あなたから私へ
まぁ、地に足が着かないっていうのは落ち着かない事他ならない。
私が死んでからかれこれ五年は経ったけど未だに慣れない、たまに地面に足を着けて歩く振りをしてる。見た目はそれっぽくなったけれども重力を感じないってのは困りものだ。
死んですぐ出会った街角のおじさんは、まず足を透明にしろって言っていた。幽霊の礼儀だと。一理あるしああいう人が居るから日本の幽霊は足無しスタイルが一般的なのかな。それともやる事がなくなって、新人にそう言う事を伝えるのが生き甲斐になっているのかも。
今上手い事言ったね。
そんな私の生き甲斐は、付き合っていた彼女の様子を見る事くらいしかもうない。
死んで直ぐは色んな場所を見て回ったり好きな恰好になってみたりしてそれなりに楽しんでた。ただ、ゲームでもなんでもそうだけれども制限がなくなってなんだって出来るようになった瞬間に全部冷める奴と似た気がしてる。
憧れだった服も靴も何の苦も無く無限に手に入れれたら価値なんてあったもんじゃない。服は着飾れるから生きてる頃と同じ楽しみ方が出来たけれども、食べ物や煙草みたいなのはダメだ。味が一切感じなかった。それが一番死んで辛かった事かな。
彼女と並行して歩く。私にはこれがあるから別に食べ物がなくなっても別にいいんだけどね。
ずっと彼女をいろんな場所から観察していたけれども、定期的に私を思い出して泣いてくれていた。
なんだろう。映画とか漫画とかだと私の事なんてさっさと忘れるか昇華するだかして新しい未来をどうのこうのとかって展開が良くあるけども、彼女が私を想って泣いてくれるのは正直嬉しい。こんなになってまで愛してくれているのを拒否する人間はいるんだろうか。
今日もいつも彼女とキスをした場所に来ている。
私の分の煙草と自分の煙草に火をつけて、静かな一服。
神様っていうのはかなり粋な存在なのか悪魔みたいなものなのかわからないけれども、この瞬間だけ煙草を感じれる。五年前に戻れてしまう。だからずっとずっとここに居ちゃうんだろう。
彼女の煙草は手巻煙草で、私が生きていた頃は白い巻紙だったのにちょっと前から茶色い巻紙になった。これって吸ってないと火が消えるんだよね。
ほら、もう消えた。今日私が煙草を楽しめるのはもう終わりだ。
自分の煙草を吸い切った彼女は、火の消えた私の煙草を拾い上げて火をつける。
私の吸っていた煙草に火がついて彼女が吸い込むとどうしようもない一体感を得られる。その瞬間間違いなく私は彼女の中に入り込んで溶け合って同化する。
数えくれない位したキスよりも、絡めあった舌の感触よりも、朝までしたセックスよりも気持ち良い。全身を抱かれているし全身で抱いている、無い神経の全てが全力で昂る。
こんな事だったら彼女が死んだら私もやらないとなと思う。
なんというか、死んでても生きていても、彼女は私を救い続けてくれる。
彼女が死ぬまでには彼女を救う方法を見つけないとなと思った。
レクイエム @samuthing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます