第35話 スプライト戦
「だ、大丈夫!?」
アイリスが心配そうな顔でライネルに近寄る。
アイリスに声をかけられるも無言でムクっと起き上がり肩を落としたまま立ち尽くすライネル。まるで何かに操られている様だ。様子のおかしいライネルに「ひぃ…」と声を小さく上げてアイリスが傍から後ずさった。
ライネルは肩を落とした状態から更に腰を折ると、メキメキと音を立てながら両手を横から上に上げる。
「グガァァァーーーーー」
ライネルから異様な声が上がる。バキバキと音が激しくなる。骨が砕けているような音だ。
周囲は時間が止まったかのように一様にライネルに見入る。
すると突然ライネルの上半身の衣服が弾けた。
ライネルの背中には太陽の紋章が浮き出て、更に肩甲骨からは大きな翼が姿を表す。
太陽の紋章とはかつて太陽神ラームがその眷属に与えたとされるもので聖なる力の象徴とされる。他にも月の紋章、星の紋章など全部で4種類あり最後のひとつは数千年もの間眷属も存在せず謎に包まれている。
鬼たちは炉鬼がやられた事で狼狽えていたがスプライトの一言で正気にかえり残り2人の少女が襲いかかってきた。
そして炉鬼はと言うと…《
「よ、よくも
2人がライネルに迫る。1人はセーラー服を纏うサイドテールのメガネ少女。黒髪の彼女は日本にいるJKの様だった。角の位置は見えるところには生えてないようだ。もう1人の少女はベリーショートで切れ長の三白眼。眉毛が薄くほぼ無いに等しく眼力が凄まじい。角は頭部からピンク色の物が2本生えていた。
2人の鬼がライネルに爪を伸ばし襲いかかってくるも、ライネルに当たった瞬間まるで弾かれたように壁に吹き飛んだ。
「「が…はっ……」」
無鬼と羅鬼は肺の中の空気が漏れたのか声にならぬ声を上げて藻掻く。
無鬼と羅鬼が吹き飛ばされたのを見たスプライトの両脇にいた2人の鬼がライネルに迫ってくる。
「………死ね。」
「皆をよくも……貴様!絶対許さない!!!」
「「うぉーーー」」
刀を持った絶鬼とどこから出したのか蒼色の鎌の様なふたつの武器を両手に持ち龍鬼がライネルに襲いかかる。ライネルは急に前に倒れるように動くと一瞬消えた。刹那、絶鬼と龍鬼の頭部を両腕で捕まえるとそのまま床に激突させる。床にめり込んだ絶鬼と龍鬼は声を上げる間もなく意識を失った。
そしてライネルは絶鬼と龍鬼を持ったまま地面を引きずりスプライトの方へ投げつける。
スプライトはそれを片手で弾き飛ばす。
「ムハハハハハ?」
音も前動作もなくスプライトに迫るライネル。
スプライトの首を捕まえる。
「な!?。ムハハハ!こんな攻撃…」
ライネルの背中に浮かび上がった太陽の紋章が更に赤く光ると右腕に流れるように文字が浮かび上がる。
「ゴホっ……!」
首がみるみる締まっていきスプライトの顔が蒼白に染る。
「た、助けてくれ……謝るから……命だけは……魔界にか、家族が待っているんだ……」
お涙頂戴を誘いこの難局を切り抜けようと企むスプライトだったが一切の躊躇無く無慈悲なライネルの攻撃が火を噴く。
「……爆ぜろゴミが!」
「くっ……これまでか…。魔族に栄光あれ……」
バーーーン!
ライネルの握っていたスプライトの首は瞬く間に握りつぶされその上にあった頭部は赤くなり弾け飛んだ。高温すぎるのか弾け飛んだ頭部は血液や骨さえも蒸発して煙と化した。
この時ライネル達はまだ気づいていないがスーッとメイクード王国を漂っていた暗雲が無くなっていく。
それと同時に鬼達の様子が急変する。
ムクリと起き上がった絶鬼と龍鬼。2人の鬼が起き上がった事に気づいたライネルはダランと手を下ろし2人に向く。
「「炉鬼!!」」
絶鬼と龍鬼は戦うことを優先し、今まで気にもとめなかった炉鬼を案じる声を上げると、即座にライネルの前に跪く。
「お、お待ちください!数々の無礼……申し訳ございません!我々は悪い鬼ではありません!私たちは操られていたのです!」
ダランと手を下ろしていたライネルは急にバっと元の姿勢に戻り、周囲をキョロキョロし始める。
「え?これどうなったの?」
「は?お、覚えてないの!?ライネルが全部やったんだよ?」
「あぁ……何かぼやっと覚えてるけど……モヤがかかってあんまり思い出せないんだ。それでなんで鬼達が僕に跪いてるの?」
「それは……」
絶鬼に詳しく話を聞くと5人の鬼はスプライトに操られていたのだそうだ。
数ヶ月前、魔族と人間の中間に位置する彼ら鬼族は突然魔族による侵攻を受け壊滅状態になったらしい。村は数十名の鬼が惨殺され焼き滅ぼされたのだと。
そしてここにいる5名の鬼達は鬼族の中でも強く、その戦力を買われ無理やり従属させられたらしい。スプライトが倒れた今、鬼達を操っていた従属の呪いが解け、絶鬼達はライネルに対し敵意を失い冷静さを取り戻したのだ。
「我々は貴方様に従います。ですからどうかお許しください……。」床にひれ伏す絶鬼と龍鬼。吹き飛ばされた羅鬼と無鬼も意識が戻ったのか、肩を抑え足を引きずりながら絶鬼と龍鬼の横に行くと土下座をする。
「どうか……ご慈悲を………炉鬼も助けてください……お願いします……たった5人の生き残りなんです……」
無鬼と羅鬼は床に額を擦り付けて懇願する。
「わわ……分かったよ!許すから頭上げてくれない?」
絶鬼は頭を上げず目線だけ上げる。
「よ、よろしいのですか?鬼の私たちを許して頂けるのですか?」
「鬼って言っても僕は分からないし別に悪い人じゃないなら許すよ。」
「あ、ありがとうございます!!!」
「うん。でも……頭をいい加減上げてくれるかな?話しにくいからさ?」
「「「「「はい!」」」」」
5人は返事と同時に正座したまま頭を上げた。その顔は凛々しく尊敬の眼差しであった。
その後ライネルと鬼達はスプライト達魔族との情報を交換した。
あれから数日が経った──
メイクード王国の住民たちの八割は惨殺されていたがアイリス、バルムス王が主導となり住民たちを探すと、地下の避難所に残り2割の住民たちが避難していた。流石にそこまではスプライトも気づいていなかったようだ。
食料の備蓄は少なくなりいよいよもう駄目かと言うところで助かって歓喜の声を上げて皆が抱き合っていた。
住民たち総出で亡くなった人々を弔い新たな王国のスタートとなった。精霊国ジュピタンも復興に協力する事を約束し、シシリアンを含めた三国による戦争は休戦状態になり、お互いに魔族に対する防護策を講じることで合意した。
ライネルとアイリス、メシウス、バルムス王はここで別れる事になった。旅をしたメンバーと別れるのは辛いが復興する為に王族がいなくなるなんて考えられないからである。
「ライネル~行かないでよぉ~」
すっかり成人の犬族になったアイリスは程よく大きな乳房にキュッとしまったウエスト。プリっと安産型のお尻がとても魅力的であった。しかしここで僕の目的が達成された訳では無い。
僕の目的──それは僕が無能と烙印を押された原因でもある、スキル《天姫よほう》の全貌を解明する事にほかならない。世界を旅して様々な文献、伝記を元に真実に辿り着きスキルを使いこなす事。それが僕の当面の目的。
ここからライネルの本格的な旅が始まるのだ──
~~~~~
ここで第3章が終わりです。
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