第五章 戦闘民族

第45話 救援要請

「その変身はいつでも解けるのか?」


「解くのはいつでも出来ますが、もう一度変身するには沢山の魔力が必要となります。一応闇魔法ですから。維持にも魔力が必要なので、常に少しずつ魔力を消費しています。」


「そうなのか…ニルがカナリアの魔法を止めた時の黒いモヤは一体何だったんだ?」


「あれは両親が私に掛けてくれた防護魔法です。」


「害意を持って触れられると自動で反撃する防護魔法か?」


「はい。あの黒いモヤがその正体です。魔族が得意とする闇魔法の一種…だったと思います。記憶が曖昧で申し訳ございません…」


これについてはニルを責める気にはなれない。


「いや、十年以上も前の事だ。分かる範囲で教えてくれれば良いよ。」


「分かりました。

この防護魔法も、私の魔力を常に少しずつ消費しています。相手の攻撃が弱ければ、目に見えない程度のモヤが発生して反撃するのですが、今回の様に強い攻撃の場合は、それに相当するだけの魔力を消費して反撃するのです。」


相手の攻撃の威力に比例するカウンター。と考えれば分かりやすいだろうか。


「なるほど。凄い魔法だが…穴が無いわけではなさそうだな。」


「そうですね。私の持っている魔力以上の攻撃は無効化出来ませんし、反撃出来ないような行動を取られた場合はどうする事も出来ません。」


「その魔法が届かない所からの遠距離攻撃って事か?」


「他にも、例えば私を捕らえて、食事も水も与えずに……とかですかね。」


「そういう事も有り得るわけか……あれ?でも、ニルが気絶した時、変身解けなかったよな?魔力切れだったんだろ?」


「それは、魔力切れで気絶しても、直ぐには変身が解けない様に、僅かな魔力を角に収納しているのです。」


「そんな事が出来るのか?!」


角、便利ー…


「はい。と言っても、本当に僅かなので、そこから更に魔力を使ってしまったら、変身が解けてしまいます。」


「なかなか便利な魔法だな…」


「体の大きさまで変えようとすると、かなり魔力が必要になりますが、多少変えるだけであればそれ程魔力は消費しません。ただ、あまりにもかけ離れた姿形にはなれません。」


「体の大きさが変わる時点でかけ離れていると思うが…」


「その辺の制約については、私も詳しくは分からないのですが……私の場合は、過去の自分に変身しているので、かけ離れてはいないという扱いだと思います。

ここで言うかけ離れた姿形というのは、性別だったり、容姿の事ですから。」


「つまり、性別を変えたり、全く別人の容姿にはなれないと?」


「はい。容姿については、多少変えることが出来ますが、一部だけだったりします。」


一部でも十分便利な魔法だと思うが…


「自分の骨格を変えるような変身は不可…って事か?骨格から読み取れる過去の姿は可…という事か…?」


「正直、自分でもよく分かっていません……」


「そういう事が出来るって事は分かったよ。頭に入れておく。

ただ、少なくとも暫くの間は、子供の姿で居てくれないか?」


「………その……この姿はお嫌いでしたか…?」


大人なニルの姿を自分で見て、眉を寄せながら聞いてくる。


「いやいや!そんな事は無いから!むしろそっちの方が…って、何言わせるんだ!」


「ふふふ。良かった…」


嬉しそうに、照れ笑いするニル。大人ニルの笑顔…破壊力凄いな…


「いきなり大人のニルが現れたら、ペネタ達がビックリするだろ?説明も出来ないし。」


「あ…そうでしたね。」


「たまに抜けてるんだよなー。ニルって。」


「も、申し訳ございません…」


「怒っているわけじゃないから良いけどさ。

それに、美少女と美女だと、どうしても美女の方が目立つからな。」


「美少女…美女?私がですか?」


キョトンとしているニル。


「その顔は本気で疑問に思っているみたいだが…いや、今はそんな事より、変身の話だ。

その辺は男じゃないと分からないかもしれないが、美少女よりも、美女の方が印象に残るんだよ。」


「よく分かりませんが…分かりました。ではその様に。」


ニルの周りに、また黒いモヤが現れると、いつものサイズに変わり、角と尻尾も無くなる。

少し惜しい気もするが……いや!そんな事は思ってないぞ!うん。


「これでよろしいでしょうか?」


「あ、あぁ。それで良い。服を着てくれ。」


「…はい。」


服を着終えたニルを見て、やっといつも通り……なんて事にはならなかった。どうしても魔族状態のニルが頭に浮かんできてしまう。それ程に美しい姿だったのだ。しかも一糸まとわぬ姿を見てしまったのだし…

接し方が分からなくなるぜ…


「ご主人様?」


「え?あぁ。なんでもない。

魔族の事とか、ニルの事については理解したよ。当然誰にも言わないが、ニルも誰かにバレたりしないように気を付けてくれ。」


「はい。」


「闇魔法が使える事を隠していたみたいだが、これからは気にせずに使ってくれ。闇魔法が使えるから魔族だと確定するわけじゃないからな。俺が否定すればなんとでもなる。」


「分かりました。」


「魔族…については、偏見も無いし、接点があれば良いんだが…」


「申し訳ございません…私の覚えている事は、これだけでして…詳しい事や、今の状況については一切……」


「十年以上も前となると、覚えていなくても仕方ない。ちょうど神聖騎士団が動き出した頃に捕まったんだ。今の状況が分からないのも当然だろうし。

魔族の事は俺もよく知らないが、気にかけてみるよ。」


「ありがとうございます。」


一通りニルの話を聞いたが、予想外の展開だった…


「なるほどなー。ニルが色々と出来たり、たまに大人びて見えたのは、本当は十七歳だったからなのかー。」


「黙っていて申し訳ございません。」


「話してくれて嬉しかったって言ったろ?もう謝るな。」


「……はい。ありがとうございます!」


「あぁ……さてと、そろそろ戻るか!」


「あ、あの!」


「??」


ニルは頬を朱色に染めて、俯き加減に俺を引き止める。


「戻る前に、もう一つだけ宜しいですか?」


「まだ何かあるのか?」


「その……ご主人様にこれを受け取って頂きたいのですが…」


ニルの小さな手の上に、小さな三角形の黒い物が一つ乗っている。


「これは…角か?」


「はい。魔族の角は、十歳の時に生え変わるのです。」


乳歯にゅうしみたいだな。」


魔族についてはほぼ何も知らないから、当然角についても初めて聞く。


「その…これを一つ受け取って頂きたいのですが…」


「構わないが…」


コロコロとした可愛い角を受け取ってよく見ると、端には小さめの穴が空いている。


「何か特別な意味があるのか?」


「いえ。特に意味はありません。私なりのケジメ…と言いますか、覚悟の様なものです。騎士が王に剣を捧げる様なものとお考え下さい。」


「なかなか大きな覚悟だぞ?!」


「覚悟は既に出来ています。それを形にしたもの…というだけの事です。」


ニルの顔は真剣そのものだ。茶化したりする類の覚悟では無い。


「……分かった。大切にするよ。」


「ありがとうございます。」


角に空いた穴がちょうど良く、シルビーさんとプカさんに貰ったネックレスの紐に通して一緒にしておく。


「これで無くさないな。」


「わ、私にも紐を…」


「あー。そうか。角のもう一つはニルが持ってるのか。」


インベントリから同じ様な紐を取り出して、同じ様にネックレスを作って掛けてやる。


「どうだ?」


「はい!ありがとうございます!」


満面の笑みで返事をするニル。


「戻るか。」


「はい!」


出る前にもう一度だけ振り返り、美しい景色を見る。きっとこの景色は、色々な意味で忘れられない景色になるだろうと感じた。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



ニルが魔族だと知った次の日から、俺とニルは工房でのアイテム作成に精を出していた。

イガルテで入手したカビやキノコのほとんどを、使い易いように加工出来た時には、三日が過ぎていた。


「一先ずこれで良いだろう…」


「や、やっと終わりましたね…」


インベントリの中には当分は使い切れない程の作製したアイテムが入っている。


「二人でやるには数が多過ぎたな。でも、これで色々と戦闘の幅も出来たし、大変だった分の見返りはあるだろう。」


「そうですね。色々と便利な物も出来ましたし。」


バンッ!


「シンヤさん!ニル!」


ペネタの豪快な登場再び?!


「っ?!だ、だからノックくらいしろってペネタ。」


「どうかされたのですか?」


「ダニルとパピルの行き先が決まったわ!」


ペネタが嬉しそうに報告してくる。


「こんなに早く…?大丈夫なのか?」


「えぇ!もちろんよ!早く来て!」


「えっ?!姉様?!」


またしてもニルがペネタに拉致されてしまう。


「ご主人様ぁ!」


ニルの叫び声を追って付いていくと、いつもペネタが作業している部屋に辿り着く。


「入るぞー。」


ガチャ…


扉を開いた先には、満面の笑みを浮かべるペネタと、その前に緊張した顔で背筋を伸ばして立っているダニルとパピル。


「二人共…その格好は…」


二人は今までのラフな格好とは違い、ピシッとした薄緑色の服を着ている。


「私の親衛隊見習いよ!」


「またよく分からん肩書きだなそれ。」


「二人が王城付きの兵士になりたいから、衛兵に組み込んでくれないかって言ってきたのよ!だからどうせなら親衛隊に入ってもらおうと思ったのだけれど…」


「それは流石に色々な所から反発や苦情があるだろうな。」


子供で新参者が族王の親衛隊となると、さすがになんでだ!ってなるだろう。


「私が良いって言っているのに…変よね。」


首を傾げて聞いてくるペネタ。


「変なのはペネタの方だろ。」


「それは冗談だけれど、信用出来る人に親衛隊は務めて欲しいの。

だから、二人が兵士として、親衛隊として強くなるまでは、見習いという形で頑張って貰う事にしたの!我ながら良い考えだと思うわ!」


「……新しい肩書きを勝手に作ったのかよ…まあ族王はペネタだし良いけどさ…

それより、ダニル。パピル。二人はそれで良いのか?」


「最初はお断りしようとしたのですが…」


「ペネタ……」


二人の意向を無視して強引に進めたな……


「別に兵士なら衛兵でも親衛隊見習いでも変わらないでしょう?それに、二人共了承してくれたわ。」


「どちらにしても、親衛隊を目指しているなら、風当たりが強くても、最短の道程を進んだ方が良いと納得したのよ。」


パピルの言っていることは、まあ合理的な意見だ。わざわざ遠回りする必要は無いと思うが、その分周りからの反発も凄いだろう。それを黙らせる実力を付けるまでは大変な思いをする事になる。


「二人がそれで良いなら俺達から文句は言わないさ。好きにしたら良いと思うぞ。」


「ほらね!シンヤさんも賛成してくれたわ!」


ペネタがやっぱり!と両手を合わせる。


「なんだ?俺の賛成を得るために呼んだのか?」


「二人が、シンヤさんにはちゃんと賛成してもらいたいって言うから連れて来たのよ!

二人にとってはシンヤさんが保護者みたいなものだからね!」


「そういう事は先に言ってくれよ……」


「良いじゃない!結局結果は変わらないでしょう?」


「確かにそうだけどさ…」


「これからは二人共頑張るのよ!」


「「はい!」」


ペネタがここまで気にしてくれているならば、二人共やる気は十分だろう。


「それともう一つ、シンヤさんに話があるの。少し残ってもらえるかしら?」


「分かった。」


ダニルとパピルが退室し、ペネタと向かい合って椅子に座る。


「話っていうのは?」


「これよ。」


「…書簡か?」


ペネタが俺に書簡を手渡してくる。


「先程街の外から届けられたものよ。シンヤさん宛にね。何かあるといけないから、一度開かせてもらったわ。読んではいないから安心して。」


「俺宛に?………これはプリトヒュからの書簡だな。」


という事はナームの部下が届けてくれたのだろう。


「獣人族王の…何が書いてあるのか聞いても良いしら?」


書簡を開いて内容を確認していく。


「えーっと…………どうやら、獣人族王に対して救援要請が来ているらしい。」


「救援要請…?どこからのものかしら?」


「ここから南西に向かった先にあるマニルテ荒野という所からの救援要請みたいだ。」


「マニルテ荒野…?」


「俺は行ったことが無いな。」


「私は見た事があるけれど、あんな所に住んでいる人が?」


「どういう場所なんだ?」


「名前の通り荒野ね。草木はあまり生えていなくて、土がむき出しになっているわ。

ここからだと一週間くらいは馬車で移動する必要があるわね。それに、かなり広い範囲に渡って続いているから、案内無しに渡ろうとすれば大変な事になると聞いたわ。」


「そんな場所からの救援要請…?

一応、その荒野で生活している少数民族が居るとの事らしい。

獣人族とは交流があって、頼る先は他に無いらしい。詳しい民族の特徴とかは書いていないな。」


「書簡は本物みたいね。という事は、本当にあの荒地に少数民族が住んでいるという事だわ。それにしても…色々と曖昧な話ね?」


「そうだな。少数民族についても、どこにいるかについても…かなりふわっとしているな。」


「何か理由があるのだろうけれど…行ってみないと何も分からないわね。」


「ここからだと最短で一週間。荒地に着いてからの事も考えると十日くらいの旅路だと考えた方が良いか。」


「直ぐに向かうのかしら?」


「書簡の内容的には、切迫している状況ではなさそうだ。ただ、放置しても良いかと問われれば、そんな事は無いらしい。それに…どうやら俺を指名してきているらしい。

少数の利を活かして戦っているが、神聖騎士団もかなりしつこく追ってきているとの事だ。」


「神聖騎士団……本当に嫌な連中ね。私達も警戒を緩めないように気を付けないと…

シンヤさん。私達はもう大丈夫だから、行くなら行ってあげて。」


「まだ返事は来ていないだろ?」


「一筆書いてくれただけで十分よ。

そもそもシンヤさん達はそういう人達の為に動いているんだから、私達だけで独占してはいけないわ。

シンヤさん達にこれ以上頼るのはただの甘えでしかないわ。」


キリッとした顔になるペネタ。


「…族王らしくなってきたな。」


「族王だからね。」


彼女の決意はピクリとも揺らがない。それが目を見て感じ取れる。


「分かった。今日中に皆に挨拶して明日には出るよ。」


「分かったわ。本当に何もお返し出来ないけれど、ごめんなさいね。」


「米とか醤油とか貰って大満足だから気にするな。」


「本当に…ありがとう。」


その日のうちに、顔見知り全員に挨拶を終えた。

毎度旅立ちの日は少し寂しくなるが、そのおかげでまた必ず来ようと思える。


「気を付けてね。シンヤさん。ニル。」


「はい。行ってまいります。姉様。」


「いつでも戻ってきてね。」


「はい!」


ペネタに別れを告げ、王城を後にする。


「本当に少しずつですが、この街も活気を取り戻してきていますね。」


「そうだな。完全に元に戻るまではまだ時間が必要だとは思うが……きっとペネタが族王なら、いつか、遠くない未来にエルフ族は元よりずっと繁栄するだろうな。」


「…はい!」


こうして俺とニルはヒョルミナを旅立った。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「ニル!行ったぞ!」


「はい!」


ガキンッ!


「くっ…硬すぎて!あっ!」


「俺が出る!体勢を整えろ!」


「は、はい!」


俺とニルはヒョルミナを立った後、南西へと向かっていた。馬はヒョルミナで調達して、馬車を使って進んでいるが…この方面は街も村もなく、道もないし、人気ひとけは一切無い。

そのせいで、この方面にはモンスターが数多く存在しており、行く先行く先でモンスターとの戦闘が発生していた。


今もロックバードと呼ばれるBランクのモンスターと戦闘中だ。全身が石のうろこで覆われた二メートルもある鳥型のモンスターだ。

飛行からの攻撃を行いつつ、初級の土魔法を使うモンスターだ。飛行だけでも厄介なのに、魔法まで使い、何より全身を覆う石の鱗は半端な攻撃を受け付けない。


いくら小太刀の性能が良くても、それを振るうニルのステータスが低ければ、ロックバードの鱗は切り裂けない。魔族の姿になれば体格も変わるし、色々とステータスも上がるだろうが、今の姿では限界があるのだろう。


ガリガリバキッ!


断斬刀がロックバードの鱗を剥ぎ取り、傷口を作る。


「グエェェ!!」


「ニル!傷口を狙え!」


「はい!」


俺の前に割り込んだニル。


「グエェェェェ!」


ロックバードの目の前に、魔法陣が描かれていく。モンスターは指で描く必要が無く、唐突に魔法陣が描かれていくから実に読みにくい。


「ニル!」


「大丈夫です!」


ガンガンッ!


尖った石礫がいくつか飛んでくるが、ニルの盾に防がれ、落ちていく。やはり遠距離の攻撃には反撃が出ないらしい。


「はぁぁ!」


ザシュッ!

「グエェッ!」


しかし、盾を使いながら前に出たニルは、見事に一撃を加える。

体勢を崩したロックバードが羽をばたつかせてフラフラと飛行する。


「トドメだ!」


俺の描いた魔法陣が緑色に光り、ランブルカッターが放たれる。


ガンッ!バキッ!ブシュッ!


何度も飛んでくる風の刃を止められず、石の鱗が剥がれ落ち、ロックバードの首が飛ぶ。


ドサッ…


「やりました!」


「最後のは良かったぞ。よく潜り込めたな。」


「体が小さいのも一つの利点ですね!」


「そろそろ昼だし、ロックバードの肉でも焼いて食うか。」


「はい!お任せ下さい!」


ニルはナイフを取り出してロックバードを解体していく。モンスターの解体は、奴隷の役目でもあるため、最初からそこそこ上手かったが、少し教えたらかなり上達した。

教えてくれと頼まれたから教えたが、今ではかなり手際よく解体してくれる。


「ご主人様!解体出来ました!」


「ありがとう。」


「どうやって食べますか?」


「ふふふ……今日はひと味違う焼き鳥といこうか。」


「あれを使うのですか?!」


「そう!これだ!奇跡の調味料!醤油!」


「ゴクリ……」


俺が醤油を取り出すと、ニルは生唾を飲み込む。


「既にこの数日でニルもこの醤油の凄さには気が付いているとは思うが、今日は更に凄いぞ。」


「更に……ですか?!」


「タレを作る!」


「醤油で…タレ…ですか?」


「作り方は簡単だ。醤油、砂糖、後は酒を入れて煮詰める。これだけだ。他にもニンニクとか入れても良いんだが…まあ最初はベーシックにいこう。」


「簡単ですね…って、砂糖ですか?!そんな高級な物を?!」


「砂糖を入れないと美味さ半減だからな。甘辛い所が良いんだよ。インベントリの中に砂糖は沢山あるし、使うのは少しだからそんなに気にするな。

それより、タレは俺が作るからどんどん串に刺していってくれ。」


「わ、分かりました!」


焚き火の上でじっくり煮込んでいくと、いい匂いが立ち上る。


「す、凄くお腹の減る匂いです…」


「これが醤油の魔力。」


「醤油の…魔力…」


立ち上る香りに俺もニルも魅了されていく。


「串に刺せたらどんどん焼いてくれ。出来たやつからタレを付けて炙ってもう一度付けて食う。これが最強。」


「さ、最強…」


「余った分はインベントリに入れて取っておけるから一気に作ってしまおう。」


「はい!」


二人でせっせと串焼きを作り、全てを調理し終えた所で、やっと昼食にする。


「あえてここまで食べなかった事によって、美味さは倍…いや、三倍にもなっているはずだ…」


「串焼きが光って見えます…」


ニルももう食べたくて仕方ないらしい。


「では頂くとしよう。」


「はい。」


「「いただきます。」」


ニルは未だに俺が食べないと手を付けない。そこは引けない所らしい。ならば先に頂こう。

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