第118話 一見静か

 エルスの部屋の前に集いし俺達は互いに手を重ね合わせ自らに気合を入れる。


「いいか?意地でもエルスを部屋から引っ張り出すぞ!」


「任せたまえ」


「逃げ場は無いの!」


「……よし、いざ行かん――」


「滅びの地へ」


 てめぇだけで行ってこい。


 相変わらず纏まりが無いがこうして一息ついた俺達は一旦しゃがむ。そして俺は話し始めた。


「1つ目の作戦、情に訴える」


 泣き落としが近いがそれでは向こうが得するだけで終わってしまう。だからこそ言葉で訴えるのだ。エルスに効くのかは未知数だが俺達は硬い……とは言い切れないが絆で結ばれている。


「勝機はあるとみた」


「ふっ、容易なことだね」


 ハクヤはいつもの通り自信の塊。だがイブは少し首を傾げている。


「何を言えばいいの?」


「そうだな……イブには難しいか?まあ、簡単に説明すると取り敢えずエルスに一緒にいたいと伝えること、あとは寂しいとか言ってくれればいいぞ」


「会いたい……なの?」


「そうだな。その気持ちを伝えるんだ」


「……分かったの!」


「ならばよし。ハクヤ、イブ、第一作戦開始といこうか」


「勇者タイムスタートだね」「おーなの!」


 一見静かだがまずは扉を叩き、エルスがいることを確認する。

 ―コンコン――。


「エルス、元気か?」


「いません」


「……美人でスタイル抜群のエルス様、元気か?」


「……話だけはここで聞きます」


 いることを確認した俺達は互いに目を合わせ合図を取る。声の大きさ的に部屋の奥にいることをは間違いないが問題は無いだろう。   


「……エルス、聞いてほしい」


「ワタルさん?」


「ああ、俺達…エルスが部屋に籠もってから長い時間を経て大切な事に気付いたんだ」


「……私が籠もってからそんなに時間経ってましたっけ?」


 やっべ。


「……短い時間でも感じることはあるんだ」


「そうさエルス、これはワタルがついさっき即興で考えた事だからね。しっかり聞いてあげるべきだよ」


 なにこれ普通にスパイいるじゃん。


 既に崩壊気味だがまだ挽回の余地はあるはずだ。ここは拗れないうちに俺とハクヤは撤退。イブに任せるとする。


「……あの、それでワタルさん達は何が言いたいんですか?お、お姉さまに頼まれたんですよね……」


 幸いなことに向こうから会話のきっかけが飛んできた。ここぞとばかりに俺はイブへと合図をする。――イ・マ・ダ・!

 それに気が付いたのかイブは首を縦に振り大きな声で、


「イブの出番なの!頑張ってエルスおねーちゃんの情に訴えるの!」


 うちのパーティー、スパイしかいねえや。

 


✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦

 

 ヒューと冷たい風が俺達を襲う。

 第一作戦を諦め撤退し、再度俺達が集まったのは協会の屋根の上。


「対話は諦めたのかい?」


 思わず拳が出そうになるが我慢。ここからは慎重にならなければならない。


「次の作戦は強引手段。って訳で窓から侵入する」


 本来は扉を破って引っ張りだそうと思っていたが協会のシスターさんからの要望で窓からとなった。修復費が一桁違うらしい。


「本職ってやつだね」


「侵入は慣れてるの」


 俺達は盗賊団だったのかもしれない。


 そんな馬鹿な話も程々に俺は地面を覗く。

 地面との距離は相当あり、もし足を滑らせれば命はない。


「……高いな」


「ギリ手を伸ばせば届く距離だね」


 胴体引き千切れてんのか?


「落ちたら足がジーンってするの」


「着地の際に横へ飛べば多少軽減されるらしいね」  


 これ俺が正常な方であってるよな。

 


 身体のスペック差を見せつけられるも作戦は変わらない。

 妙に危険な第二作戦の始まりだ。

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