第87話 一体感ある良いパーティー

 可愛らしいイブの声と俺の絶叫が混ざりながら穴の中で響き渡る。


「のー!」


「ハハハハ、ハクヤッ!!風魔法ッ!!」


「何が面白いんだい?」


 笑ってるんじゃねえよ。


 すると、落ちながらも冷静を保っている様に見えるハクヤは一呼吸。満を持して背中からデュソルエレイザーを取り出し唱える。


「ネオウィンド・トルネードバースト」


 剣の先端から巻き起こった竜巻は地面に激突、大量の砂を巻き上げるも俺達もその影響で落下の勢いが止まる。

 

「うお!?意外と上手くいくもんだな…」


「すみません…正直私、失敗はせずとも上層ぶち抜いて中層ぐらいまで落ちると思ってました」


 想像すると意外とありそうで困る。これは先程ギルドで聞いた事だが、ダンジョンの壁には本来特殊な防壁のようなものが貼られており、破壊することは困難らしい。

 前回それでもぶち抜いたのはハクヤの火力がイカれている証だ。


 楽々と降りた俺達は周りを見渡すが特にモンスターはいない。

 

「そういや、前回あのスライムって消し飛んだよな?ダンジョン内だし復活してたら危なくないか?」


 ダンジョン内のモンスターは一定期間で再び復活すると言われている。あれから時間も立ったが……


「そうですね…。私達の服代がこれ以上嵩むのもバカにならないですしゆっくり行きましょう!」


「ほう、石橋を叩いて渡る…だね」


「石橋は叩いたら壊れるの」


「……最近思うんだがイブにはもっと綺麗な光景を見せて優しい感性を育てるべきだと思うんだ」


「あれ?それじゃあまるで今は周りに綺麗な光景が無いみたいじゃないですか?」


「……あそこに顔を苦痛に歪ませたゴブリンが一匹――」


 言い終える前に俺の指差す方向へ駆けていくエルス。

 よく見て欲しい、あの性癖の歪んだド変態シスターがうちのヒーラーだ。


「ふ、見るに堪えないね。だが安心して欲しい。僕は勇者、その神々しい姿は皆に良い影響を与えると言われている」


 そしてこの虚言癖勇者。このままではイブの将来が危うい。

 俺は、騙された!とばかりにシスターとは思えないパンチを繰り出してくるエルスを相手にしつつ頭を抱えた。

 ちなみに肝心のイブは雌豚と仲良く壁に俺の絵を描いているようだ。だが、


「…イブ、その絵の俺は何をしてるんだ?」


「……ん!これは…夜ご飯の時におかずを取るふりしてエルスおねーちゃんの胸元を覗くおにーちゃんなの!」


「きゃあああああああああああっ!!!!」


「ちょっとッ!?私より先に悲鳴上げるのやめてくださいよ!」


(……凄い……頻度で……見てる…よ…パパ)


 雌豚にすら晒し上げられた俺は壁に向かって蹴りをかますも反動で足を痛める。


「むっつり……ってやつだね」


 目撃者消すべし。


 そんな無駄な取っ組み合いがはじまる滅茶苦茶なダンジョン内に突如、重い金属音が響いた。


「……誰がいんのか?」 


「剣…ですかね?いや、もっと重い武器のような気も……」


 その音を機に口を閉じた俺達は互いに合図を取ると近くの岩陰に隠れる。


「ギルドの調査員でしょうか?」


「ありえるな……。見つかったら冒険者登録解除もありえるか?」


「二度目の追放…いい響きだね」


 もうお前だけ顔出してこいよ。

 

 足音は近付き声が聞こえるようになってくる。若い男女のような声だが―


「複数人いるな。イブ、気になっても顔出しちゃ駄目だぞ?」


「なの!」


「我慢する人生……つまらなくないかい?」


 空気の読めない勇者もいるがエルスと二人がかりで押さえ付け無理矢理解決する。


 そして、


「あ〜あ、またここに戻って来たのね。瑠偉は大丈夫?……って、べ、別に心配してる訳じゃないけどね!はい、水筒」


「はは…ありがとう碧。うん…それよりこのダンジョン、やっぱりモンスターのランクが見合ってないみたいだ」


「哀川君の言う通りモンスターの強さがダンジョンに見合ってないのは確かですね。報告事項に書き足しておきます」


 聞こえたのは鳥肌が立つようなバカップル染みた会話と知的な声。ふと狙撃でもしてやろうと思ったがこの声には聞き覚えがある。


「おい、あれルイ達だろ」


「そのようだね。声をかけるかい?」


「……いや、今出て行ったらまた迷惑をかけることになるだろ?一度黙っていてくれとお願いしたのに更に貸しを作るのはな?」


「ワタルさん、本心をどうぞ」


「後ろから着いてけばモンスターを戦わなくて済むしいいとこ取り出来そうじゃん」


「賛成で」「賛成だね」「そうするの!」


 おい、これもう一体感のある良いパーティじゃねえか。

 皆考えることは同じ。寄生ダンジョン攻略の始まりだ。

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