堕ちる砂、満ちる。

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※なるべくなら性別変更不可。

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※金銭が発生する場合、必ず連絡をお願いします。

※作者名【夏艸なつくさ 春賀はるか】とタイトルとURLの記載をお願いします。

※録画・公開OK、無断転載禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※比率は男1:女1のサシ劇台本です。

※所要時間約20分。




《役紹介》

飯田 拓三(イイダ タクミ)

30歳、170cm、男性。

黒髪短髪、茶色の瞳、垂れ目。

高校教師、一人称『僕』

たまに毒舌だが、根は優しい




望月 砂菜絵(モチヅキ サナエ)

27歳、160cm、女性。

焦げ茶長髪、焦げ茶の瞳、若干吊り目、右目泣きボクロあり。

高校教師、一人称『私』

我が道を行く



《配役表》

拓三(男):

砂菜絵(女):




↓以外本編↓

────────────────────




拓三M

「新しく赴任してきた職員の中に、僕の高校の頃の後輩がいると知って思い浮かんだのは、桜の舞い散る中にたたずむ女の子の姿。その表情は涙を流していたのか、笑っていたのかすら分からないが、妙に惹かれたのを覚えている。

 赴任して数日経ったある日、親睦会を開こうと騒ぐ教頭に引っ張り出された。」



《飲み屋街にて》



砂菜絵

「飯田先生ー、もう一軒付き合ってくださいよー」


拓三

「良いですよ。 付き合いますから真っ直ぐ歩きなさい。そんなにふらついてるとぶつかるよ」


砂菜絵

「えー? 大丈夫でーすよー、ほらほら〜、ねー?」


拓三

「あーこらこら。電柱に絡みに行かないでくださいよ。変な目で見られたくないでしょう? どんだけ飲んだんですか、そんなに酔って」


砂菜絵

「酔ってませんよ? 私は大丈夫ですー」


拓三

「それ、完全に酔ってる人の台詞ですからね」


砂菜絵

「そうですかー? うふふ。そんなに飲んでないんですけどねー」


拓三

「そんなんでもう一軒行けるんですか?」


砂菜絵

「行けますとも!……と言うか、飯田先生。敬語じゃなくてもいいんですよー? 私、後輩だすし。あ、噛んだ。後輩ですしー」


拓三

「ふふ、言い直さなくても。まぁ……少し飲んでそんなに酔ってたら危ないから、もう帰りましょう」


砂菜絵

「危ない……んです?」


拓三

「多分ね、飲みすぎてもいけないし。タクシー、呼ぶから待ってて」


砂菜絵

「うーん、……はーい。分かりましたー。じゃあ……くっつきますね」


拓三

「なんでそうなるんですか。そこのベンチにでも座って待っていなさい。……あぁ、もしもし?」


砂菜絵

「……」


拓三

「はい、じゃあ一台、お願いします。 ……うん、これでよし。タクシー来るまでは一緒にいますから」


砂菜絵

「……せんぱい……」


拓三

「ん?」


砂菜絵

「……飯田、先輩……」


拓三

「え……」


砂菜絵

「私ね……先輩が、好きなんです」


拓三

「……」


砂菜絵

「ふふ。言っちゃった……先輩? 好きよ……」



拓三M

「彼女はほんの少し色付いた顔を近づけて、僕の頬と唇に柔らかく触れるだけのキスをした。そして満足そうな笑みを浮かべると、力が抜けたように僕へと倒れ込む。酔いが回りすぎて寝入ってしまったのだろうか。

 少しの間抱きかかえたままタクシーを待ち、何とか揺り起こして自宅へ向かうようにと見送った。 」



【間】



《翌週、朝の職員室にて》


砂菜絵

「あの、飯田先生」


拓三

「ん、ん? 何かな?」


砂菜絵

「これ、この間頂いたタクシー代です」


拓三

「……え?」


砂菜絵

「その……ごめんなさい。私、酔い出してから記憶が曖昧あいまいで。ちゃんと最後まで面倒見てくれたの、飯田先生だって聞いたので」


拓三

「……あぁ、うん。覚えてない、んですか」


砂菜絵

「えぇ。あ、あの、でも! 教頭先生が、お開きにしようって言ってたのは覚えてるんですよ? それで、立ち上がろうとして……そこからの記憶が、ちょっと」


拓三

「あぁ、そうなんだ……」


砂菜絵

「迷惑掛けてすみませんでした……」


拓三

「迷惑では、なかったから。無事に帰れたみたいで良かった」


砂菜絵

「……それで、その。……あの、私、何かしちゃいましたか?」


拓三

「何か、って?」


砂菜絵

「いえ! なにもしてなかったならいいんです。とにかく、これ!」


拓三

「いや、今渡されてもね……もうすぐ授業も始まるし」


砂菜絵

「え?……あ、そっか。えっと……それなら、放課後渡しますんで、残っててくれます?」


拓三

「残るも何も、一応僕が指導担当じゃなかったかな? 君の。報告貰う時にまた出してくれれば良いですよ」


砂菜絵

「あ、そうでした。ん、じゃあ……はい、そうしますね」


拓三

「それでは……教室、行きましょうか」


砂菜絵

「あ、はい!」



拓三M

「放課後、僕は封筒を受け取る事は無かった。翌日にも渡されそうにはなったけれど、やはり受け取る気持ちにはなれなかった。何処どこか必死に食い下がってくる彼女に、今度また飲みに行こうと提案した。

 数ヶ月が過ぎた頃、僕はこの事を忘れ掛けていた、その矢先。」



《飲み屋街、一軒のBARの店内にて》



砂菜絵

「突然誘っちゃって、すみません」


拓三

「良いですよ、暇でしたし。他には誰か来るんですか?」


砂菜絵

「いいえ、来ませんよ?」


拓三

「……え、来ない?」


砂菜絵

「だって、他の先生来たら奢れないですもん」


拓三

「奢れないって? どういう事かな」


砂菜絵

「先生言ったじゃないですか、今度一緒に飲みに行こうって。忘れちゃいました?」


拓三

「……あぁ、あの時の? 覚えてたんだ」


砂菜絵

「さすがに飲んでなかったんで覚えてますよー。なので、好きなの頼んでください! ここはどーんと私が!」


拓三

「うーん。でもねぇ……」


砂菜絵

「元々は先生のお金だったんですからー、いいじゃないですか」


拓三

「まぁ、うん、そういう事なら。じゃあ、とりあえず……」


砂菜絵

「あ、ここのオススメあるんですよ! まずはそれにしましょ!」



拓三M

「初夏を迎えて学生達は夏休みに入る頃、あの時の約束を果たすと言う名目を知らずに僕は呼び出された。髪を下ろしているせいだろうか、普段より大人びて見える。

 二人でしばらく飲んだ後、あの時と同じように、いやそれ以上に酔い潰れたように見える彼女と共に店を後にした。」





砂菜絵

「えっへへー、せーんぱい! 今日はありがとうございまーした! あー、美味しかったー!」


拓三

「こちらこそ、ご馳走さま。あーほら、わざとらしくフラフラしてたら人にぶつかるよ」


砂菜絵

「だーいじょーぶですよー? 支えてくれてますもんねー」


拓三

「支えると言うかなんと言うか」


砂菜絵

「んふふ。……あ、あのね?」


拓三

「うん?」


砂菜絵

「好き、なの……」


拓三

「それは僕の事を言ってるのかな?」


砂菜絵

「そう、そうですよ? それで私、高校の入学式の日に……」


拓三

「あー、待って」


砂菜絵

「え?」


拓三

「少し休みながら話そう? 人目もあるし落ち着かないでしょ」


砂菜絵

「……はーい……」



【間】



《飲み屋街外れ、小さな公園内》



拓三

「はい、珈琲コーヒーとお茶、どっちが良い?」


砂菜絵

「すみません、お茶で。……ありがとうございます」


拓三

「うん、それで……酔ったフリはもう良いのかな?」


砂菜絵

「えっ」


拓三

「割と分かりやすかったから。今日、酒は飲んでないでしょ」


砂菜絵

「そんな事、無いですよ? 一杯目はちゃんと」


拓三

「同じ物飲んだしね。けど、次からノンアルコール、だったでしょ」


砂菜絵

「……なんで」


拓三

「カクテル本を少しだけ読んだ事あるからかな」


砂菜絵

「……あー……そっか、((小声で)アレ、カクテルの本だったんだ……)」


拓三

「うん?……あ。もしかして、僕を誘った時から何か、話すつもりでいたのかい?」


砂菜絵

「……えー? そこまで、バレてるんですか……」


拓三

「何となくそう感じただけだよ」


砂菜絵

「んあーもうー! なんか、めちゃくちゃ恥ずかしくなって来ましたよ?!」


拓三

「しがみついてくるのも、ぎこちなかったってのもあるからね」


砂菜絵

「いや! あの!……なんか、本当、すみません……」


拓三

「良いよ、役得だと思ってたから。……それで?」


砂菜絵

「それ、で」


拓三

「何を、話そうとしてたの」


砂菜絵

「……あ、そっか。……うん。あの、ですね……」


拓三

「高校、一緒だったんだね」


砂菜絵

「そう、一年だけですけど。……私、先輩の事は高校に入る前から知ってたんですよ」


拓三

「え? どういう事?」


砂菜絵

「私、姉がいるんです。その姉の彼氏だったんですよ、先輩」


拓三

「そう、なんだ」


砂菜絵

「姉が先輩を家に連れて来てくれた時に、勉強教えてくれたりしてたんですよ? 凄く優しい人だなーって思って。何度か会うたびに、かれてて……」


拓三

「なるほど。まぁ、遠くから見てた、っていう感じなのかな?」


砂菜絵

「そう、です。……見てるだけでも好きになれる事があるなんて、不思議ですよね。少しだけでも同じ高校に行けるんだって実感した時、思わず入学式で──」


拓三

「──桜の木の下で、泣いてた?」


砂菜絵

「えぇ、はい。……て、え、見てたんですか!?」


拓三

「……妙に、残ってるんだ、その光景が。桜を見上げながら、笑ってるのか泣いてるのか分からないけど、たたずんでる女の子の姿がね」


砂菜絵

「……え、やだ……声掛けてくださいよー、恥ずかしい」


拓三

「いや、君だとは思わなかったし」


砂菜絵

「……それも、そうですよね……」


拓三

「……で?」


砂菜絵

「ん、で?」


拓三

「続き、あるのかなって」


砂菜絵

「あぁ……うん。いいえ、特には。……一年間ずぅっと先輩を想いながら、目で追いながら、姿を追いながら、卒業してくのを眺めてました」


拓三

「なんで、声掛けてくれなかったんだい?」


砂菜絵

「何度か挨拶はしましたよ。少しだけ姉の事を話したりもしましたし。それでも見てる事の方が多かったです」


拓三

「そう、なんだ……」


砂菜絵

「そう……姉と別れたのは高校卒業した時でしたよね。一人でこっそり泣いてた姿が可愛かったなー。夢だって言ってた教師を目指して、猛勉強してる姿見た時は愛しくてたまりませんでしたよー」


拓三

「……ん?」


砂菜絵

「無事に教員免許取れて一人で祝杯あげてるのを見た時、思わず後ろから抱き締めてあげたくなったんですけど、ちゃんとこらえたんですよ?」


拓三

「抱き締めてって……そんなに見てたのかい?」


砂菜絵

「うふふ、なんだかストーカーみたいですよね。でも、先輩が好きだから見てたんです。先輩が教師になるなら私も追いかけなくちゃいけないなって」


拓三

「う、ん。……それ、で」


砂菜絵

「すぐに同じ所で働けなくてごめんなさい。でもずっと見てましたよ。……それでやっと、同じ職場になれたって思ったら、嬉しくなっちゃって……飲み会で、はしゃいでつい、飲みすぎました」


拓三

「……ずっと、見て、た……?」


砂菜絵

「はい。まぁ、それで多少計画がズレたんですけど。追いかけて、辿り着けたんです、ようやく。手が届く所に」


拓三

「……計画って…?」


砂菜絵

「やっぱり、恋人にはしっかりと、自分のだってシルシは、付けておきたくなりますよね?」


拓三

「え……恋人?」


砂菜絵

「そう。先輩と……拓三たくみと、私。恋人でしょう?」


拓三

「……恋人……じゃ、ないよ」


砂菜絵

「嘘。冗談でも恋人じゃないなんて言わないで?……あー、だから拓三たくみは他に女抱いてたの? ほんっとに、寄り付く女共むしどもが、邪魔だったのよね、ずっと」


拓三

「虫って……」


砂菜絵

「やっぱり、拓三たくみには……私がいなくちゃダメね……」(言いながらバックから何かを取り出し口に含んで体を寄せる。)


拓三

「……いや、訳が分からな (口付けされる。)……ッんぅ!?」


砂菜絵

「(薬を口移しで無理矢理飲ませる。)……ン。・・っふふ……拓三たくみには、私だけが……必要なのよ」


拓三

「ッごほ……くッ……何、を。飲ませ……」


砂菜絵

「少し素直になれるおクスリなだけ。……ねぇ? これからは、私だけを見ていてくれない? 大丈夫よ、ちゃんとしつけてあげるから」


拓三

「……しつけって……ッう、意識、が……」


砂菜絵

「不満? そんな事ないわよね、全部揃えてあるわよ、拓三たくみが好きなモノは」


拓三

「……ぐ、ぅ……」


砂菜絵

「これからはちゃんと、私だけを愛して? そうすれば仕事だってさせてあげる。その代わり、少しでも他人よそれたら………ゆるさない」


拓三

「……ッ…」


砂菜絵

「細胞の一つ残らず、愛してあげる。大好きよ、拓三たくみ。 やぁっと、捕まえた……ふふ、うふふ……、んふふふ……」



拓三M

「嬉しそうな笑い声を聞きながら、薬を飲まされた僕はその場で意識を失った。

 数時間後、自宅では無い無機質な病室のようなベットの上で目覚める。かたわらには肌をあらわにした彼女の姿。僕の首には、外そうとしても外れないかせ一筋ひとすじ

 桜の木の下に佇んでいた女の子は成熟し、妖艶ようえん無垢むくな笑みを浮かべながら僕をぜた。」





終わり

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堕ちる砂、満ちる。 夏艸 春賀 @jps_cy729

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