第244話 四鬼家系
「四鬼華を栽培しているという話は、初めて聞いたのだが…」
「側近の三人以外には、初めてお話しますからね。
折角ですし…少し昔話でもしましょうか。」
「………………」
「サダさんは、昔、四鬼華を集めようとした四鬼の話を知っていますか?」
「…知っている。何も手掛かりを掴めず、終わったとか。」
「はい。四鬼華の伝説です。
ですが…何故、見付かっていない四鬼華が、有ると分かるのだろうか?と考えた事はありませんか?」
「まあ当然、そう考えるのが普通だろう。」
だからこそ、都市伝説と言われているのだから。
「そうですね。多くの人が、そのように考え、眉唾物だと考えられてきました。
ですが、四鬼が四鬼華を探しに行った時、本当は四鬼華を見付けていたとしたら…どうでしょうか。」
「四鬼華の伝説の方が間違っていたと?」
本当は見付けていたのに、それを見付けていないと、噂話が流れている。とでも言いたげだ。
「はい。そして、その四鬼華の伝説の話を、世間に流したのが、四鬼本人だとしたら?」
「……もしそうならば、何故そんな噂話を広めるのだ?
四鬼の実力を低く見積もらせるだけではないか。」
「その時の四鬼の感情までは分かりません。それだけの価値が有ると判断し、独り占めしようとしたのか、それとも、世に出すのを嫌ったのか…
ただ、調査に出た四鬼の内、少なくとも、その一人が四鬼華を見付けた事は確実です。その調査報告を、私は読んだ事がありますので。」
「調査報告?」
「はい。まだ私が街に…城勤めをしていた時のことですがね。
調査結果として、正式に認可されている調査報告は、何も見付けられなかった…という内容のものですが、真の調査報告書が有るのですよ。」
ガラクの仮面の下にある目は、感情の揺れを少しも感じさせない。
オラがガラクに抱いている感情は、一言で言うと、詐欺師。
あの手この手を使って、周囲の者達を取り込み、駒として使い捨てる。普通の詐欺師の数倍はタチが悪いとさえ言える。
そんな相手がする話を、全て
実際に、どういう成分が分からないが、点眼薬が有るし、それを使った者達の反応も見た。
あれが四鬼華の点眼薬だとしたら、ガラクの言葉にはそれなりの
それに、天山は四鬼華の伝説でも話に出てくる山……判断が難しいところだ。
「もしそうだとして……何故ガラクが栽培を?」
「私がその場所を突き止めたから…ではありません。
私は、その時、天山に向かった四鬼の子孫なのですよ。
ですから、その四鬼の真の調査報告書を読む機会に恵まれたわけです。」
「四鬼の子孫…?」
この島において、一度四鬼となった者達の子孫となると、それなりに期待される鬼士として一目置かれる家柄となる。
完全実力主義ではあるが、自分の子に徹底的に教育する四鬼も多く、次代とはいかなくても、二代先にはその息子が四鬼になったりする事も多い。
オラの父も四鬼だったから、それはよく知っている。
そんな状況であるが故に、四鬼になり得る家柄というのは、大体決まっているもので、それぞれの地区の四鬼候補の家柄と聞けば、三つ四つの家の名が出てくる。
しかし、ガラクは、その家の名の中には入っていない。
養子に出されたという話も聞いていないし…
「私が四鬼の子孫という話を信じられませんか?」
「……そうだな。聞いた事がないからな。」
「信じて頂けずとも構いませんが、とにかく、私は天華の事を知り、天山に向かいました。
土魔法によって塞がれた神殿を見付け、そこに生えていた天華を整えた…ということです。
先祖の者達が、抽出作業や、その効果についても研究を行っていたので、使い方も全て知っていたのですよ。」
話を区切るガラクの目には、暗いものが見えた。
四鬼の家が落ち目になる事は、無いわけではない。ガラクが一瞬だけ見せた瞳の中の暗い部分に、ガラクの行動の源があるような気がする。
何代も前の四鬼の話となると、流石に知っている者も少ない為、今直ぐには分からないが…誰かに調べさせておいた方が良いかもしれない。
「それと、もう一つ、闇華と呼ばれている華の在り処も掴めております。この二つは手に入るのですが、二種混合液は、作るのに時間と手間が掛かりますので、それ程量が確保出来ません。なので、渡す者には限りがあります。」
二種混合液、毒々しい色の点眼薬で、神力を強制的に上昇させるもの。タイラに渡したあの液体だ。
四鬼華を運ぶだけでも、かなりの時間が必要となるし、量が確保出来ないというのは分かる。どうにも嘘を吐いているようには見えない…本当の事なのか…?
それに、天華が咲いているという神殿は、土に埋まっていたという話だが…元々なのだろうか?それとも、四鬼が見付けた後に土魔法で封じたのか…別の何者かが封じたのか…何にせよ、不思議な力を持った点眼薬は存在している。実際にガラクが四鬼華の二種の在り処を知っているかは分からないが、特殊な液体を作れるのは事実だろう。
それを上手く利用して、仲間を増やしているのか…
「もう一つ良いか?」
「何でしょうか?」
「タイラの話だが…あいつが簡単に人の下につくとは思えない。何か理由が有るという事は聞いたが、何をしたんだ?」
仲間の中には、ガラクの事を信用出来ないという奴らもいたが、どこかへ連れて行かれて帰ってくると、気色悪い程にガラクの事を神聖視していた。
それと何か関係がありそうだが…
「そうですね…それについては、まだお話するのはやめておきましょう。その代わりといっては何ですが、一つ仕事を片付けて頂けたら、これからの事をお話します。」
「仕事…?」
「現在、前にお話したシンヤという者が、天華を採取する為に、天山に向かっていると聞きました。
他の三種の四鬼華も、既に手に入れたらしいので、天華を手に入れるのも時間の問題だと思います。」
「それを阻止して欲しいのか?」
ガラクにとっては、ある種の武器のようなものだ。
独り占め出来る状態であるから、鬼士隊がまとまっているという部分もある。
ガラクからしか手に入れる事が出来ない点眼薬。という事が、鬼士隊全員の共通認識。
しかし、そこに、シンヤが現れ、誰にでも手に入れられる状況が出来上がってしまうと、組織自体が崩壊しかねない。
「いえ。そうではありません。」
「ん?」
「ただ、シンヤという男の実力を測ってきて頂きたいのです。」
「実力を…?」
「はい。」
やけにシンヤの事を気にしているな…
それ程危険視しているという事なのか、それとも、大切な駒なのか…
「実力を測るだけか?」
「はい。今相手にする必要はありません。どの程度の実力を持っているのか、制御が可能なのかを確認したいだけです。
下手に争って、目立ちたくありませんからね。
四鬼華の事は良いのです。また直ぐに生えますから。」
「……分かった。それだけならば俺一人で十分だ。直ぐに向かおう。」
「よろしくお願い致します。」
ガラクの願いにより、オラは直ぐに天山へと向かった。
ここのところ、鬼士隊の動きが活発化しており、人や物が流れている事には気が付いていた。それを調べる為にも、あまり街から離れる方向には向かいたくはなかったが、一人で行動出来る状況は貴重だった。
鬼士隊の全体像が掴めてきた今、ランカ姉達にも知らせを出しておきたい。
オラが今やるべき事は、サダという者が必要となる時まで、息を潜めている事だ。
本来であれば、鬼士隊が動き出す前に止められるのが最良。それは分かっているが、出来ることと出来ないことも分かっている。
一人で止めるのは難しい規模の相手であり、ランカ姉達との連携が必須。慎重に事を進めなければ。
今はとにかく、急いでシンヤの元に向かいつつ、鬼士隊が動き出す前に止める方法を考えなくては…
一人ならば、誰に見られる心配もないし、神力を自由に使って超速で向かう事が可能だ。
オラは一気に天山への道を消化した。
鬼士隊の事は不安だったが、それとは別に、シンヤという男にも、それなりに興味はあった。
ランカ姉から聞いた、シンヤという男の事を実際に見てみたかった。
ガラクが警戒している相手でもあるし、鬼士隊を止める為に、重要な役割を担っているのかもしれない。
ランカ姉が信頼している相手となれば、それだけで信頼に値する者だとは思うけれど、今のオラは四鬼であり、忍の頭領。
手放しで信用するわけにはいかないし、どこかで会いに行こうと思っていた。今回は良い機会に恵まれた。
こうして、天山へと向かうと、黒い髪に黒い瞳の男と、銀髪に青い瞳の女。そして、大きな狼…?とも言えない程に大きな狼と、鬼人族の女が居た。
この場では、鬼士隊のサダではなく、四鬼のテジムとして話をしたかった為、オラは手から指輪を外す。
海底トンネルダンジョンで、極々稀に見付かる魔具で、代々、西地区の四鬼に受け継がれる道具の一つ。
オラはこれで姿を変えて、潜入していたのだ。
そして、シンヤと顔を合わせた。
最初は狼の警戒する唸り声に出会い、少し面食らったけれど、敵意が無いことを直ぐに察知して、飯に誘われた。
とても短い間の、少ない会話だったけれど、シンヤが信用に値する者だという事は直ぐに分かった。
忍としての活動を続けていると、相手がどんな者で、危険な相手なのかどうかが、目を見れば大体分かるようになる。
人を人とは思わぬ者達を数多く見て、そういう者達を殺してきたからだろうか。
そういう者達というのは、目の奥に、暗い闇を抱えており、どこかポッカリと穴の空いたような、光の無い目をしている。
しかし、シンヤは違った。
どこか暗いものを抱えているような目ではあったけれど、それを受け止め、消化しようとしている。
何より、銀髪の女を見る目は、とても優しく、今の自分を受け止められている者の目だった。
もしシンヤの目が、
ダンジョンを踏破するような実力者ならば、色々な戦いを経験しているはず。その中には、人を殺すような経験も含まれているだろう。
そんな者が純真無垢な瞳を持っていたならば、どこか壊れていると感じたはずだ。
刀を持った者が、そんな目をしている事はまず有り得ない。
殺し、殺される覚悟があるからこそ、そこに闇が生まれ、それを瞳の奥に宿す。
それが普通だし、そうでなければ、人は斬れない。
形はそれぞれ違うけれど、刀を持った者達は、それを自分なりに消化している。いや、正確には、消化しきれないからこそ、闇が生まれるのだが。
どちらにせよ、シンヤは闇を抱えながらも、その中でもがき苦しみながら、前を見て進む男の目だった。
そんなシンヤの持つ雰囲気というのか、空気というのか…それは強者のものだった。
オラは、剣術よりも、暗殺の技術を磨き続けてきたけれど、多分…この男には通用しない。そう思ってしまった。
単純な剣術の技術という点で言えば、恐らくランカ姉より僅かに劣るはず。
しかし、シンヤの実力は、そんな技術とは別の場所にある。
相手を確実に殺す。
その一点において、四鬼のオラ達でも勝てない次元に居る。
実戦で相手を斬り続けたような……戦争を体験した古い人には、稀に居ると聞く類の者だ。
しかも、規模は違うけれど、隣に居る銀髪の女も、似た空気を
ここが戦場だとして、敵としてこの二人に出会ったら、オラは即座に逃げる方法を
そういう相手だ。
信用に値する相手だと分かったから良かったものの、もし、シンヤが敵に回ったら…と思うと、背筋が凍る。
今の鬼士隊の動きを見るに、何かをしようとしているという事は分かる。何か大きな事を。
それがいつなのかは分からないが、これだけシンヤを警戒しているということは、どこかでシンヤの存在が大きく関わってくるのかもしれない。
鬼人族の問題なのに、人族のシンヤ達に頼ってしまうのもおかしな話だが、四の五の言っていられない状況にまで来ているのかもしれない。
実際に刃を合わせずとも、シンヤの実力は十分に理解出来た。
オラのやりたい事と、サダとしての役目はこれで果たした。
しかし、ガラクの元へ戻りながら、どう報告したものかと考えていた。
そのまま、かなりの強者で、危険な相手だから、相対するよりも、避けた方が良い、と伝えるか、逆に、それ程の強者ではない為、勝てる程度のものだろう…と伝えるか。
後者の方が、ガラクの隙を作り出せる可能性があるし、迷う必要はないだろうと思えるが、相手はガラクだ。下手に嘘を吐いて、それがバレてしまったなら、ここまでの事が
最終的な、鬼士隊の狙いというのが分かっていないし、それがもう少しで聞けるかもしれないという状況である為、ここで間違えたくはない。
間違えたくはない、という考えを元にするならば、前者の情報が確実で安心に伝えられる。しかし、それは、シンヤをより危険視させ、警戒させる事になるし、対策を立てられる可能性が高い。
どうするべきか…答えが出ぬまま、オラはガラク達の拠点に辿り着いた。
そこに居たのは、ドガマとガラクのみ。他は出払っているのか、誰も居なかった。
「はっ?!もう行って帰ってきたのか?!」
帰って来て第一声がドガマのそれだった。
まあ、現役の四鬼、忍の頭領なのだから、これくらいは出来て当たり前なのだが、多少腕が立つ程度の者と認識されているのだから、驚かれるのも仕方ない。
「走るのは得意でな。」
「得意って…」
「早く戻ってこられたなら、それで良いではありませんか。
それより、どうでしたか?シンヤという者は。」
「…………正直に言うと、ハッキリとは分からない。」
「は?!何だそれ?!
本当は行ってきていないんじゃないのか?!」
「いや。実際にこの目で見てきた。黒い髪に黒い瞳の男だった。
モンスターとの戦闘を何度か見てきたが、強いのは確かだ。しかし、どの程度の強さかと聞かれると、答えが難しい。見た限り、本気を出しているようには見えなかったからな。」
「つまり…本気で戦ってはいなかったけれど、モンスターを討伐する程度の力は有る…と言う事ですね。」
「ああ。」
「か、神人様?!信じるのですか?!」
ドガマはオラの言う事が信じられないのか、焦りつつそんな事をガラクに向かって言っている。
敢えて強いと思わせるような答えにしたのは、シンヤを信じた…と言えば聞こえは良い。
正直、かなり迷ったが、どこかで嘘がバレた時の事を考えると、この程度の話をしておいた方が良いと判断した。言い方を変えてしまえば、シンヤを利用した事になるが…責は後から受けよう。シンヤがオラを許せないというのならば、首を差し出しても良い。鬼士隊を止められるのであれば、オラの首一つ程度安いものだ。
今はまだ、鬼士隊の真の目的や計画の全てを暴けているわけでもない為、まだ、この潜入捜査を続けなければならない。
「私が事前に調べた内容と、大体合致します。シンヤという男の外見も、黒髪に黒い瞳と聞きました。
見てきたのは間違いないでしょう。」
やはり、嘘を吐かなくて正解だったみたいだ。ある程度調べは終わっていたらしい。オラへの試験なのか、ただの確認か……
「か、神人様がそういうなら…」
「それにしても、厄介な人ですね。
我々の計画が狂わされる前に、第三段階までは到達したいところですね。
こちらの手勢で止められるのであれば、それで良しと出来ますが…」
「話に着いていけないのだが。」
「ああ。そうでしたね。
それでは、街へ向かいながら説明しましょう。」
「街へ……?」
オラは何が起きるのか分からぬまま、街へと向かって行った。
ドガマ、ガラクは、神力を使い、かなり速く移動が可能で、街までの距離をあっという間に消化した。
その道中で、オラがガラクから聞いた内容は、想像を絶していた。
「それで…計画というのは、何なんだ?」
「今回、我々鬼士隊が目指すのは、お上と呼ばれている腐った連中と、それを見て見ぬふりをしている鬼皇達を殺す事です。」
「なっ?!」
「驚きましたか?」
驚くも何も、そんな事をしてしまえば、この島の全ての住民が、路頭に迷う事になりかねない。
「その為に、コソコソと準備を進めてきたからな。
鬼士の殺害は、ただの隠れ
あれだけ派手にやれば、そちらに目が行くだろう?そうすれば、裏での動きが見え難くなる。
それに加え、腐った鬼士を殺せるのであれば、一石二鳥。最高だろう!」
笑いながら言うドガマ。
「……その隠れ蓑を使って何をしていたんだ?」
「タイラ家とササキ家の財力を使って、武器と人を街の至る所に流し込んだ。」
「ササキ家?!ササキ家も絡んでいるのか?!」
「そうだ。驚いたみたいだな。」
ササキ家当主のソウタは、それなりに頭の回る者で、こんな事に手を貸すような者では無かったはず。遠方に置かれたという話は聞いたが…それが原因だろうか…?
「どうやって仲間に引き入れたんだ…?」
タイラの意識が変わった事と同じような事が、ソウタの身に起きたのか?
「あいつの事を引き入れるのは簡単だった。
ソウタの右腕たる者の一人で、ある女を
「女を……」
「殺してはいないぞ。魔眼持ちの女だからな。」
魔眼持ち…?確か、シデンの妹も、魔眼持ちで、ガラクに狙われていたと聞いたが…
「ドガマさん。」
「あ!も、申し訳ございません!」
口を滑らせた…らしい。魔眼保有者の事については、話す気が無かったみたいだ。
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