第12話:その勇者、身体がちょっとなまってる

 何が起きたのかわからないくらい、一瞬でネーチャーがアンデッドドラゴンを倒した。


「ちょっと待ってくれ、ネーチャー」


 地面に脱ぎ捨てられたネーチャーの鉄製アーマーを持ち上げようとしてみた。脛当ての部分だけでもかなり重い。渾身の力でようやく片方の脛当てを持ち上げられるくらいだ。


「なんだコレ? 重っっ!!」

「ああ。普通の鎧の10倍はあるな」

「10倍っ!? ネーチャーは、こんなのを全身に身に着けてたのか?」

「ああ、そうだ」

「なんのために?」

「まあ、トレーニングのためだな。それは重いだけでなくて、魔力の出力も10分の1に抑える効果がある。それを普段から着ることで、身体がなまらないようにしている」


 ──マジか!?


「アンデッドドラゴンくらいなら、それを着たままで倒せるかと思ったが……ちょっと身体がなまってるのかもしれない」


「す……すげぇぇぇぇ! すごいよネーチャー!」

「いや、私にとっては普通だ。世界最強の勇者なのだから」


 うん。納得だ。

 これならこのダンジョンのボス敵も、楽勝にちがいない!


「なにをしてる、アッシュ。次の階に行くぞ」


 ネーチャーが近づいてきて、俺の肩をポンと叩いた。


 ──うわぉ!


 セクシーな黒タイツスーツ姿のまま、そんなに近づかれると心臓が破裂しそうにドキドキする。コイツは、自分が超絶美人だって自覚が薄すぎるんじゃないか?


「あ、ああ。行こう……」


 俺はなんとかそれだけ返したが、かすれた声しか出なかった。





 階段を降りて、ひとつ下の層に来た。また狭い洞窟のようになっている。

 一層目にあんなに強い魔物がいるダンジョンだ。この先が思いやれる。そして……もちろんラスボスはもっと強いはずだ。


「ところでこのダンジョンは、いったい何層まであるのかな?」

「ん……? このダンジョン……この2層目までだな」


 突然ネーチャーがそう呟いた。


「なんでわかるんだ?」

「ああ。さっきまでは鎧が魔力を抑制していたから見えなかったが、ダンジョンマップ透視魔法で、この先を見てみた。このまま真っ直ぐ行くと、また広場みたいなところがあって、そこが終点だ」

「じゃあここはダンジョンというより、小さな洞窟って感じか」

「そうだな」


 たった2層のダンジョン。しかもその中に、強烈に強いボス敵がいる。

 今まで聞いたことも無い、奇妙なダンジョン。自然にできたのではないことは確かだな。


「なんでこんなものができたんだろうか?」

「そこまではわからない。とにかく先に進んでみよう」


 ネーチャーは先に立って、すたすたと歩きだした。俺も慌てて後ろから付いて行く。

 スパッツに包まれた、ネーチャーの形のいいヒップが、目の前でぷるんぷるんと揺れている。


 ──いやもう、ホントに目の毒だ。

 

 既にブルたちは先に進んでいるはずだ。彼らに成果を独り占めされないためにも、早く行かないといけない。俺とネーチャーは、駆け足で洞窟内を先に向かった。



「ここをもう少し行くと、また広い場所に出る。そこがこのダンジョンの最深部だ」


 マップ透視をしたネーチャーが教えてくれた。

 この先がダンジョンの最深部。つまりボス敵が居るであろう場所。

 ここに辿り着くまでにブルたちの姿は見えなかったから、彼らはすでにこの先まで行っているのだろう。


 ブルたちはラスボスの正体を見たのだろうか?

 ラスボスを倒せたのだろうか?

 それとも正体だけを確認して、帰還魔法で既に町に帰ったのだろうか?



 ネーチャーが言ったとおり、狭い洞窟はすぐに終わりになって、少し開けた場所に出た。


 そしてそこには──

 凄惨な光景が広がっていた。

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