第55話 天鬼の年齢

第三眼と呼ばれる眼が開かれ後頭部の中央から下側には小さな裂け目。天鬼の口である。最早人外と呼ばれてもおかしくない変貌を遂げた本人は何故か何処吹く風なのが不思議な程自然にしている。


~~~~


「ライ様~!どこに行ったのですか~?」


「ライネル王……」


ライネルが姿を消してから数十分。周囲をどれだけくまなく探しても見つからない。


しかし状況は一変する。


突如として巨大な竜巻が空白の大地に巻き起こる。木々をなぎ倒し巻き上げる。崩れた住居も無惨に巻き上げられ粉々になっている。


「うおっ!?何だこれは!まるでライネル様の旋風……?いや……それにしては規模が大きすぎる……。」


龍鬼がライネルのスキルを疑った。それはただの勘に過ぎなかったが巨大な竜巻など空白の大地で発生事例がないことから考察されたことである。


それは見事に正解していた。


これはライネルの竜巻だった。しかしその規模はメイクード王国3個分程の巨大な竜巻。最早凝縮されたハリケーンでその中央には巨大な目があった。上昇気流が若干あるものの安全とも感じられる程の静寂。その中にはぼんやりと1つの影が見えた。


「ライ様?」


次の瞬間。竜巻は霧散し巻き上げられた木々はバラバラと音を立てて落ちてくる。


「ライネル王!!!」


絶鬼は声を上げてライネルに向け走った。絶対的な服従を感じさせる忠犬っぷりだ。


「あ。絶鬼。ごめんごめん。誘拐されてたんだよ。」


「ワシは誘拐してなど……あ。しておったわ。まぁ許せ。」


「「「「「「へっ……誰の声!?」」」」」」


全員が綺麗にハモった。


「我は天鬼。よろしくな。」


……何かチャラいな。この姫。


「……て、て、て、て、て、て、て!」


「「「「「天鬼様!?」」」」」


アイリスを除く5人の鬼たちがハモる。はて。彼らは天鬼の事を知ってるのか?


「絶鬼は天鬼の事知ってるの?」


「ラ、ラ、ライネル様!呼び捨てなど恐れ多い……天鬼姫様は鬼族の始祖なる伝説の鬼。齢数千万歳まで貯めに貯めこんだ鬼力は数億に届くとも噂される最強の鬼なので………」


「う、五月蝿い!黙れ!消し炭にするぞ!!!」


龍鬼が全て言い切る前に天鬼は声を被せて言う。


「ひ、ひぃ………」


どうやら年齢という禁忌に触れた様だ。


「え?そうなの?天鬼。」


「我はまだ1486万784歳じゃ……もん……」


苦虫を噛み潰したような顔で嫌々ながら必死に声を絞り自らの年齢を暴露する天鬼。どうやら主従関係のようなもので縛られているみたいだ。したがって天鬼には拒否権が無くライネルの質問や命令には忠実に従う必要がある。


「そっか!そうなんだ?じゃあおばあちゃ……」


「言うな!みなまで言うな!うぅ……我が…我が…気にしてることを……」


ライネルの口と天鬼の口でガミガミと口喧嘩を始めた。


その様子を呆然と眺めるアイリスと鬼たちのシュールな絵面がいつまでも広がるばかりだった。

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