第101話 十中八九あの液体は
街の出入り口へ向かう俺達は急いでマップを開く。そう、俺達はハクヤのスキルでこの街へ転移したため、近隣の街すらも知らないのだ。
「くそ!こんな事なら事前に脱出経路を確保しておくんだったな……」
「脱出経路とか言わないでくださいよ!泥棒みたいじゃないですか!」
「泥棒…義賊……勇者……教会に寄付とでもいこうか」
「あのな…、今お前の戯言には付き合っていられな―――いや、ありだな」
ここで俺はダンジョンでの映像を思い出した。確かあの話に出てきたのは『聖職者の楽園エルクラウン』。
「……なぁ、一つ聞くんだが俺達の本来の目的を覚えてるか?」
「世界征服ですよね」
「世界征服なの」
「世界征服だったはずだね」
奇跡の一致やめろ。
「はぁ……俺達の本来の目的はこの呪いの冠を外すために呪いを解呪することが可能な人へ会いに行くことだろ?そこでだ……」
俺は周辺の街を記したマップを広げ、ある場所へと指をさす。
「ここ、俺達はこれからこの『聖職者の楽園エルクラウン』ってとこに行く」
「ッ!?」
誰かのつばを呑み込む音が聞こえた。その人物はやけに顔色が……、
「ん?エルス、どうかしたのか?」
「え?あ、その……どうしたらエルクラウンへ行く事に?」
「よく考えてみろよ、聖職者の楽園って言うぐらいだぜ?解呪が出来る人の一人や二人くらい――」
「い、いませんよ!た、多分……」
口をモゴモゴとさせながらやけに焦っている様子を見せるエルス。
普段とは違い、やけに腰が低いところを見るに何かエルクラウンとは関係があるのかもしれない。
「……何隠してんだ?」
「い、いや…その…特には無いです……」
聞かれるのを嫌ったのか大人しく引き下がるエルスに俺は違和感を覚えつつも目的地を設置。ひとまずはマップを見てこの街の出入り口へと向かうのだった。
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街を出ること自体はとても簡単だった。街の出入り口には衛兵が数人立っており、ギルドカードを見せることで通過することが可能なのだが、引き留められることも無かった。
もしかしたらまだ衛兵には伝わっていないのかもな。
「さて…唐突だがこれからエルクラウンに向かわなきゃな…ハクヤ、方向は?」
「分かるか分からないかで言えば分からないに近いね」
じゃあ、分からねえだろ。
「イブは覚えてるか?」
「なの!草が生えてる方なの!」
辺り一面平原で泣きそう。
そう、街の外には平原が広がっており、動物が群れをなして草木を貪っている。そんな大自然の中、俺はマップを片手に歩みを進めていく。
「これは……うん、そうだな。距離的には明日の昼には着きそうってとこか」
「って事は今夜は野宿ですか?」
「まあ…そうなるな」
「目を閉じたら二度と開かなくなるからね。君達も気を付けたまえ」
どうしてお前は雪山にいるんだ。
近くには小さな村も見えず、建物も無い訳だ。久々の野宿で緊張するが仕方がない。
予想はしていたので街を出る前に新たな寝袋は購入済みである。とくと使い心地を試してみようじゃないか。
そして、幸いにも使用機会はすぐにやって来ることとなる。
「よし、この辺で今日は野宿だな。丁度デカい木もあるし…」
合計何キロ歩いただろうか?途中、休憩はあるものの朝から歩き続け、気付けば太陽は沈みかけている。
「いや〜疲れましたね!ワタルさん!座ってくださいよ!今、コップに水を……」
「お、気が利くな」
シートを広げ、十分にスペースを作った俺達はどうにか一段落。気になることと言えばエルスの態度が良いぐらいだな。
先程まであれだけ不審な様子だったのに打って変わってこれだ。
「どうぞワタルさん!」
エルスから手渡しでコップを渡さ――
「……水に色が付いてるが?」
「……細いこと気にする男性ってモテませんよね」
こいつにとっては渡された水が赤色に染まっていることが細かいことらしい。
当然のごとく始まった言い争いは更にヒートアップ。
「何入れやがった!吐け!」
「トマトジュースの仲間ですよ!疑うなら飲んで見ればいいじゃないですか!」
「仲間って言葉はそんな万能なもんじゃねえぞ!てか結局トマトジュースですらないじゃねえか!」
何を企んでいるのかは知らんが確実に俺はエルスに狙われている。十中八九あの液体は眠り薬か毒薬。気を付けなければならない。
「イブ!間違っても飲んじゃ駄目だぞ!」
そう振り向いた先にいたのはコップを片手に眠るイブの姿だった。
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