19 リーダーに報告
「やあ、おかえり。モノグ」
「レイン」
宿の自室に戻ると、既にレインが帰ってきていた。
いつもの装備のまま、ベッドに寝転がっている。やっぱりなぜか、俺のに。
「どうだった?」
「予測通りの結果だったよ」
「それはよかった。モノグの目は相変わらず頼りになるね」
「待ってりゃいずれ出る結果なんて、ちょっと先読みしたくらいじゃ意味無いだろ」
俺は魔物の死骸を集め、ポケットに入れている間にある程度鑑定結果を計算することができる。
今回のギルドから得た報酬は、事前に予測でレインに伝えていたものと大きな相違はなかった。
これも、サポーターとして必要な技量の一つだ。
「いやいや、謙遜しないでよ。モノグがその場で報酬を算出してくれるおかげで、僕らは余計な無理をする必要が無くなる。一回ダンジョンに潜る際に得る金額を決めておけば、どれくらいの日数で目標金額に届くかも計算ができるしね」
「……そう丁寧に説明しなくても」
「うん、モノグは理解してる」
レインはにこっと笑った。
「だから面倒くさい感じに自分を卑下するモノグに、ボクは君が十分頼りになってるよってうーんと褒めてあげなきゃいけないだろう? なんたってボクは君のリーダーだからね」
「このやろ……」
「モノグ、凄いよ! 頼りになる! 頭良い! カッコいい! 大好き! 惚れちゃう!」
「やめろやめろやめろ!!」
これはもう明らかにからかいモードに入っている。
ていうか、そう分かっていてもなんでか顔が熱くなるのはなんでなんだ!?
「そうだ! せっかくだし、ぎゅーってハグしてあげようか?」
「いらねぇよ!」
どうしてわざわざ野郎にハグされなきゃならんのだ。
まるでそれがご褒美みたいに言いやがって。
「でも、モノグのおかげでまた夢に一歩近づいたね」
「俺のおかげなんてことはないだろ。それに夢って……」
「ボク達みんなの夢さ。それぞれ抱いている夢は別だったとしても、こうしてお金を稼ぐことは、確実に意味のあることだ。それこそ……ダンジョンを一層攻略するよりも、ずっとね」
リーダーにはあるまじき発言を、レインはあっさりとしてしまう。
冒険者はダンジョンを攻略するためにいる。その踏破こそ誰しもの悲願だ。
けれど、実際、金を稼ぐためだけに冒険者をやっている者も少なくない。
自分たちの技量にあった、安全で稼げる階層に留まり、魔物狩りに勤しむ。
そうして金を稼ぎ、飯を食い、家族を養っていく……それも人として立派な生き方だ。
俺達も今、家を建てるって目先の目標のために、同じことをしているしな。
けれど、それらも全て、ダンジョン踏破に向けての布石だ。そう思っているから、俺達は一つに纏まれている。
冒険者にとって『ダンジョン踏破』は御旗なのだ。宗教と言ってもいい。
それがあるから、未来に余計な不安を抱かずにいられる。
「……他のやつらにも、同じこと言っちゃいないだろうな」
「まさか。幼馴染みのスノウとサニィにも、こればかりは言うべきじゃないって思ってるし」
「じゃあ、なんで俺には言ったんだよ」
「それは……ふふっ、秘密の共有をすれば、仲が深まるっていうだろう? ボクとモノグはストームブレイカーでは少数派な男同士。結束を強めるのもいいんじゃないかなって思うんだ」
「……ったく」
どこまでが本気か冗談か。
でも、レインには俺達を騙して、自分の目的に従わせようっていう悪意がない。
こいつの『夢』が何かは知らないけれど……こうして謎めいた態度を取ってかっこつけたって、レインが良い奴だってことは疑う必要が無いと、俺は思っている。
人を見る目だけは確かなんだ、俺は。
「別にリーダーも、迷っていいんだからな」
「分かってる。だから頼りにしてるんだ」
「本当に分かってんのかよ」
「あはは」
ちょっとムカついたので頭を小突いてやった。
でも、レインに懲りた様子はなく、適当な笑みを浮かべるだけだ。
「ま、ガス抜きにはいくらだって付き合うよ。弱音でも、虚言でも、好きなだけ吐け」
「わーい。優しいなぁ、ボクの相棒は」
「誰が相棒だ」
もう一度小突いてやると、レインは嬉しそうな顔のままベッドに倒れ込んだ。
なんとも無邪気なやつだな。
「俺も、俺なりにお前達を支えるよ」
「じゃあ、自分が抜けたほうがパーティーのためになるなんて自己犠牲精神は捨ててね」
「……はは」
ちくりと刺すような強い口調に、俺は乾いた笑いを返す。
相変わらず、レインは怖いやつだなぁ。良い意味でも悪い意味でも。
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