第四十九話 内政チートなら任せろ!

「いまこそ僕の用意していた内政チートが火を噴く時! 窒素リン酸カリウムで収穫量倍増! 石炭で技術革命! トドメは複式簿記で書類革命じゃあっ!!」

「最期がショボい気がするけど?」

「何を仰るウサギさん!? 書類の一新は今しかできない急務です! 統治者が一掃されたこのタイミングでなければ、官僚の意識は改善できません!」

「……ジェラルド、おまえ、ウザい」

「姉御、こいつは本当にジェラルドか? 我の知ってるジェラルドじゃない。キモい」


 革命指導者会議が一掃された後のグランディア領。キリハはあっさりとこの地の領主として返り咲いていた。

 公平と健全を謳った革命軍の杜撰な統治に領民たちが失望したのもあるが、指導者会議に潜入したキリハの有能さが知れ渡っているのも大きい。キリハが領民たちに女公爵であることを告げても、彼らはあっさりとそれを受け入れ、彼女を新しい領主と仰いだ。

 まぁ、ここまでは良い。支配者の交代など、実のところ民にとって些事なのだ。問題は、新しい支配者が良いか悪いかだけだ。

 この点では、キリハには思いもかけない味方が居た。

 これまでキリハに振り回されるだけだったジェラルドがサポートキャラとして覚醒し、「こんなこともあろうかと! こんなこともあろうかと!」と言って、用意していた内政チートを惜しげもなく投入した。

 ちなみに何度も「こんなことをあろうかと!」言うのがウザく、十回目を繰り返した当たりで黙らせた。

 

「僕は本来、転生悪役令嬢のサポートとして現世に降臨したんですからね。内政チートの用意は万全です! いよいよ僕の存在理由を示す時!」

「……まぁ、ウザいけど役に立ってるし、本人が嬉しそうだからいいか」

「だがキモいぞ、姉御?」

「ジェラルドだからしょうがない、って思っておけ。そうすれば大抵のことはスルーできる」

「……それもそうだな」


 ショタ垂涎の半ズボン姿のヒエンが、マカロンを口に放り込んで頷いた。

 ちなみに紅蓮竜の姿を見せて飛び去ったヒエンだが、キリハが潜伏している間、王都のリッタニア侯爵令嬢に保護されていた。

 後にキリハがヒエンから聞いたところによると、リッタニアはヒエンとお茶会とデートを繰り返し、美味しいものを食べるショタ姿のヒエンをとろんとした目で眺めていたらしい。しかも、一緒にお風呂に入……りかけたのだが、リッタニアが鼻血を出してぶっ倒れたのでお風呂だけは回避できたらしい。

 危ないところだったなとキリハが肩を叩くと、ヒエンは疑問符を浮かべて首を傾げた。さすがのドラゴンも、まさか自分が貞操の危機だったなどとは想像の埒外らしかった。


「これまで、キリハ様の暴力と悪略に振り回されてましたが、これこそが私の本来の役割! このまま役立たずで終わるのではとヒヤヒヤしてましたが、いよいよ私の時代ですよ!」

「……本当に嬉しそうだね……」

「そりゃそうです。ここまでまったくシナリオにないイベントの目白押しでしたからね! 本来はこの内政チートも戦争後に使用する筈のものでしたが、ここまで来たらもったいぶらずに一挙放出です!」

「……戦争?」


 聞き流せない一言に、ジェラルドの話に上の空だったキリハがぴくりと反応した。


「……そういえば『反乱なんてイベントは後味悪くなるだけ』って言ってたな? それじゃもしかして、反乱じゃないイベントもあるってことか?」

「ええ。『このいと』の後半にしてクライマックスでは、最後の攻略対象がヴィラルド王国に戦争を仕掛けてきます。ファンタジーでお馴染みの、魔王が」

「…………」


 とりあえず、ジェラルドの頭を殴っておいた。

 反乱は終わり、戦争が始まる。

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