第31話 クリスマス会(1)


十二月に入って、佳亮の職場ではいよいよ年末に向けて活気づいてきた。やれ忘年会だ、クリスマス会だと、中田原たちは忙しい。男同士の忘年会には二度参加したが、相変わらず女性が参加するクリスマス会などは参加しないので、懐の痛み具合も少なくてすんでいた。


「杉山くん、クリスマス会に参加しない?」


そんな中、佳亮をクリスマス会に誘ってきたのは織畑だった。彼女もイベントごとが好きで、花見やキャンプなど、職場の有志を集めて楽しんでいる。


「織畑さん…。僕は言ったように、女性が参加する集まりには…」


「杉山くんは参加したことないから知らないだろうけど、うちの催しは外部の人間連れて来ても良いのよ。私も今回、佐倉くんを連れて行くし、杉山くんが大瀧さんを連れてくるなら、また会えてうれしいわ」


成程、そういう会だったのか。しかし、薫子が行きたがるかどうか分からない。身分としては社長だし、その上実家があのお屋敷では、うちの会社程度のクリスマス会より大事な行事がありそうだ。それでも、もし薫子が前向きなら、この前お酒を一緒に飲めなかったと言っていた薫子と織畑が一緒に飲めるのではないかと思った。


「取り敢えず、薫子さんに聞いてみないと……。でも僕はあまり乗り気ではないので、色よい返事は期待しないでください」


「杉山くんは大瀧さんと結婚は考えてないの? 会社の面子に顔見せしておくと良いわよ」


織畑はそう言うが、まだまだ付き合い始めて日が浅いし、そこまで考えきれないのが本音だ。そう言うと、織畑は腰に手を当てて、駄目よ、杉山くん、と言った。


「年上の女性を待たせるもんじゃないわ。大瀧さんが気にしてたらどうするのよ」


うう~ん、其処を言われると弱い。薫子は来年で二十九になる。結婚を考えてもおかしくない年だ。


(そういえば、おとんたちに料理を振舞わなあかんって言うてたっけ……)


やはり薫子の頭には結婚があるんだろうなあ。意外と現実が迫ってくる感覚に、背筋を伸ばした。


「そうですね…。兎に角、クリスマス会のことは、一度薫子さんに聞いてみます」


佳亮が応じると、織畑は是非そうしてちょうだいな、と微笑んだ。



出張料理の日。食卓を二人で囲んで他愛のない話をしていた。佳亮がクリスマス会のことをどう切り出したもんかと思っていたら、どうしたの? と逆に様子を窺われた。


「薫子さんには隠し事が出来へんなあ。……薫子さん、クリスマスの週、何か予定ありますか?」


苦笑気味に尋ねると、薫子は目をぱちりとして応えた。


「二十三日は毎年会社の子とクリスマス会をするの。クリスマスイヴは、ほら、うちの会社女性が多いでしょう。空けてあげないと可哀想だから。何かあった?」


織畑から誘われたクリスマス会はクリスマスの前の週の土曜日だった。誘ってみたらどう思うだろう。


「……実は、その前の土曜日にうちの会社でも有志でクリスマス会をやるって話なんですが、外部の人間も参加していいらしくて。薫子さんさえ良ければ、一緒に参加しますか? 織畑さんは薫子さんに会いたいって言うてました」


薫子は佳亮の話に土曜日…、と呟いて何かを少し考えた後、私なんかが行っても良いのかしら、と不安そうにした。やっぱり知らない人がいっぱいの場所は緊張するだろう。佳亮が薫子の気持ちを汲んで、やめておくかと口にしようとした時、でもはるかさんには会いたいわ、と薫子が言ったので、一緒に悩んでみる。


「織畑さんは佐倉さんを連れてくるって言うてました。知らない顔が多いかもしれませんが、知ってる人もいれば少しは安心しますか?」


「佐倉さんも参加されるの? それじゃあ、勇気を出して行ってみようかしら」


ちょっと安心したように薫子が微笑ったので、佳亮も安心した。自分も初めて参加するから、どんなパーティーになるのかを伝えられないのが申し訳ないが、織畑が薫子を一緒にと誘ってくるくらいだから、きっと和気あいあいとしたクリスマス会じゃないかなと想像した。





「杉山。お前クリスマス会に参加するんだって?」


「しかも彼女連れてくるらしいじゃん?」


そんな風に中田原と長谷川に絡まれたのは、織畑にクリスマス会に参加すると伝えた日の昼休み。相変わらず佳亮は自作の弁当を食べていて会社に残っていたのだが、外食をしに出掛けていた二人が帰ってきて、一直線に佳亮の席まで来て佳亮を囲んだ。


「弁当男子、女には興味なかったんじゃないのかよ」


「案外むっつりだったんだな」


冷やかされていい気分にはならない。そんなんとちゃうよ、と冷たく答えても、二人はどこ吹く風だ。


「どういう感じの女なんだよ、教えろよ」


「そんなの敢えて俺から言わんでも、会えばわかるやろ」


この二人に薫子を会わせるのは、薫子に対して何を言うかということが心配だが、二人も一応大人だし、と自分を納得させた。


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