榎本モノエは僕を殺したいらしい
しょす
榎本モノエは僕を殺したいらしい
第1章 榎本モノエと僕
01 暴力襲来
「お前が、イイノタツキか?」
それは唐突だった。道を歩いていたら晴れているのにも関わらず雷に打たれたかのような、そんな理不尽さと唐突さ。
「……? はい、そうですが……」
僕の隣でギラギラとしたオーラを放っている、ジャストサイズのスーツをピシりと着こなしたスタイルの良い女性は一体誰だろう、と思いながら僕が
「――!?」
脇腹辺りに激痛。
状況も理解出来ないまま身体をくの字に曲げつつその女性を見上げると、眼光だけで人殺しができそうな眼で僕を睨みつけていた。
直後、身体がふわっと浮く感覚。
唐突と衝撃の連続に僕の脳はうまく機能せず、胸ぐらを掴まれていると理解するのに少しの時間を要した。
「なん、ですか……いきなり」
やっとのことで出せた僕の言葉は確実に彼女に届いているはずなのだが、微塵の反応も見せずにそのまま僕を勢いよく地面に叩きつけた。
――片腕で僕を持ち上げ、片腕で僕を叩きつけた。
見ると彼女はかなり華奢で、少なくとも筋骨隆々というふうには見えない。僕は太っているわけではないが、しかし痩せすぎているわけでも身長が極端に低いわけでもない。その細腕に似合わない怪力に、なんとなく工場に設備されているロボットアームを連想する。
叩きつけられた衝撃で肺の中の酸素が勝手に吐き出され、うまく息が出来ずに
まるで口からへぇーという空気が抜け出たような口調で、到底人を踏みつけにしている最中とは思えない気の抜けようだった。
「イイダタツヤだったっけか?」
「い、威々野龍生です……」
「あぁ、そうか、まぁどうでもいいけど」
畜生、なんだよそれ。
「なんですかいきなり、だったな。私がお前を殴る理由が知りたいのか?」
当たり前だ。正直僕にはここまでボコスコ殴られる心当たりは全くないし、あったとしても許されることじゃない。かといってこんな理不尽で強大な暴力に対して対抗できるような強さも持ち合わせてないので、せめて――というのもおかしな話だが、理由だけでも聞いておかないと割に合わない。そしてへぇーって一体なんだったんだ。
踏みつけにされながら彼女を見上げていると、なぜか殴られた僕ではなく殴った本人がやれやれという雰囲気を出しつつ口を開いた。
「お前を殴る理由――それはな」
「…………」
「お前を半殺しにしてくれと頼まれたんだよ、お前の友達の女の子からな」
あぁ……。僕自身には殴られる心当たりはないが、そんなことを頼みそうなヤバい奴には心当たりがあった。
この一連が彼女、暴力の嵐、自称なんでも屋――
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