第88話 比較的穏やか
「ナイン・ブラスターッ!!」
双頭の竜が吹き飛び、ゴリラと魚が合体したような謎の生物が蒸発する。これは戦闘などでは無い、一方的な侵略だ。
「来て、アゼルシオン!ええええいいっ!」
飛んできた細かい石にギャーギャー文句を言いながらも勇者パーティーに寄生して歩みを進める俺達。
かなり順調に進んでおり、上層は余裕。中層もそろそろ終わりに近いはずだ。
「流石、本物の勇者が揃ったパーティーは危なげなく進んで行くのな」
「なら私達も今は危なげなく進んでいるので実質勇者パーティーですね!」
お前がそれでいいならそれで良いよ。
「ん……いつ奇襲するの?」
しません。
「ふむ、だがそろそろ中層も終わりさ。ここらで彼らを抜かして先に行くのも手ではないのかい?」
「ま、まあ…ルイ達も今のところ宝箱を拾った様子は無かったし下層に固まってるなんて事もあるよな」
決して忘れてはならないのが俺達の目的はダンジョン攻略では無いと言う事だ。ルイ達に最後まで付いて行ってダンジョンの最深部へ行ったところで何の成果も得られない。
「ではルイさん達が次に戦闘を始めたタイミングでさり気なく抜かすって事で!」
「……ったく。気付かれないようにな?」
「戦っている最中ならば足音さえ立てなければそう簡単に気付かれないさ」
「足音さえ立てなければですか……」
ルイ達が岩のモンスターと戦闘を始めたのはそれからすぐだった。
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
「瑠偉!このモンスター硬いんだけど!」
「あ、碧ちゃん!後ろ!」
テレポートした岩のモンスターがその巨大な腕を振り下ろす。
「くっ…!こっ…のぉっ!!」
寸前のところでアゼルシオンを振り切り難を逃れるミドリだが反動で手に痺れが入ってしまった様子。
テレポートで移動する為、ルイやユウガが狙おうとするもそう簡単には当らない。
「……あれってゴーレムか?」
「さあ?見たことないモンスターなので確かな事は…。このダンジョン固有のモンスターかもしれませんね。あ、これお水です」
「お、ありがとな」
「僕からも液体もプレゼントするよ」
「名称を言え名称をっ!!」
「飲んでからのお楽しみさ」
「……ッ!?!?」
命懸けの戦いとは裏腹に悲鳴を上げ逃げる俺と比較的穏やかにルイ達の戦闘を眺めるエルス達。
だが、そんな平和な時間は長く続くはずも無い。
「あっ!あちら向きでゴーレムが可愛くダンスを始めました!バレずに通行するチャンスですよ!」
可愛くダンスするゴーレムが気になり過ぎて仕方が無いが今は我慢。ルイ達が真逆を向いているうちに追い抜かすのだ。
「よし!足音たてんなよ!」
4人揃って腰を下げ、壁を這うように移動する。ここからは運、必死にルイ達が振り向かないように願うばかりだ。
「………」
「…………」
「………ゴホンッ」
「「!?」」
「音立てちゃ駄目なのっ!」
おい、この流れ2度目――
「あーあー!?あーあーあーっ!」
「おいバカッ!?声を大きい声で潰して何になるんだよッ!」
既に危ない状況だがルイ達は険しい顔でゴーレムと戦闘中。セーフってとこか?
再度沈黙が流れる。
「………」
「…………?」
「ふっ、チキンレーススタートゔぉッ!?」
「しーなの!」
とんでもない事を口走ろうとしたハクヤがイブに突き刺されその場に倒れ込むがあれは俺の知った事ではない。
白目を剥いて倒れたハクヤを引きずりつつもルイ達から見えない位置まで歩みを勧めた俺達はゆっくりと走り出す。
「今だ!バレねえうちに差をつけるぞ!」
「了解です!ハクヤさんの足片方持ちます」
「よし、雌豚!どっちにいけばいい?」
(右……その次は左……だよ…パパ…)
言われた通りの道を駆け抜け、必死に前へ進んでいるうちにやがてその階段は見えて来た。
「……でけえな」
「祭壇へ繋がってる……みたいな感じでしょうか?」
「供物ならハクヤがあるの」
送り返されるのがオチだろ。
「はぁ…行くしかねえか。なら戦力的に後ろは任せてくれ。戦闘は大して出来ないが警戒ぐらいは出来る」
「確かに……。でしたら私も後ろを警戒しますね!」
「イブも後ろなの!皆んな一緒なの!」
あーあ、誰も前向いてねえや。
後ろを向いた3名、気絶1名。前途多難な下層探索の開始である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます