第61話 地下室

「せいッ!」


「ひいぃぃぃっ!?」


 領主の潜る机を蹴り倒し、襟を掴んで引っ張り出す俺。絵面は完全に強盗、もしくはそれらに類する悪人だがこの場合は仕方ないだろう。


「おい、イブは何処にいるッ!吐けッ!」


「珍しい性癖だね」


 お前は出て行ってくれ。


「ば、場所は……おそらく地下の……」


「地下?地下のどこだよ」


「ゲート……のあった部屋だ…。うぅ…だ、だがまだそこにいるかは保証出来ない」


 なるほど、だからこの階にはあまり人がいないのか。

 ……いや、領主守れよ。


「あ、あんなバケモノだった知ってたら手は出さなかったんだッ!」


 領主は俺の手を振りほどくと部屋の隅で座り込み頭を抱える。


「マジでイブは何やったんだよ……」


「領主のこと殺っちゃったのでは?」


 じゃあこいつ誰だよ。


「ひとまず地下へ行く目的は出来たね。ここからが終盤、ボスに注意だね」


「何を言ってるのかは分からんが地下か…。領主が本当の事言ってるかも怪しいし注意しなきゃいけないな」


(本当……だよ?)


「お、雌豚。分かるのか?」


(うん……この人からママの匂いする……それに私……嘘分かる…)


「へぇ、随分と便利な能力持ってるんだな。やっぱハクヤ達とは違えな」


「待ちたまえ。僕がその辺のクワガタに負けるわけ無いだろう?」


 その辺のクワガタじゃねえけどな。


「お、だったらお前にはどんな便利能力があるってんだよ?あるなら言ってみろよ」


「ふむ、その……………家事が出来るね」


(……嘘…だよ?)


「だよな」


「………ッ!?」


 数分後、白目をむいたまま床に転がるハクヤを横目に、地下室へ行く方法を考えなくてはならない俺はひっそりと領主の机を探る。


「おい、この館の全体図は無いのか?」


「そ、そこの棚にあるっ!」


 領主が指差す棚を開けると中から巻物の様な地図が転がり落ちる。


「な?どうだ?いい加減そろそろ儂を開放せんか?今なら訴えないでやっても良いぞ?」


「って言ってるけどどうする?」


「まだ人質として活用出来ますよ。いざとなったら肉壁にも出来ますし」  


 シスターが肉壁とか言うな。


「ま、まぁ…そう言うことだ。イブを見つけるまでは拘束させて貰うぜ?」


「チィッ!ガキが調子に乗りおって……」


 領主が軽く呟いた一言だが俺はそれを無視し、地図に目を向ける。


「……なるほどな。このバツが書いてある地下室にイブが捕らえられてるって事か。一番早いルートは……ん?これ……」


「どうしました?」

 

 俺の表情が気になったのかエルスが横から覗き込む。 


「ほらこれ、このバツ付いた地下室この真下じゃないか?」


「あ、本当にそうみたいですね!好都合じゃないですか!これなら真下掘っていくだけでイブちゃんに会えますよ!」


「シャベルなら僕が持っているよ」


 一人でチマチマ掘ってろ。


「でも実際地下にはどう行きます?1階まで降りるとまた追いかけ回される気が……」


 そう、ご存知の通り2階では壁を取り壊す兵、1階には見回る兵がウロウロしている。

 正直に降りていけば必ず何処かで鉢合わせになるだろう。そこでだ、俺は先程使わなかったロープを取り出すと領主を見て言った。


「だからコイツがいるじゃん」



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦

 

「いーち……にーい……」


「3っと、そこです。《大変!魔物が襲来4マス下がる》ですね」


「イブは負けないの」


 その理屈は絶対に通らない。


 缶蹴りに飽きたこのサイコ幼女は現在すごろくに没頭、私含め5人体制で行っている。


「私の番です。それっ……5ですね。なるほど……《偶然見つけた宝箱にて財宝を獲得5マス進む》ですか」


 缶蹴りなどとは違い、動かないで済むこのゲームは実に都合が良い。このまま侵入者が捕まるまで耐えきりたいものです。


「大変ですッ!!領主様の部屋に侵入者が入ったとの情報が!」


 まあ、無理ですが。


 駆け込んできた兵は息を落ち着かせると背筋を伸ばして私の前へやってくる。


「コーレンス様の護衛は増やして構わないと言ったはずでは?」


「は、はい!実は…その…護衛を決めようとした際、15人でじゃんけんをしたため、決まらなかった模様です……」


 うちの兵は小学生しかいないでしょうか?


「そ、そして先程―――」


 と改めて兵が口を開いた瞬間、爆音が響き渡り、地下室の扉が吹き飛んだ。


「なッ………」


 私は口を開きながらも幼女の近くへ移動。 

 近く兵へもしもの場合の策を教えるとすぐに裏口から逃げるよう伝える。


「……来ましたか」


 扉付近には3人……いや、4人……ッ!?


 そして、そんなほぼ詰み状況を目の前にした私に追い打ちをかけるかのように彼…いや彼らは言った。


「おいお前らっ!この領主殺されたくなかったら大人しく言う事聞けッ!」 


 もはやどちらが悪なのか分からなくなった争いの始まりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る