第60話 領主の部屋
「さて……3階か?」
「そうですね。ただ、相当館内が広いので領主を直接殺りに行くならまだ注意が必要かもしれませんね」
そろそろあなたの動向にも注意が必要かもしれませんね。
俺は床の穴を覗き込み、壁が突破されていない事を確認するとハクヤに命じて穴を埋めてもらう。
「っし……あいつらが気付かないうちに移動しようぜ。どっち行く?」
「広くて分かりづらいですからね……。何か手掛かりがあれば―――」
そう言ってエルスは近くの扉に手を掛け体を寄せる。だが、そんな寄せたはずの体は扉にもたれ掛かる事も無く……
「ん〜?ん?へ?ひゃっ!?」
「おいバカッ!」
俺が手を伸ばすも支えきれずそのまま揃って転倒。ニヤニヤ笑うハクヤを横目に扉ごと部屋へなだれ込むように倒れる。
「痛って……一体何が……」
「ちょっとワタルさん!男なら今のは支える場面じゃないんですか!?」
「重いんだわ」
「っ!?」
特に怪我をした様子もなく立ち上がった俺は体育座りでショックを受けるエルスを無視し辺りを確認。
「ったく…何で扉が急に……」
「そこの自称スタイル抜群の体重だね」
追い打ちやめろ。
半泣きのシスターがそこで睨んできているがきっと俺のせいでは無い。
「それより見たまえ」
「あ?」
「この部屋、雰囲気が少し違わないかい?」
ハクヤの言う事は最もで、先程までの部屋とは何かが違う。
こう……かなりゴージャス?になった感じだろうか?
部屋の奥には見たこともない机、そしてその後ろには高そうな椅子が存在感を放っており、横の棚にはワインが飾られている。
「領主の部屋……みたいだね」
「多分そうだな。何か手掛かりがあると良いんだが……」
「なら、取り敢えず入りましょうか!」
「……マジでお前らニワトリかと思うほどメンタル回復早いよな」
「僕なら3歩、歩く前に相手の記憶を消すことが可能だよ」
聞いてない。
周囲を確認し、部屋へ入ってみると改めてその豪華さに驚かされる俺達。
バラバラに部屋を散策し、それぞれが気になった物を調べる。
「へぇ〜やっぱり普通の部屋じゃないみたいですね。あ、見て下さいよ!これ最高級の回復ポーションです!複数回使える優れものですよ!」
そんな中、突然エルスが何かを見つけたようで俺のところまで持って来た。
「お、良いもん見つけたじゃねえか!これで少しはイブ奪還が楽になるかもな」
「はい!もちろん私の役割が薄くなりそうなので壊しておきますね!」
「おう!――――お?」
目の前で無惨にも叩きつけられ砕かれる最高級ポーション。理解に苦しみ口から言葉が出ない俺だが、仲間の奇行は続く。
「おや?ワタル、これはあれじゃないかい?確か……そう、最高品質の魔力盾だね。この前ワタルが買ったやつと違って魔力補強も付いた優れものさ」
「お、ラッキーだな。俺の魔力盾は宿に置いて来ちまってるしそれ借りるか!」
「そうだね。仲間を守るのは勇者の役目だからこれは壊しておくとするよ」
会話しろカス。
ふんっと息巻いたハクヤは突然手から生み出した水流のブレードで魔力盾を真っ二つ。
甲高い金属と共にこれまで最高品質魔力盾だったものが俺の足元に落ちる。
「……揃いも揃って嫌がらせか?」
「違いますけど」「違うね」
無意識でこれかよ。俺、お前らが怖いよ。
少し残念だがポーションと魔力盾は別にマイナスになったわけでもないしそこまで気にする事でもないだろう。
「一通り見たが手掛かりになりそうなもんは無いな。もう出ようぜ」
もう手掛かりは無いと判断した俺は椅子に手を掛け、ハクヤとエルスへ呼びかける。
「ふふっ!なんだかその体勢だとワタルさんも貴族みたいですね!」
「なかなかイケてるだろ?ほら、こんな風に椅子に座れば―――」
上機嫌で椅子にダイブした時だった。
「………ッ!」
何かが足元にいる。いや、それだけじゃ無く何故か振動している様な……
「どうしたんだい?」
不思議そうに首を傾げるハクヤ。だがそんな事に反応している場合じゃない。
内心ビクビクしながらも恐る恐る机の下を覗く。
そんな俺の目に見えたものは丸みを帯びていて、震えていて、手が生えていて――ん?
「これ領主だろ」
「それは机です」
そうだけど違えよ。
俺の足元で震えていたのは領主だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます