第47話 吾輩は猿である

吾輩は猿である。


巷では賢者と呼ばれ我が渓谷へ足を踏み入れる人間共へ死の恐怖を与え空白の大地へと行かんとする輩を排除する役目を全うしている。


いつもならば橋で川に突き落としゴリラ達に救出させ渓谷の入口へ戻す。ギリギリ生還できた人間共は皆口を揃えて「もうこんな所にくるもんか!」と言っていた。


うん。それでいい。それでいいのだ。空白の大地は母なる大地。この世界に生物を発現させた天人達が産まれた場所。今は遥か彼方にある天空城に住む天人達だが母なる大地を穢す訳にはいかないのだ。


これは天姫様の命令でもある。我が役目を与えたのは他ならぬ天姫様。ある日天啓が下ったのだ。


元々吾輩はただの猿だった。岩山に巣食うボス猿。それが吾輩であった。元々体の大きかった吾輩は他の雄猿たちを皆殺しにしてトップにのし上がった。そしてハーレムを築いたのだ。


岩山のトップになった吾輩は雌猿共を食い物にして自堕落な生活を送っていた。それが不味かったのだろう。


晴天のある日の事だ。岩山の頂上で昼飯後の昼寝をしていたら突然脳天にけたたましい雷鳴と共に雷が直撃。脳細胞がドクンドクンと熱を持ち吾輩は死んだな。と思った。しかし脳細胞がドクンドクンするのは止まらないが何故か意識はあった。


そして天啓が下ったのだ。


我が名は天姫てんき──汝……今この時よりウィズダムモンキー《賢者》として賢者の渓谷を守護する任につく事を命じる──


その言葉が頭の中にぐわんぐわんと鳴り響いた。


吾輩が目を覚ますと先程までの岩山は消え去り渓谷の頂きに居た。転移させられたのだ。


──これが天人……いや天姫様のお力か……


背くことは出来ぬだろうな。まぁお山の大将も飽きた所だったしいっちょやってみっか!というノリで始めた守護者だったが意外や意外。


人間共を陥れるのは楽しいのだ。欺き騙し返り討ちにする。なんと気持ちのいい事か。


なのに──それなのに──何なのだ?コイツらは。


橋のいとも簡単に飛び越え(1人だけだったが)、落石をいとも簡単に切り裂き、困った老婆に扮する吾輩を無視する始末。そして吾輩を脅すのだ。「お前何者だ。」と。見れば分かるだろうが。猿だよ。猿。ただの猿だ。何の変哲もない猿なのだよ。ちょっと知能は高いかも知れないがそれも天姫様の雷に打たれて活性化したに過ぎない。


人並みの猿である。悪知恵はまぁ働く方だが力もそんなにある訳では無い。ゴリラも利用しているが腕力で敵う訳では無い。


そんな吾輩を虐めないで欲しい。使命を果たす為に頑張っている猿を虐めないでください。てかもう嫌だ!逃げるが勝ちって言う言葉もあるからな。吾輩は逃げるのだ。


そして吾輩は───崖の頂きに身を隠したのだ。

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