第49話 鬼達の思惑

ライネルを見失った6名は一塊となり、底なし沼へと急いだ。しかしライネルの居なくなった一行は緊張が解れ、普段の口調から一風変わった口調に移行されているのだった。


その返答に困るアイリスではあったがこれが鬼達の本音かと思えば《鬼》と呼ばれる存在が世に噂される程おそるるに足らない者である事分かる様に思えて少し微笑んだ。


「ねぇねぇ。アイちゃん?ライ様とはどんな関係なの?」


炉鬼がアイリスの横腹をツンツンしながら耳元で囁く。吐息には少し熱が籠りくすぐったかった事で「ふぁ!?」と変な声が出てしまい顔を赤らめるアイリス。


「ロッキー?私が質問しよー思ってたんに。ライネルちんは彼女おらへんの?」


羅鬼はアイリスの肩をばしばしと叩きながら変な関西弁になっている。


「相変わらずラッキーもロッキーも下衆な話がお好きですわね……で?どうですの?(まぁ本当は龍鬼様に彼女がいるかどうかの方が知りたいのだけれど……上手く行けばそっちに話が流れないかしら?)」


無鬼は一途な性格で龍鬼という想い人との比較対象としてライネルを見る程度である。


「うーん……なんて言ったら良いのかなぁ?幼体の頃からの知り合い?うーん……難しいなぁ……」


「ゴホン。ライネル王に聞こえぬからとて失礼な質問をするでない。我ら一族を許し存続出来ているのも王のお陰なのだぞ?」


絶鬼は基本的に恋愛事に疎く未だ未婚であるが集落では1番強くモテていた。しかし酒鬼(父)の影響で嫁は1人と心に決めていた。それもあって恋愛や結婚に消極的であり良物件ながら最後まで残ってしまう不動産七不思議のひとつとして数えられてもおかしくない事態になりそうな案件となりつつある。


「でもぉ~絶鬼様は彼女とか欲しそうにないしぃ~ライ様って結構イケメンでじゃないですかぁ~。しかも強いし。良物件だと思うんですよねぇ~♡」


羅鬼は今まで空白の大地から出たことも無く、今回の件で人間界を知ったことにより人に興味を持ち、鬼の集落という田舎での暮らしを捨て、人間界に嫁ぐ事も悪くないと思い始めていた。


だが……それは炉鬼も同じであった。


「ねぇねぇ!アイリスちん聞いてる?」


年頃の乙女……若い鬼たちは絶鬼から咎められても、集落の寂れた状況から逃げ出したいと日本の田舎事情の様な考えを捨てきれなかった。


「………お前たちの考えは浅はかだ。俺はライネル様を空白の大地の王として担ぎたいと思っている。」


結局の所絶鬼もライネルを取り込み鬼を再建させる狙いがあった。あれだけ強い種ならば強い子孫を残すことが可能なのだ。幸いにして若い女の鬼達が3人もいるのだ。子孫繁栄の為にもライネルに子を成して貰いたいのである。


そんな思惑を知ってか知らずか鬼の集落までノコノコと着いてきたライネルは今底なし沼で沼龍を駆逐していた。


元々個体数が多い訳では無い沼龍はどんどんと数を減らしていき既に絶滅危惧種として認定してもいいのでは無いか?という程に狩られていた。ライネルの圧倒的なまでの食よ……攻撃で底なし沼の魔物達を殲滅する姿は悪鬼のようであった。


仮にも鬼達がこの悪鬼ライネルの姿を見ていれば今の会話など起こるはずも無かったのだが彼らはライネルの恐ろしさをいい意味で知らなかった。


《無能》と罵られて村を飛び出たたった5歳のライネルは神鳴山で長い時を経て漸く自らのスキルを使いこなせる様になった。


別に自らの力に驕っている訳では無く、寧ろ自分のことは未だ《無能》なんだ。と思っている節もある。


しかし魔物にとってライネルは子供ながらに最強最悪な天敵として認識されている。その性格は残忍で食欲旺盛。


彼らがもしも喋ることが出来たとしたならば──《魔物の天敵》と呼んでいることだろう。


さて……ライネルが自らのステータス鑑定を本格的に受けるのはいつになることやら。その時それまでに発現した能力の数に驚くことになるのだが彼はまだその事に気付く素振りすらない。


まだまだ自らの事を《無能》と疑わず世界に散らばる無能者の救済を掲げるのだった。

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