第42話 空白の大地
話し合いの結果、絶鬼達の村へ向かうことになったライネル達。
現在、鬼の集落がどうなっているのか。生存者は本当に居ないのか?それを確認するためである。絶望的と思われたメイクードでも生存者がいたのだ。可能性はゼロではないはず。そして……どんなに悲しくても死んだ鬼たちの弔いをしなくてはいけないから。
鬼の集落は人大陸と魔大陸の間に存在するらしい。地図にすら載らないその場所は空白の大地と呼ばれ足を踏み入れた者を気付かないように排除しようとする。
空白の大地に入るには正規のルートを通る必要がある。人大陸からならば《賢者の渓谷》から。魔大陸からならば《絶望の森》からしか入れない。空や海からの侵入者には守護者の制裁が下される。空の守護者
ちなみに人大陸のルート賢者の渓谷は高い叡智を求められるらしい。森の賢者と呼ばれる猿の魔物が渓谷を支配し、訪れる者を選別するのだそうだ。
ライネル達はメイクードを発ち賢者の渓谷を目指す。移動は専ら旋風で…。と言いたい所だが大所帯になってしまったこともあり歩きによる移動となっている。
途中魔物が出てくるも探知に優れた無鬼が龍鬼に知らせライネルを守護する絶鬼を除いた4人が一斉に飛び出す。
クラッシャーボアなんて可哀想だった。無鬼の探知からお肉に変わるまで凡そ3分。素材も綺麗にバラされて価値のある角、牙は鞄の中にポイッだ。
ほくほく顔で戻ってくる炉鬼、無鬼、羅鬼、龍鬼。
「ライネル様!ご食事の準備が整いました!」
ほらね?なんか僕戦わずして食事にありつけるようになっちゃった。あはは。楽チン楽チン!
「うん!ありがとう。頂くよ!」
うん。焼き加減はバッチリ。鬼って料理も上手いんだな。特に女性陣は料理が上手い。アイリスさんも見習ったらどうだい?と思うが流石に可哀相で言えない。
鬼達の料理は調味料は使わないけれど香草を上手く使って複雑な味を再現しているみたいだ。おばあちゃんの知恵袋的な鬼バージョンだ。鬼ちゃんの知恵袋だな。
さて本日の夕食は《
肉食である鬼族ではあるが野菜もバランス良く摂取するとの事で人間と生活レベルは変わらない。マグの実とは木の実の一種でプチプチと食感が良く少しスパイシーな味わいだ。ピンクペッパーに似ている。
ちなみに鬼達の技術レベルは低く魔道具などの便利器具は普及していない。しかしながら古人の知恵を多く持ち火を起こすにしても一瞬だ。まぁ僕がやっても《天姫よほう》で一瞬なんだけどね。
それにしても美味いな──だが……
「……どうですか?ライネル様のお口に合いますでしょうか?」
僕の機嫌を窺う鬼達。この時ばかりは絶鬼ですらドキマギしているのか片方の口角だけ上がり気持ち悪い笑顔を浮かべている。
「──いや……」
僕は意地悪してみる事にした。
「「「「!?」」」」
絶鬼達がキョドり始める。しかし……無鬼だけはぷぷぷと笑い始めた。
「「「「炉鬼!なぜ笑う!」」」」
絶鬼達が炉鬼を責めるが……
「だって………ぷぷ……ライ様わざと意地悪してるだけだよ?ぷぷぷ」
「「「「えっ!?」」」」
「あははは!ごめんごめん。そうなんだ。ついつい意地悪してみたくなっちゃったんだよ。そんなにお窺いたてなくていいよ?十分美味しいからさ?」
「「「「よかった!」」」」
4人が声を合わせて喜ぶ。普段人相の悪い絶鬼ですら満面の笑みである。まぁ笑顔に慣れてない絶鬼はこういう時以外は顔が引き攣るので本当に笑っているのか分かりやすいのは助かる。
そして僕は続ける。
「──でも……この方がもっと美味しいかも。」
僕は無詠唱で
空から襲ってきたのは巨大な鷹。通称ステルスホーク。ステルスを得意とし、探知などの魔法にも引っかからない空からの暗殺に長ける魔物である。
鬼達も突然の襲来に驚愕する。
「「「「「ステルスホーク!?」」」」」
翼を広げると5mはあるだろう巨体の鷹は既に頭部が切り取られ翼も切り取られている。3つの風の刃が
調整が必要な《自然発火》を《こんがりと焼けるほどの》と指定するとあっという間に鷹の丸焼きが完成した。
唖然とする鬼達一同とアイリス。まぁアイリスに関しては驚愕するでもなく感嘆している。
嗚呼……また非常識な事をやっていると。何とも失礼な王女である。
「じゃあ。食べよっか。いただきまーす!」
唖然としていた鬼達も正気に戻ると香ばしく焼けた
「な…なにこれ!うっま!ヤバくない!?」
アイリスも驚愕の味だった様だ。ふふん。俺の料理も中々でしょ?アイリスさん?貴女お嫁に行けますかね?ぷぷぷ。
外部はパリッと香ばしく焼き上げつつ、内部はほんのり生の部分を残すミディアムレア。ちなみに単純に焼くと巨大な体躯の
自然発火という現象は何も外部が燃えるという事に限らない。内部から直接火を入れる事が可能なのだ。内臓も直接燃やすことが出来るチート級の自然現象。それが僕の使う自然発火だ。どこがどの様に燃えるのか。それさえ指定すれば何でも燃やせる。アイリスの陰毛でもチリチリにしてやろうか?あ。もうチリチリか!あはははは!
いやらしい目で見ていたのがバレたのかアイリスがジト目で見つめてくる。ごめんなさい……セクハラ案件でした。
さてこの素晴らしい焼き加減に鬼達は開いた口が塞がらない様だった。
「……こ、こんな事が……有り得るのか……」
「これは美味し過ぎです!最早芸術です!」
「……美味しいけど……私の方がもっと上手く焼けるんだからね!」
「流石はライネル様。感服致しました!」
「まじパねぇっしょ!美味すぎぃ~!」
皆さんそんなに美味しかったか。羅鬼なんて喋り方が変わってるじゃん。何か嬉しくなっちゃうね。調味料あればもーちょい美味しくなるんだろうけどな。まぁ塩や胡椒は存在するけど高価で手が出ない。あ。でも……もしもメイクードの貴族になったら買えちゃったりするかもね!それはメリットだなぁ。でも貴族なんて面倒臭いことやりたくないしなー。まぁそれは後々考えよう。
調味料が鬼の集落でついでに手に入らないかなー?なんて狸の皮算用をしつつライネル達は賢者の渓谷を目指すのだった。
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