【WEB版】雑用係兼支援術師はパーティー追放に憧れる ~世間は追放ブームなのに、俺を過大評価するパーティーメンバーたちが決して手放そうとしてくれない~

としぞう

雑用係兼支援術師はパーティー追放に憧れる

01 冒険者パーティーの雑用係兼支援術師

「おい、また追放者が出たってよ。しかもあの大手パーティー、『バロミデス』のサポーターらしい」

「マジかよ、最近多いな……しかし、バロミデスで活躍してたような奴なら引く手数多だろうな」


 そんな会話が耳に入ってきて、俺は思わずグラスに注がれたエールを思いきり煽った。

 先の会話を交わしているのは中年冒険者たちだ。俺達と知り合いではないが、内容が内容なため俺の耳にもよく入ってくる。


 昨今は冒険者ブーム。

 世界各地に現れたダンジョンという地下深くに広がる階層型の迷宮で一攫千金を求める連中が急増した。

 というのもダンジョンの最奥にはそれこそ人知を超えたお宝が眠っており、それを手に入れた者は富、名誉だけでなく、想像もつかない程の栄光をその手に収められるという。

 実際誰も見たことがないのだから、あくまで噂でしかないけれど。


 実際のところ、そんな眉唾な理由だけがダンジョンの魅力ではなく、ダンジョン内で取れるアイテム・素材の数々が地上では高値で取引されているというのも、腕っぷしに自信のある連中を冒険者にし、駆り立てる要因となっている。

 そもそも冒険者という職自体がギャンブルみたいなものだから、そんな現実的なことを考えている奴が一体全体の何割なのかは分からないけれど。

 

「っていうか、大手でもサポーターって切るんだな」

「ああ。アタッカー至上主義にまた拍車がかかるぞ。俺、前衛職で良かったぜ」

「俺も。まぁ、ムカつく気持ちは分かるけどな。俺達が前線で体張って、命の危険に立ち向かってるってのに、後ろでのんびりされたんじゃあな」


 ついつい、先の冒険者たちの会話に耳を澄ませてしまう。

 なんたって、彼らの話は決して他人事ではないのだ。


 俺は彼らと同じく冒険者であり、そして彼らの話題に上がっているサポーター……ガチガチの後衛職なのだ。

 前衛職、アタッカーと呼ばれる連中の中にはパーティーを組まず、1人でダンジョンに潜る猛者もいるらしいが、後衛職では前例がない。というか、後衛で前衛のサポートをしている身としてはそんなこと有り得ないと分かるのだけれど。


 つまり、後衛は前衛がいて初めて冒険者として成立していることになる。

 そして、活躍があまり可視化されない後衛職、サポーターは過小評価される傾向が強い。実際、本当に何もしてないこととかあるからね。

 例えばヒーラー、治癒魔術師なんてのも、前衛が怪我しなかったら治す必要とか無いわけだし。


 それでも冒険者業界ってのは基本的にパーティー内平等ってのが全体の風潮として存在している。

 要は活躍によって取り分の格差を設けないって話だ。前衛で身体を張ろうが、後衛でぬくぬくしていようが手に入れる金は同じ。それを守らないパーティーもいるが、そういうパーティーは大体悪評が立って、新規の加入希望者が集まりにくくなってしまうらしい。

 そりゃあ、新人の分け前は雀の涙なんて言われれば、より良い条件で入れるパーティーに行くもんなって感じだ。


 そういった風潮から、今湧き上がっている――正しくブームとなりつつあるのが、追放。パーティーから不要なメンバーをクビにする動きだ。

 単純に人数が減れば1人当たりの分け前が増える。そして、居ても居なくても変わらない――と思われがちな後衛職なら居なくたってなんとかなる。そう思われて、クビを切られるというのは、悲しいが当然の動きなのかもしれない。


「どうしたのさ、モノグぅ」


 いつの間にか世間話から後衛職そのものへの悪口プレゼン大会へと移行していた冒険者たちの会話に耳を澄ませるあまり、俺は今自分たちのいる席への注意が疎かになっていた。

 そしてそれに気が付いたイケメン、我らがパーティー『ストームブレイカー』のリーダー、レインが声を掛けてくる。


 金髪碧眼の、まるで王子様なんて噂される甘いマスクをずいっと近づけてくるレイン。その頬はほんのり赤らんでいて、目も少しばかり蕩けているように思える。

 これは別にコイツが俺に気があるとかではなく、単純に酒に弱いのだ。


「全然酒が進んでいないじゃないか。ほら、もっと飲め! 遠慮するな! なんたって割り勘だからなっ!」


 グイグイとエールが半分くらい注がれたグラスを顔を押し付けてくるレイン。いくらイケメンであっても酒に溺れればただのダル絡みでしかない。

 というか割り勘なら結局飲んだだけ自分にも返ってくるんだし、お得感無いんですがそれは……。


「何よモノグ。レインの酒が飲めないってワケぇ?」

「そうだ、ボクの酒が飲めんってのかぁ!」

「はぁ……? っていうか、スノウ。お前も酔ってんな……」

「アァ? お酒を飲みゃあ、酔うでしょうが」


 ワイングラスをプラプラと揺らしながら、持ち前の鋭い双眸で睨みつけてくるスノウ。

 光を反射させ眩しく輝く銀色のツインテールと、鮮血を吸ったみたいな紅蓮の瞳が特徴的な美少女だ。


「ちょっと2人とも飲み過ぎよ? モノグ君が困ってるじゃない」

「何よ、サニィ。ポイント稼ぎぃ?」


 そしてそんな酔っ払い2人をたしなめる大人のお姉さん。大人と言っても、レイン、スノウの2つ年上で、俺の1つ年上でしかないんだけど。

 でも、おっとりと落ち着いた性格、たわわに膨らんだ胸が醸し出す抱擁感……そして、彼女の前に置かれたドデカい酒瓶の放つ圧から、これぞ大人とひれ伏させる貫禄を放ってくれている。

 緩くウェーブした緑色のロングヘアー、細目からたまに除く深緑の瞳の持ち主。手放しで褒められる美人。酒瓶さえ無ければね……。


 ちなみにスノウのポイント稼ぎ発言は彼女らがレインに気があるから出たものだ。

 レイン、スノウ、サニィは3人とも幼馴染という関係らしい。らしいというのは当然、俺が彼らの幼馴染ではなく、後からこのパーティーに加わったゲストのような存在だからに他ならない。

 やけに仲の良い3人はそりゃあもう、イケメン君と両手の花って感じなので、いよいよ俺は本当に異物でしかない。


 冒険者パーティー『ストームブレイカー』、その実態はレインとそのハーレムメンバー+おまけの俺で構成されているのだ。

 つまり――肩身が、狭い。


「モノグ」


 レイン、スノウ、サニィの3人の輪が生まれた、少し離れる俺に小さく平坦な声が掛けられる。


「サンドラ?」

「そこの唐揚げ、取って」


 ストームブレイカーの残り1人、レイン達の幼馴染では無いけれど、レインのハーレムメンバーではある身体の小さな少女、サンドラがフォークでテーブルの上の皿を指す。

 そんな彼女に皿を差し出すと、彼女は手づかみで唐揚げを頬張り出した。


 サンドラはレインの剣技に惹かれ、勝負を挑み、負けたことをきっかけにこのパーティーに加わった少女だ。

 今と同じ無表情のまま自分の身体よりも大きい大剣を振り回す脳筋パワーファイターで、やはりスノウ、サニィに並ぶ美少女だ。

 紫色のぼさっとしたショートヘアと、いつも眠そうに細められた同じく紫の目を持った小動物系猛獣である。


 こうも美少女揃い、そしてレインも少々華奢ではあるが相当なイケメンということもあり、なにかとやっかみを受けることがあるストームブレイカーであるが、どいつもこいつも冒険者としては粒揃いで、実力的にも注目を集めている。


 演舞のように美しく、また神速とも定評のある双剣技の使い手、レイン。

 氷結系に特化した破壊力抜群の攻撃魔術師、スノウ。

 正確無比かつ速射を極めた弓術師、サニィ。

 岩をも砕く強靭な大剣使い、サンドラ。


 小規模ながら皆若く、現時点でも非常に優秀なアタッカー揃いだ。


 だからこそ――俺の存在も悪目立ちしてしまう。

 俺は知っている。周囲の冒険者たちが俺のことをなんと呼んでいるかを。


 ストームブレイカーのお荷物。ものぐさモノグ。


 ものぐさってのは、要するに怠け者ってことだ。

 ストームブレイカー唯一の後衛職であり、支援術師。1人では戦うことのできないお荷物という扱いなのだ。

 まぁ、支援術師というだけでなく、冒険に必要な細々とした雑用も俺の仕事なので、雑用係兼支援術師ってところか。うん、余計悪くなったな。


 ストームブレイカーは本来ならもっと上へと行けるパーティーなのに、俺のようなお荷物を抱えているから思うように進めていない。


 そんな評価を下す上位パーティーもいる。実際、何人かは良かれと思ってリーダーであるレインに直接助言しているらしい。


(さっきの冒険者達の話じゃないが、俺もいずれ――いや、いずれなんて言っていられないくらい近い未来に追放されるんだろうな)


 今は追放ブーム。後衛職の居場所がなくなりつつある情勢だ。実際、俺と同じく後衛で頑張っていた冒険者の知り合いの中にもパーティーを追放された者はいる。

 それも複数人。しかも優秀な者だっている。


 そんな彼らがクビになって、俺のような怠け者がパーティーに置いておいてもらえるなんてのは虫の良い話だろう。


「モノグ?」


 クビになる未来を想像し、黙り込んだ俺を見上げてサンドラが首を傾げつつ呼びかけてくる。

 そして、彼女だけじゃない。レインたちも俺の方を見ていた。まるで何かを心配するように。


 俺はそれに対し、肩を竦め――


「俺、ちょっと明日の準備をしてくる。どうせ明日もダンジョン潜るんだろ?」

「え……あぁ、そのつもりだけれど」

「ちょっと気になることがあってさ。少し時間かかりそうだから、先に解散して寝ててくれて構わない。深酒して二日酔いとかやめてくれよ?」

「大丈夫よ、そんな情けないことになるのモノグぐらいだから」


 スノウの有り難いお言葉に苦笑する。確かに彼女の言う通りで、このメンツの中で二日酔いするのは俺だけだ。


「気をつけてね、モノグ君?」

「別に危ない事なんて無いけど」

「心配」

「い、いや、本当にただ買い物行くだけだから……どんだけ信用無いんだ……?」


 致死量を超えてるんじゃないかと思えるほどの酒を飲み干すサニィさんと、パーティー唯一の未成年サンドラに心配されつつ、俺は酒場を後にした。

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