05 これまた小さな友達と

 そんなこんなで馴染みの鍛冶屋兼武器屋……いや、武器屋兼鍛冶屋? まぁ、どっちでもいいか。

 『ベル・ハウス』に着いて、ちょっと時間を潰した後、2人を引きつれて入店した。


「よぉ、相変わらずシケてんな」

「……なんだ、モノグ氏っすか。折角客足がはけて落ち着けたと思ったら」


 ドアベルの音に、反射的に営業スマイルを浮かべたベルは、しかし俺の顔を見るなりげんなりと、とても客に見せるべきではないだろう仏頂面を向けてきた。


「おいおい、客足ぃ? まるで繁盛店みたいなこと言うなよな」

「さっきまではそりゃあもう大盛り上がりだったんすよ。モノグ氏は知らないかもっすけどね、こう見えてうちの店、結構繁盛してるんすよ……する時は」

「へぇ~?」


 むすっと不機嫌そうにするベルをからかっていると、隣にいたサンドラがクイクイと袖を引っ張ってきた。


「モノグ。でもさっき、混んでるからちょっと待とうって言ってたよね」

「……どーいうことっすか、モノグ氏ぃ?」

「どういうことって?」

「うちが混んでるって知ってたってことじゃないっすかぁ! なにが「相変わらずシケてんな」っすか!」


 本当にからかわれていたと気が付いたベルは、怒ったように声を上げ、ぽかぽかとリズムよく叩いてくる。


「あっはっはっ、バレちったか」

「開き直ってんじゃないっすよ、まったく……」


 ベルはそう言いつつ、入り口に向かい、ガラス戸の前に吊った札を開店中から準備中に変える。


「ていうか、珍しいっすね。サンドラさんをお連れとは」

「うん、久しぶり、ベル」

「お久しぶりっす!」

「お店、閉めちゃっていいの?」

「大丈夫っすよ。さっきまで頑張って働いたんで。休憩タイムってやつっすね」

「おい、客がいるだろ、目の前に」

「モノグ氏は客とは違うんすよねー」

「お客さんですよ!?」


 なんとも躾のなっていない店長だ。ええい、お客様は神様だぞっ!

 ……と、口に出すとさすがに顰蹙を買いそうなのでやめておいた。

 ベルは客と店主というよりは友人同士に近い間柄で、多少の冗談は通じるが、通じるからこそ超えてはいけない一線もある。

 ま、その一線ってのも結局は気分次第なので、『客が居ない』というネタもタイミングによってはマジ切れされたりする。おっかないね。


「んで、何の用っすか、モノグ氏」

「何の用って……お前が言ったんだろ、サンドラを連れて来てくれって」

「あー……あっし的にはもう少し先のつもりだったんすけど。言ったの先週くらいっすよね?」

「いや、別にいつ頃なんて言われてなかったし」

「モノグ氏、いっつも寝かすじゃないっすか。平気で2週間、3週間……だから気持ち早めに伝えたつもりなんすけど」


 うぐ……た、確かにダンジョン攻略が最優先で、ベルのは後回しにすることも多いけど……!!


「ま、いいっすよ。補填として、たーっぷりご馳走してもらうっすから」

「こ、今回は早めに来たじゃねぇか!」

「それでも1週間寝かしてるっすけどね」


 俺の抗議は虚しくも一蹴されてしまう。ぐうの音も出ねぇ。


「まぁでも、だからって準備ができていないというのは鍛冶屋の名折れっす! すぐに準備するので、お2人は――いえ、サンドラさんはここで待っていてほしいっす!」

「おい、俺は」

「モノグ氏は手伝うっすよ。雑用は本業っすよね?」

「うーむ、否定できん。よっしゃ、いっちょやったるかぁ!」

「なんだか従順なのも気持ち悪いっすね」

「どうしろと?」


 なんて、無駄なやり取りの2つ3つ4つはコイツとの会話においてはお決まりのようなもの。

 体力と時間を引き換えに、なんともいえない楽しさと充足感を得ることができる。ちょっとだけ虚しさはあるけれど。


「とりあえず荷物運びとその他諸々をお願いするっす」

「荷物運びなら、サンドラ手伝えるよ?」

「いえいえ、お客さんにお手伝いさせるわけにはいかないっすから」

「俺は客だろ」

「はい?」

「え……?」


 なに、その反応。俺は客じゃなかった……?


「ははは、モノグ氏。モノグ氏は特別っすよ。特別なお客さんには手伝ってもらうんす」

「特別?」

「ええ、特別っす!」

「特別じゃあ仕方ないなぁ。悪い、サンドラ。俺特別らしいから!」

「モノグ、騙されてるよ」


 ジトっとした目で呆れたように見てくるサンドラ。

 う、うっさいわい! んなこと分かってるってば!


 実際のところ、彼女の手伝いをして少しでも代金がまかればな、という下心が半分あるのだ。

 では残り半分はというと……まぁ、色々融通利かしてくれて悪いし……


「そういうところ、商人からすりゃ付け入る隙なんだろうなぁ」

「モノグ?」

「いや、なんでもない。サンドラ、悪いけど少し待っていてくれ。ウチとでも話してりゃすぐだろ」

「うん。わかった」


 サンドラが大人しく頷いてくれたのを見届け、俺はベルについて彼女の工房へと向かうのだった。

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