第105話 子供ながらに
「聖女様って……」
俺は突然知らされた事実に混乱しつつも、無理矢理頭を働かせる。
「えっと…、あの人が聖女でエルスがその妹で……え?……嘘じゃないですよね?」
「事実でございます」
シスターさんはにっこりと返す。
そんな俺が言葉に詰まる中、ハクヤが聖女アリアス様とエルスを比べるように見ながら言った。
「ふむ、これに関しては僕も予想外さ。なかなか活発そうな聖女様だね」
「……ま、その辺は同じだな。俺も聖女様と言えば綺麗なエルスみたいなのを想像してたところだ」
「その言い方だと私が汚いみたいじゃないですか!」
その言い方だと自分が綺麗だと思ってるみたいじゃねえか。
高貴な場所でいつも通りの争いをしている俺達だが今回はそれだけで終わる訳がない。
長く、綺麗な金髪をかき上げながら無言で歩いてくるアリアス様に気付いた俺とエルスは本能的に正座をする。
「……少年、君が何故正座をする?」
「お姉さま、ワタルさんはこの状態で踏まれるのが好きなんです」
ぶっとばすぞ。
「いや…お気にせず……」
そっと退いた俺はハクヤの横へ移動、この後に及んでソファーをパンパンしているイブを止めつつエルス達に注目した。
改めて見るとアリアス様はエルスによく似ており、互いに共通の首飾りをしている。だがアリアス様の服装自体はシスターと言うよりまるで騎士の様な――
と、考えているも突然聞こえた怒声に俺は我に返った。
「エルス、何故逃げたッ!お前の持つ回復能力は私を優に超えるものだ。その力があれば歴代でも最上位の聖女に――」
「そういうところですよッ!お姉さまは…何も分かってない……!」
「何が分かってないと言うんだ!私は常にエルスの事を考えて指導していたはずだ!」
「……ッ!」
ますますデットヒートしていく争いに俺はなんとか仲裁に入ろうとする。
「ま、まあ…エルスも…アリアス様もまずは落ち着いて座って――」
「そうだね、互いに感情任せで話し合いにすらなっていないさ。僕も混ぜてもらおうか」
お前は部屋の隅で座っていてくれ。
「……君達は何だ?私達の家族か?それとも深い繋がりのある友人とでも?」
「呪い的な繋がりです」
「なるほど、お帰り頂こう」
そりゃそうだ。
「…それでいいですよ。こんな所にいても良い事なんてひとつもありません……。帰りましょうワタルさん」
「お、おい…本当にそれでいいのかよ」
パッと立ち上がり俺の肩に触れたエルスは部屋を出ていこうとする。
「ま、待てッ!また逃げる気か!」
「触らないで下さいッ!どうせお姉さまは私に聖女の座を押し付けて騎士になりたいだけなんですから!」
咄嗟にアリアス様が手を伸ばすも、エルスは振り払い部屋の出口へ向け走り出した。
「おいエルスッ!」
「駄目なの!」
「へっ!?」
予想外のことにエルスが声を上げるがもう遅い。イブはエルスの腰辺りをガシッと掴んでいる。
「え?イブちゃん!?ちょ、ストップ!ストップでお願いします!服が!私のあられもない姿が!」
イブに引っ張られ盛大に転んだエルスが助けを求めている……。が、もう少し待っても良い気がする。
「だ、大丈夫ですよイブちゃん!変なとこへ消えたりしませんから!」
「……この喧嘩から走り出す流れで逃げられなかった展開は初めて見たよ」
よく分からない驚き方をしているハクヤは無視するとして、イブが引き止めたのは驚いたな。子供ながらに何か大切なものを感じ取ったのかもしれない。
「ここはおっきいから迷子になっちゃうの」
そうでもなかった。
「ふっ、あれだけ言って走り出し、今ここにいるのはどんな気分だい?」
やめてやれよ。
実際エルスは逃げる機会を失い、アリアス様含め気不味そうにしている。
そんな地獄のような空気が流れる中、どうするべきか考え抜いた俺はひとまず流れを変えようとするのだった。
「……あの、取り敢えず呪いの王冠解呪お願いします」
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