火達磨になる。
「うぉ!なんだ!?ライネル王。何かされたのですか?」
「僕じゃないよ!全部僕のせいにしないでよ!」
「……あはは。申し訳ありません。説明のつかない事は大体ライネル王のお力だと思ってしまいまして……面目ない……。」
もはや人外の鬼からも化け物認定を受けたライネルであった。
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